五つの太陽
Five Suns
 アステカの創世神話では現在の世界になるまでに4つの太陽の世界が創世され、滅んだとされている。つまり現在の世界は5つ目の世界となるわけだが、それぞれはその太陽を支配する神と同様の属性を持ち、それが原因となって滅んでいる。従って現在の世界も地震によって滅びると予言されている。
五つの太陽
  属性 象徴する絵文字 支配神 住人 滅んだ原因
1 「夜」 ナウィ・オセロトル(4のジャガー) テスカトリポカ 巨人 ケツァルコアトルがジャガーに巨人を食べさせてしまった。
2 「空気」 ナウィ・エヘカトル(4の風) ケツァルコアトル (今とは違う)人類 風で太陽が破壊され、人類は猿に変えられてしまった。
3 「火の雨」 ナウィ・キアウィトル(4の雨) トラロック (今とは違う)人類 火の雨で太陽が破壊され、人類は鳥に変えられてしまった。
4 「水」 ナウィ・アトル(4の水) チャルチウィトリクエ (今とは違う)人類 洪水で太陽が破壊され、人類は魚に変えられてしまった。
5   ナウィ・オリン(4の地震/動き) トナティウ 現在の人類 地震によって滅びる


アステカの暦法
Aztec Calendar
 アステカでは260日暦、365日暦、584日暦の三つの暦が使われていた。260日暦は「トナルポワリ(Tonalpohualli)」と呼ばれ、おそらく元は産婆が出産日を計算するためのものだったのではないかと考えられている(月経が止まったときから出産までの約9ヶ月に相当する)。この暦は20個の名前のシンボルと13個の数字の組み合わせで260日を数える。365日暦は「シウトル(Xíutl)」と呼ばれ18ヶ月の暦月たる名前と各月に20の暦日を持っている。この月のことを考古学者たちは、便宜上「ベインテーナ(The Veintanas=スペイン語)」と呼んでいる。18ヶ月×20日=360日となり、太陽年に5日だけ足りないが、この5日間は18ヶ月が終わった最後に名前の無い期間「ネモンテミ(Nemontemi)」として設けられ、不吉な期間とされた。584日暦は金星の周期である。
 260日暦は祭事暦であり、とくに重要視された。また、260日暦と365日暦は52年に一度合致し、その年は「シウモルピリ(Xiuhmolpilli)」と呼ばれ一つのサイクルとみなされた。シウモルピリの年には「トシウモルピリア(Toxiuhmolpilia)」と呼ばれる盛大な再生儀式が行われた。また金星の周期である584日を5回繰り返すと365日暦で8年と合致するため、やはり8年ごとに「アタマルクアリストリ(Atamalcualiztli)」と呼ばれる儀礼が行われた(260日暦、365日暦、584日暦の三つの暦は104年に一回合致する。この年は「ウエウエチリストリ(Huehuetiliztli)」と呼ばれた)。

 一日は昼を13、夜を9の時刻に分割された。これはそれぞれ、13層の天界と9層の地下世界に対応しており、それぞれの時刻に関連する守護神が設定されていた。

■260日暦(トナルポワリ)
センポワリ(Cenpohualli)
 暦日名(スペル) 「意味」 守護神吉凶
1シパクトリ(Cipactli) 「ワニ」 トナカテクートリ
2エヘカトル(Éhecatl) 「風」 ケツァルコアトル
3カリ(Calli) 「家」 テペヨロートリ
4クェツパリン(Cuetzpallin) 「トカゲ」 ウエウエコヨトル
5コアトル(Cóatl) 「蛇」 チャルチウィトリクエ
6ミキストリ(Miquiztli) 「死」 テクシステカトル/メストリ
7マサトル(Mazatl) 「シカ」 トラロック
8トチトリ(Tochtli) 「ウサギ」 マヤウェル
9アトル(Atl) 「水」 シウテクートリ
10イツクイントリ(Itzcuintli) 「犬」 ミクトランテクートリ
11オソマトリ(Ozomatli) 「猿」 ショチピリ中性
12マリナリ(Malinalli) 「草」 パテカトル
13アカトル(Ácatl) 「葦」 テスカトリポカ/イツトラコリウキ
14オセロトル(Océlotl) 「ジャガー」 トラソルテオトル
15クアウートリ(Cuauhutli) 「ワシ」 シペ・トテック
16コスカクアウートリ(Cozcacuauhtli) 「ハゲタカ」 イツパパロトル
17オリン(Ollin) 「動き・地震」 ショロトル中性
18テクパトル(Técpatl) 「火打石のナイフ」 テスカトリポカ/チャルチウトトリン
19キアウィトル(Quiáhuitl) 「風」 トナティウ/チャンティコ
20ショチトル(Xóchitl) 「花」 ショチケツァル中性
 トナルポワリは20の絵文字と13の数字の組み合わせからなり、20の絵文字は「センポワリ(20、ないし20を数えること)」と呼ばれた。その数え方は「1のシパクトリ」、「2のエヘカトル」…「13のアカトル」で第一週、「1のオセロトル」、「2のクアウートリ」…「13のミキストリ」で第2週と数える。この13日の週を考古学者は便宜上「トレセーナ(The Trecenas=スペイン語)」と呼んでいる。そしてそれぞれのトレセーナは最初の日のセンポワリを冠して「シパクトリのトレセーナ」、「オセロトルのトレセーナ」と呼ばれる。例えば「1のアトル」で始まる第17週の「アトルのトレセーナ」となる13日間は、基本的に不吉な期間であると考える。しかし、トレセーナごとにも関連する神が設定されるので、その吉凶の決定は複雑となる。これを調べ、占うための専門の役職があった。

※上表「センポワリ」:トナルポワリに使われる20の絵文字の順番と神との相対関係。
※下表「トレセーナ」:各トレセーナの第一日目のセンポワリを列挙したもの。

トレセーナ(The Trecenas)
週名守護神 週名守護神
1シパクトリオメテオトル 11オソマトリパテカトル
2オセロトルケツァツコアトル 12クェツパリンイツラコリウキ
3マサトルテペヨロートリ 13オリントラソルテオトル
4ショチトルウエウエコアトル 14イツクイントリシペ・トテック
5アカトルチャルチウィトリクエ 15カリイツパパロトル
6ミキストリトナティウ 16コスカクアウートリショロトル
7キアウィトルトラロック 17アトルチャルチウトトリン
8マリナリマヤウェル 18エヘカトルチャンティコ
9コアトルシウテクートリ 19クアウートリショチケツァル
10テクパトルミクトランテクートリ 20トチトリシウテクートリ


トナルポワリ上の祝祭日
暦日内容
33のカリ火の神の祭日
1313のアカトル暦上の太陽の日
141のオセロトルシペ・トテックの祭日
174のオリンアステカ創世神話の第5の太陽の日
207のショチトル太陽の日
229のエヘカトル「四方位からの風」の日
2310のカリ太陽の日
2613のミキストリ死の神の祭日
271のマサトル創造神の祭日
282のトチトリテポステカトルないしセンツォントトチティンの暦上の呼称
337のアカトルテノチティトランの主神殿の建設記念日
3812のテクパトル大地の神ないし死の神の祭日
401のショチトルセンテオトルの祭日
434のカリミクトランテクートリの祭日
5112のオソマトリウエウエコヨトルの祭日
531のアカトルケツァルコアトルの神話上の生誕日
619のシパクトリミクテカシワトルの祭日
661のミキストリ「食料の神のしてのテスカトリポカ」の祭日
694のアトルアステカ創世神話の第4の太陽の日
705のイツクイントリミクトランテクートリの祭日
716のオソマトリテクシステカトルの祭日
802のショチトル商人の祝祭日
824のエヘカトルショロトルの祭日
835のカリチャンティコの夫」の祭日
846のクェツパリンミクトランテクートリの祭日
921のマリナリ「愛の女神としてのトラソルテオトル」の祭日
932のアカトルケツァルコアトルの神話上の命日
987のテクパトルチコメコアトルの祭日
1128のマリナリコアトリクエの祭日
1181のテクパトルウィツィロポチトリカマシュトリの祭日
1214のシパクトリシウテクートリの祭日
1236のカリミクトランテクートリの祭日
13013のイツクイントリトラウィスカルパンテクートリの祭日
1311のオソマトリシワテテオの一人」の祭日
1344のオセロトルアステカ創世神話の第1の太陽の日
1388のテクパトルマゲイ(酒の原料となる植物)の日
1399のキアウィトルトラロックの祭日
14010のショチトル「都市ウアステペックの戦神」の祭日
1441のクェツパリンイツラコリウキの暦上の呼称
1474のマサトルイツラコリウキの祭日
1571のオリンショロトルの祭日
1637のカリ商人の祝祭日
1701のイツクイントリシウテクートリの祭日
1712のオソマトリ商人の祝祭日
1745のオセロトルトラロックの祭日
1831のカリ「シワテテオの一人」の祭日
1875のマサトルショロトルの祭日
1919のオソマトリイツパパロトルの祭日
1994のキアウィトルアステカ創世神話の第3の太陽の日
2005のショチトルマクイルショチトルの祭日
2016のシパクトリトラソルテオトルの祭日
2027のエヘカトルケツァルコアトルによる人類創造の日
2038のカリマセウアル(アステカ平民)が創造された年のイアーベアラー
2091のアトルチャルチウィトリクエの祭日
2221のエヘカトルイツタク(白の)・テスカトリポカケツァルコアトルの祭日
2232のカリショロトルの祭日
2265のミキストリトナティウないしショチピリの祭日
2287のトチトリコアトリクエの祭日
2309のイツクイントリチャンティコの祭日
23413のオセロトルコアトリクエの祭日
2384のテクパトルテクシステカトルの祭日
2481のトチトリ「プルケの女神としてのマヤウェル」の祭日
※:「1のシパクトリ」から数えた日数。
※上表「トナルポワリ上の祝祭日」:トナルポワリ上の特定の日に設定された祭日。固有名が分かっていない神の祭日はカギ括弧付で示した。
■365日暦(シウトル)
ベインテーナ(The Veintanas)
月名(スペル) 「意味」 (下段は別称) 祀る主要な神
1 イスカリ(Izcalli) 「復活」 シウテクートリ
ショチトカ(Xochitoca) 「植物・花」
ショチイルウィトル(Xóchilhuitl) 「花祭りの日」
ウアウーキルタマルクアリストリ(Huauhquiltamalcualiztli)「タマーレスを食べる」
ピラウアナリストリ(Pillahuanaliztli) 「子供達の酩酊」
2 アトルカワロ(Atlcahualo) 「水を残す」 トラロック
チャルチウィトリクエ
ケツァルコアトル(エヘカトル)
クアウーウィトレウア(Cuauhitleua) 「ポールを立てること」
シロマナリストリ(Xilomanaliztli) 「若いメイズ(トウモロコシ)を捧げること」
3 トラカシペウアリストリ(Tlacaxipehualixtli) 「人間の皮を剥ぐ」 シペ・トテック
4 トソストントリ(Tozoztontli) 「短い見張り」 トラロック
チャルチウィトリクエ
センテオトル
チコメコアトル
ショチマナロ(Xochimanalo) 「献花」
5 ウエイトソストリ(Hueytozoztli) 「偉大な見張り」 センテオトル
チコメコアトル
トラロック
6 トシュカトル(Tóxcatl) 「渇いたもの」 テスカトリポカ
7 エツァルアリストリ(Etzalcualiztli) 「メイズと豆の食事」 トラロック
チャルチウィトリクエ
8 テクイルウィトントリ(Tecuilhuitontli) 「神々の小さな祝祭」 ウィシュトシワトル
9 ウエイテクイルウィトル(Hueytecuilhuitl) 「神々の大祭」 シローネン
シワコアトル
10 ミカイルウィトントリ(Miccailhuitlontli) 「死者の小さな祝祭」 ウィツィロポチトリ
テスカトリポカ
トラショチマコ(Tlaxochimaco) 「花を渡すこと」
11 ウエイミカイルウィトル(Hueymiccailhuitl) 「死者の大祭」 シウテクートリ
ヤカテクートリ
ショコトルウェッツィ(Xocotlhuetzi) 「花を渡すこと」
12 オチュパニストリ(Ochpanitztli) 「道を掃く」 テテオインナントシ
チコメコアトル
テナウアティリストリ(Tenahuatiliztli) 「綺麗に片付けること」
13 パチトントリ(Pachtontli) 「少量の干草」 ウィツィロポチトリ
テスカトリポカ
ヤカテクートリ
エコストリ(Ecoztli) 「血を捧げること」
テオトレコ(Teotleco) 「神々の来訪」
14 ウエイパチュトリ(Hueypachtli) 「沢山の干草」 トラロック
テピクトトン
ピラウアナ(Pillahuana) 「子供達が飲む」
テペイルウィトル(Tepeilhuitl) 「山の祭儀」
15 ケチョリ(Quecholli) 「貴重な羽根」 ミシュコアトル
カマシュトリ
トラコケチョリ(Tlacoquecholli) 「ケチョリの半分」
トラミケチョリ(Tlamiquecholli) 「山の祭儀」
16 パンケツァリストリ(Panquetzaliztli) 「旗を掲げる」 ウィツィロポチトリ
17 アテモストリ(Atemoztli) 「雨が降る」 トラロック
18 ティティトル(Tititl) 「縮んだ(もの)」 イマラテクートリ
(19) ネモンテミ(Nemontemi) 「不必要なもの」
 365日からなる太陽暦シウトル(Xíhutl)の間に、18通りある20日間の暦月に祝祭と宗教的儀礼を考古学者は便宜的にベインテーナと呼んでいる。それぞれの月に祀る神は決まっていた。20日間18月で360日となり、残りの5日間は不吉な日であり、ネモンテミと呼ばれた。しかし、この365日暦は閏日が無いため、移動祭日や農耕祭などの定期的修正を必要とした。各年は第18月の末日のセンポワリの名前が付けられた(つまり、「1のアカトルの年」などと呼ばれた)。

※上表「ベインテーナ」:365日暦における各暦月の名前と、その月に祀られる神。
 
■昼の神々と夜の神々
昼の神々 トナルテウクティン(Tonalteuctin)
時刻 関連する神 関連する鳥
1 火の神シウテクートリ/ウエウエテオトル 青い蜂鳥
2 大地の神トラルテクートリ 緑の蜂鳥
3 水の女神チャルチウィトリクエ
4 太陽神トナティウ ウズラ
5 愛の女神トラソルテオトル
6 戦死者の神テオヤオミキ/ミクトランテクートリ メンフクロウ
7 トウモロコシの神ショチピリセンテオトル
8 雨の神トラロック
9 風の神ケツァルコアトル 七面鳥
10 食料の神テスカトリポカ ミミズク
11 地下世界の神ミクトランテクートリ/チャルメカテクートリ コウンゴウインコ
12 夜明けの神トラウィスカルパンテクートリ ケツァル
13 空の神イマラテクートリ オウム
夜の神々 ヨワルテウクティン(Yohualteuctin)
時刻 関連する神 吉凶
1 火の神シウテクートリ/ウエウエテオトル
2 黒曜石、火打石の神イツトリ
3 ピルツィンテクートリトナティウ 大吉
若い太陽神ピルツィンテクートリショチピリ
4 トウモロコシの神センテオトル 大吉
5 地下世界の神ミクトランテクートリ
6 水の女神チャルチウィトリクエ
7 愛の女神トラソルテオトル
8 山の心臓テペヨロートリテスカトリポカ
9 雨の神トラロック
 アステカでは一日の時刻にも関連する神が設定されていた。昼と夜はそれぞれ13と9の時刻に分けられ、これらは13層の天界(総称して「トパン(Topán)」と呼ばれる)、9層の地下世界(総称して「ミクトラン(Mictlán)」と呼ばれる)と関連している。「昼の神々」は時刻を表すのとは別に特定の暦日を示す記号と数字が当てられている。また、トナルポワリのトレセーナとなる13日とも関連していた。また天界と関連して13種類の鳥(飛翔動物)も守護者とされた。この13柱の神は創世神話でそれぞれ5つの太陽を司っていた神(テスカトリポカ、ケツァルコアトル、トラロック、チャルチウィトリクエ、トナティウ)を含んでいる。「夜の神々」も夜の時刻を表すと同時に暦上の特定の暦日や吉凶と関連していた。一部の神は「昼の神々」であるとともに「夜の神々」でもあった。

※上左表「昼の神々」:昼の時刻と関連する神、飛翔動物の相対関係と順番。
※上右表「夜の神々」:夜の時刻と関連する神、吉凶の相対関係と順番。