シニア映画歓:デジタル化、地方館の苦闘=野島孝一
毎日新聞 2013年05月02日 東京夕刊
鹿児島市でガーデンズシネマという独立系の映画館を運営している黒岩美智子さんからお便りをいただいた。デジタル化の募金をしているという。黒岩さんは東京で映画会社の宣伝を担当していたが、郷里に帰って今の仕事をしている。地方の映画館は、どこも苦戦している。県庁所在地の奈良市と山口市からも映画館が消えてしまった。特にシネコンと競合する独立館は苦しい。観客減に加えてデジタル化に対応しなければならないからだ。
今の映画館は、ほとんどフィルムがかけられない状態だ。上映素材としてのフィルムそのものがなくなっている。フィルムの映写機を撤去したところも多い。大手のシネコンはVPFというプロジェクターのレンタルシステムに切り替えている。しかし小さな映画館は配給会社との関係や費用の面でこの方式は難しい。ブルーレイやDVDでしのいでいるところもあるが、DLPというデジタルプロジェクターの映像が鮮明で望ましい。新潟シネ・ウィンドはいち早く切り替えのプロジェクトをスタートさせ、3月末までに1900万円を集めたそうだ。黒岩さんの映画館では小型のDLPプロジェクターに切り替えるため550万円を目標に募金していて、30%ばかりを集めたという。
こういう苦労は、いきなりデジタル時代になったツケのようなものだ。重たいフィルムを運ばなくてよくなったが、小さな映画館にとっては、懐にずしんと響く重さだ。(映画ジャーナリスト)