メルボルン動物園のゴリラ舎


アフリカサバンナで見られる風景の一つである
コピエを擬岩で再現しました


ガラス越しにブチハイエナとシマウマを
見ることができます


手前にライオン向こうに キリンやシマウマを
見ることができます


大阪信用金庫様よりいただいた
親子のライオン像
■ はじめに
 昨年の5月から始まったアフリカサバンナ区肉食動物ゾーンの建設工事が終了し、これっで先に完成していたカバ舎やサイ舎、それにアフリカサバンナ区草食動物ゾーンと併せ、17,000uのアフリカサバンナゾーン全体が完成したことになります。9月9日にはオープン式典を開催し、一般公開しました。今月はこのアフリカサバンナゾーンが完成するまでをご紹介しましょう。

■ 生態的展示

 私事で恐縮ですが、30年前、私は初めて海外の動物園を訪ねました。最初に訪問したサンフランシスコ動物園で特に印象に残ったのはゴリラの展示です。当時、天王寺動物園でもペアのゴリラを飼育していたのですが、コンクリートの上で飼育されていました。夏は照り返しで大変暑く、また冬はあかぎれができるほど冷たく、かわいそうだなぁ、と思っていました。ここでは全く違いました。広々とした一面の芝生の上で飼われていたのです。うわぁ、きれいだなぁ、と本当に驚き、うらやましく思いました。しかし、昭和60年、シアトルのウッドランドパーク動物園で画期的な展示が完成したことが報じられました。当時の園長のハンコックスさんと設計コンサルタントのジョーンズ・アンド・ジョーンズ社のアイディアで創られた展示で、まるでその動物が生息する現地を、そっくりそのまま切り取ってきたかのような展示だそうです。その紹介記事にはゴリラ舎の写真が掲載されていたのですが、写真を見る限り、動物園で撮られた写真か、野生で撮った写真か区別できない程のでき栄えでした。 ここも視察に行きました。驚きました。写真の通り本当に現地に行ったかと錯覚するような展示だったからです。サンフランシスコ動物園でゴリラを見てうらやましく思いましたが、よく考えると、野生のゴリラが芝生の上で生活しているわけがないのです。本当はこのように岩がごつごつしていたり、木がうっそうと茂っていたり、藪があったりするところに暮らしているのです。ゴリラが本当に暮らしている場を再現し、お客さんにその環境を知っていただき、ゴリラが暮らす環境を守ることの大切さを理解していただく。いわゆる環境教育に貢献するのが、この生態的展示だったのです。これこそが究極の展示だと感じました。是非天王寺動物園でも実施したいと強く思いました。後にハンコックスさんがメルボルン動物園で作られたゴリラ舎も見学し、その思いをさらに一層強くしました。

■ ZOO21計画

 天王寺動物園では21世紀にふさわしい展示を視野に入れ、生態的展示を基本理念としたZ0021計画の基本計画を平成7年に策定しました。あの生態的展示を自分の園で実現できると、私は心の底から嬉しく思いました。
 平成7年に開館した爬虫類生態館はZ0021計画の第一弾を飾るもので、従来の動物舎とは異なる展示方法は多くの方々から高い評価を得ました。この成功に引き続いて平成9年にオープンしたカバ舎はカバの生息地を再現するとともに、日本で初めて水中を歩くカバをガラス越しに観察できる画期的なものでした。平成10年にはサイ舎、平成12年にはアフリカサバンナ区草食動物ゾーンが完成し、生態的展示手法を取り入れた動物園整備は着々と進みました。平成16年にはアジアの熱帯雨林ゾーンが完成しました。そして、アフリカサバンナゾーンがオープンしたのです。
 このゾーンは東アフリカの国立公園や野生動物保護区をモデルにした「ンザビ国立公園」と名付けた架空の国立公園を想定しています。そこを訪ねて野生動物を観察するのです。動物達が実際に生活しているアフリカのサバンナを再現し、サバンナによくあるコピエと呼ばれる岩山群も再現しました。 写真Uライオンやブチハイエナがキリンやシマウマと、幅7m深さ5mの堀で隔離されているのですが、この堀が隠されているので、同じ展示場で飼育されているように見えます。このような臨場感あふれる展示により、あたかもアフリカのサバンナに出かけたかのような雰囲気を体感していただくことができます。
 ガラス越しのビューポイントも設けました。ライオンの方も人間に興味津々のようでオープン初日には小さな子供に向かって飛び掛るしぐさをし、あまりの迫力に子供が泣き出す始末でした。このビューポイントの前には床暖房の入った岩や、冷風の吹き出し口を設けてライオンやハイエナを誘い、冬でも夏でもガラス越しにライオンやハイエナを間近に見ることができるように工夫しました。また、そこにはエサの投入口も設け、飼育係のガイドを聞きながらエサを食べる様子が観察できる企画もできるようにしました。季節によってはお客様の目が届きにくい所にハイエナやライオンがとどまることもあると想定して、そういったところにはコピエの岩山の上からガラス越しに見えるよう工夫しました。今までの展示では上からライオンやブチハイエナを見ることはできなかったので、一風変わった視線で動物達を見ることができます。
 旧のライオン舎では、夕方にライオンを寝室に収容した後は、ライオンをご覧いただくことができませんでしたが、今回、屋内展示場も設け、収容後もライオンがエサを食べている様子をガラス越しに迫力満点にご覧いただけるように工夫しました。
 ライオンとブチハイエナの間のコピエに入ると、草食動物ゾーンが見渡せるテラスに出ることができます。ここからの眺望は一見の価値ありです。また、ライオン舎の北東部にあるコピエには階段が作られていて、天辺まで登ることができます、上からはライオン舎が一望できたり、キリンのエサやり場に行くことができます。ここは将来的には特別企画に使うつもりをしています。
 施設といえば、トイレにもせっかくの時間を有効にご利用いただけるよう工夫しています。中身は秘密です。是非ご自分の目でお確かめ下さい。また、今回も大阪信用金庫様のご好意により、ライオンの親子のブロンズ像をご寄贈いただきました。ご来園の記念撮影に大人気です。
 私共はこのアフリカサバンナゾーンはどこへ出しても恥ずかしくない施設と誇りに思っています。皆様も是非一度アフリカのサバンナを体感しにご来園ください。
                              
(飼育課:長瀬 健二郎)