社説:1ドル=100円超え そう喜んでもいられぬ

毎日新聞 2013年05月11日 02時30分

 外国為替市場で一段と円安に拍車がかかった。4年ぶりに1ドル=101円台まで値下がりし、対ユーロでも円は売られている。これが好調な株式市場を一層盛り上げている。企業業績や高額商品の売り場も明るくなってきた。安倍政権が進める経済政策の効果だと評価する声が多い。

 だが、これからの日本にとって弱い円は本当に得なのだろうか。

 円安により自動車メーカーのような輸出企業が潤うのは確かだ。しかし、日本の産業構造は変わってきている。円安になれば輸出量が増え、国内で工場の新増設が相次ぎ、雇用増や賃金増に直結するという時代では、もはやない。製造業が海外での生産を増やし、産業のサービス化が進む中で、直接的なメリットは減衰している。

 一方、円安はエネルギーや資源、食料などを大量に輸入している日本にとって、輸入額の増加につながり、貿易収支を悪化させる。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は2012年度、過去最大の赤字だった。

 輸入品の値上がりは、消費者の負担を重くする。業者が消費者への販売価格に転嫁できない場合は、自らの利益が圧迫される。景気回復の足かせとなろう。

 昨年、日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)は件数でバブル期の実績も超える過去最多になった。11年秋に1ドル=75円台まで進んだ円高が海外の企業をお買い得にしてくれたことも追い風になっている。円安に振れても、グローバル化に対応する必要から企業は今後も海外でのM&Aを続けざるを得ないだろう。せっかく割安で買えていたものを、政策でそうでなくするというのは実にもったいない話だ。

 成熟した日本のような経済にとって、国の富が相対的に目減りすることを意味する通貨安は、必ずしも歓迎できることではないのである。

 この辺で安定してほしいと望んでも、そうならないのが為替相場だ。今後、米経済が回復色を強め、超緩和状態の金融政策が徐々に正常化していけば、ドル高・円安が一段と加速する可能性が高い。輸入コスト高に押し上げられて物価は上昇するかもしれないが、それは景気回復によるデフレ脱却とは別物だ。

 では輸入コスト高を除いて年率2%の物価上昇を目指すとなると、量的緩和を続けざるを得ず、さらに円安、輸入コスト増を招きかねない。

 市場の活況に浮かれて、本来取り組まなければならない構造改革を再び先送りすると、日本経済は量的緩和というカンフル剤からいつまでも離脱できない。危うさと隣り合わせの活況だということを政府や日銀は十分認識しておく必要がある。

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