記者の目:リフレッシュ休暇の効用=萩尾信也

毎日新聞 2013年05月10日 00時13分(最終更新 05月10日 00時27分)

巡礼路で撮影した「巡礼の友」の4人
巡礼路で撮影した「巡礼の友」の4人

 レナイは高校を出て将来を模索中のケビンを誘い、40日間の休暇を取得して親子で全区間を踏破した。上から目線で押しつけることも甘やかすこともせず、胸襟を開いて我が子と向き合う姿勢には、同じ息子を持つ親として感心した。ケビンは自分の旅費をバイトでためた。その心意気も気にいったが、足の痛みに遅れがちな私をいつも視線の隅に入れながら見守ってくれる心優しい青年だった。

 ◇旅仲間の自分史、大切な思い出に

 巡礼路を歩きながらケビンをインタビュアーに始まった「自分史語り」も、よき思い出となった。各自がおもむくままに言葉を紡いだ。「子供も自立し、新たな人生に踏みだそう」と長期休暇を取ってやって来たクリスタルは、冷戦時代から今に至る激動の歴史と自らの足取りを淡々と語った。物静かだが芯のある、知的な女性だった。

 400床の病院の医師だったジョセフは、職を辞して巡礼路を歩いた。「入院患者の大半は老人で、生かしておくだけの医療の繰り返しだった」。敬虔(けいけん)なクリスチャンのジョセフにとって、「医師として、人として、これからの生き方を自問する旅路」だった。「味覚も文化も考え方も日本と韓国がこれほど近いとは思わなかった」。祖国を遠く離れた地で、私とジョセフはことある度にうなずき合った。

 若き日に世界を旅したレナイの物語には、みんなで引き込まれた。ケビンも初めて聞く逸話も多く、父親の人生に触れるよきひと時となった。「最高の旅だった」。旅の終わりに感涙を浮かべた親子をクリスタルと私はハグして祝福した。ケビンは今夏、家を出て母親の祖国ドイツで1人暮らしを始める。

 極東の島国・日本からユーラシア大陸西端の海を目指した「57歳の春のリフレッシュ休暇」。雨の日も吹雪の日も疲労困憊(こんぱい)で足が止まりそうになった時も、巡礼路で人々が掛けてくれたエールが、至福の思い出とともによみがえる。「ブエンカミーノ(良い旅を)」。人生はまさに旅である。(東京社会部)

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