社説
川口委員長解任/無益な対立、誰も望まぬ
自民党の川口順子参院環境委員長が9日、解任された。野党7党が中国出張の延長で委員会が流れた責任を重大視、参院が同日の本会議で解任決議案を賛成多数で可決したためだ。 7月の参院選をにらみ、与野党が対決モードを強めるのは分からないではない。ただ、攻撃の糸口を探る野党と緊張感の乏しい巨大与党による、見え透いた攻防劇を見せられたようで、有権者はしらけるばかりだ。 いきさつはこうだ。 元外相の川口氏は参院議院運営委員会の許可を得て、アジア各国の外相経験者らが集う会合などに出席するため、4月23、24両日の日程で中国に出張した。滞在中、25日の楊潔〓国務委員との会談が決まり、野党側の了解を得られないまま滞在を1日延長。結果、25日予定の委員会は中止となった。 自民党は「国益にかなう対応。解任は乱暴だ」と川口氏を擁護。野党は「職責を自ら放棄したのも同然で容認できない」と反発。採決の結果、衆参両院で初めての委員長解任となった。 野党の対応には無理があるだろう。解任に相当する事案のようには思えないからだ。 確かに、川口氏には非があり、国会軽視の側面もある。ただ、無断で延長したわけではなく、日中関係がぎくしゃくする中で楊元外相との会談を優先することに、決定的な瑕疵(かし)があったと言えるかどうか。 野党側には国会審議が与党ペースで進むことへの焦燥感がある。共闘再構築への思惑もうかがえる。政権に打撃を与え攻防の主導権を奪い返したい意図をくみ取ったとしても、川口氏の丁寧な釈明と出張の報告を条件に矛を収めるのが筋だろう。 むしろ、委員会を中止して会談に臨むだけの成果があったのかどうか、川口氏に徹底的に問いただしてこそ、野党の存在感を見せつけ、有権者の共感を得られたのではないか。 与党の対応も褒められない。自民、公明両党は8日の参院予算委員会を欠席した。当初予算案という最重要案件の審議を、提案した与党が結果的にボイコットする異例の事態。失態のそしりは免れない。 安倍内閣の高支持率を背景に自民党の幹部らに高飛車な姿勢がちらつく。「与党のおごりが目立つ」との野党の指摘も的外れとばかりは言えない。 歴史認識の見直しをめぐる安倍晋三首相の発言が韓国や中国はもとより米国にまで懸念を広げている。「安全運転」が影を潜めては先々、国会運営は危うさを増す。 それでなくても政治決戦を前にした国会は荒れがちだ。とりわけ、与党は手順を踏んだ運営に努め、過激な言動を慎んで無益な対立の火種を持ち込むべきではない。 この夏、ネット選挙が解禁される。党利党略を見抜く目を持つ有権者の発信力を侮ってはいけない。「汚点」の返上へ、与野党ともに危機感を持ち、残る重要案件についての真剣な政策論争をこそ求めたい。
(注)〓は竹カンムリの下にガンダレ、その中に虎
2013年05月10日金曜日
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