「東北アジア地域の平和のためには、日本が正しい歴史認識を持たなければいけない」韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が、オバマ米大統領との会談で対日関係に言及した。[記事全文]
裁判員として強盗殺人事件の生々しい証拠を調べた後に急性ストレス障害になった女性が、国を相手に訴訟を起こした。裁判員制度が始まって4年になる。その経験が心に与える影響が司[記事全文]
「東北アジア地域の平和のためには、日本が正しい歴史認識を持たなければいけない」
韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が、オバマ米大統領との会談で対日関係に言及した。
言うまでもなく、歴史認識をめぐる安倍首相の言動や、麻生副総理らの靖国神社参拝を念頭に置いての発言である。
本来、隣国同士で率直に話し合うべき問題がこうした形で取りあげられるのは残念だが、それほど日本への不信感が強いということだろう。
韓国の対日不信を決定的にしたのは、先月の閣僚らによる靖国参拝と、それに続く安倍首相の国会答弁だ。
首相は「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と発言。これが韓国では「植民地支配や侵略戦争を否定したもの」ととらえられた。
今年に入って日韓間では関係改善を探る努力が続けられてきたが、以来、政府間の交流は再び滞ってしまった。安倍政権の責任は大きい。
この問題は、日米関係にも影を落とし始めている。
今月発表された米議会調査局の報告書は、首相の歴史認識について「侵略の歴史を否定する修正主義者の見方を持っている」と指摘。ワシントン・ポストなど米主要紙も首相発言を批判している。
さらに、慰安婦問題をめぐる河野談話見直しの動きがあることについて、シーファー前駐日大使は「見直しを受け入れる人は米国にはまったくいない」と語った。
安倍政権の歴史認識を疑問視する声が、米国内で急速に広がっている。このままでは、日本の国際的な孤立さえ招きかねないことを、首相は深刻に受けとめるべきだ。
首相は、8日の参院予算委員会で「アジアの人々に多大な損害と苦痛を与えた」と、95年の村山談話と同様の認識を示すなど軌道修正を図りつつある。
歴史認識で対立を煽(あお)るような言動は厳に慎み、一致できる部分で連携を深める。各国の信頼を回復する道はそれしかない。
一方、韓国側にも冷静な対応を望みたい。
朴氏自身、米議会での演説で「歴史に目をつぶる者は未来を見ることができない」としたうえで、日本を含む北東アジアの国々が環境や災害救助、テロ対策などに協力して取り組み、信頼を構築すべきだと語った。
日韓が対立していては、地域の問題は何も解決できない。両首脳は、事態打開の道を本気で探ってほしい。
裁判員として強盗殺人事件の生々しい証拠を調べた後に急性ストレス障害になった女性が、国を相手に訴訟を起こした。
裁判員制度が始まって4年になる。その経験が心に与える影響が司法で問われる初の例だ。制度に直すところがないか、考えるきっかけにしたい。
女性が担当した裁判では、被告が犯人かどうかには争いはなかった。法廷では遺体や刺し傷などの写真が多数、カラーで示された。
評議のすえ、判決は死刑だった。だが、ここまでの証拠を見せる必要があったのか。
公判が始まる前に裁判所と検察、弁護側が、多くの証拠のなかから、有罪・無罪や量刑を判断するために必要なものを絞る場がある。この手続きをもっと丁寧に行う必要がある。
米国では、残酷な証拠は陪審員に有罪方向の影響を与えやすいとして、慎重に扱う。国内でも写真を白黒にし、拡大しないようにして裁判員の衝撃を和らげようとする裁判所もある。
一方で、必要な証拠には正面から向きあうのも、市民から選ばれる裁判員の重い役割だ。
最高裁は、精神面の支援が必要な裁判員のための窓口をつくっている。昨年5月末までの3年間で利用は163件だった。この時期に裁判員や補充裁判員に選ばれた2万9千人のうち、0・6%にすぎない。
多くの人は大過なく任務を果たしたともとれる。一方、必要な人に支援が届いていないおそれはないか。
裁判員になれば、ある程度のストレスを感じるのは自然なことだ。まして、裁判が終わっても評議の内容などを秘密にしておく義務がある。例えば「判決は有罪だが、私は無罪だと思っていた。これでよかったのか」とは言えない。自分の経験や思いを外に表しにくい。
裁判を経て、心や体にさまざまな反応が起こりうることを専門家が伝え、負担を少しでも軽くする制度が必要だろう。
ここで問題なのは、裁判員制度が個人にどんな影響を与えるか、知られていないことだ。
外部から裁判員経験者に接することにも制約がある。現状では、裁判員の負担を研究することさえ難しい。調査や研究のためならば裁判員に対する聞き取りを認めるべきではないか。
怖い証拠は見たくない人に、幅広く辞退を認める選択肢もなくはない。しかし、さまざまな経験や知識をもつ人が裁判官と協力して、司法をよりよくしていくことが、この制度を始めた理由だ。その定着を進めたい。