社説:東アジアFTA 自由貿易圏を広げよう
毎日新聞 2013年05月10日 02時31分
広域の自由貿易協定(FTA)である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の第1回交渉会合が、始まった。
交渉が進む環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と補完し合えば、アジア太平洋地域に高いレベルの自由貿易圏を作れるはずだ。双方に参加する日本の役割は大きい。
RCEPには、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日中韓など6カ国が参加している。2015年末までに貿易自由化に加え、サービスや投資などの分野も含む包括的なFTA締結を目指す。
TPPが関税の原則撤廃を掲げるほか、サービスや投資、知的財産権、競争政策など広範な分野で高いレベルの貿易・投資ルール作りを目標にしているのに比べると、自由化の程度が穏やかな経済連携になる見通しだという。
もっとも、参加国のうち日本やシンガポールなど7カ国はTPPにも加わる。二つの枠組みが相乗効果を発揮して自由化の水準を引き上げていけば、将来的にはより広域なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現の可能性も高まるだろう。
気がかりなのは、RCEPに参加しない米国と、TPPに入らない中国の思惑が交錯していることだ。
RCEPは元々、日本が提唱した枠組みで、中国が主張していたASEAN+3(日中韓)にインドやオーストラリア、ニュージーランドを加えることで、中国の影響力をけん制する狙いがあった。
当然、中国は交渉開始に消極的だった。ところが、米国が主導するTPPの参加国が広がり、日本も参加の意向を示したことで積極姿勢に転じた。アジアの自由貿易圏からの「中国外し」を警戒し、TPPへの対抗軸として活用しようという戦略がうかがえる。
一方、米国も東アジアで自由貿易圏作りが進み、「米国外し」が起きることへの警戒を強めていた。その対抗策がTPPといえる。北米からアジアまでを包含するTPPは、中国をけん制する安全保障戦略としての意味合いも持つはずだ。
確かにその安保戦略は日本も共有する。しかし、二つの枠組みが対立しているようでは、大きな成果を逃しかねない。経済大国として双方に参加する日本は、それぞれが補完し合うように橋渡しする役割を担う必要があるだろう。
安倍晋三政権は、経済政策の柱に成長戦略を据える。それには、アジア太平洋地域の活力を取り込むことが欠かせない。二つの枠組みに加え、日中韓FTAにも積極的に取り組むことで発言力を強め、広範な自由貿易圏形成につなげるべきだ。