finalventの日記

2013-05-02

木曜日、2日

 朝は涼しく、秋を思わせる空の色だった。

 昨日の続きで、結局というか、栗本さんの『地球文明の歴史』を読んでみた。こちらのほうが、昨日の書よりすっきりとまとまっていて、むしろ「遺書」のほうはそれほど重要ではないような印象も受けた。たぶん、「遺書」の意味合いは、日本史から日本についてあるのではないか。

cover
ゆがめられた地球文明の歴史
~「パンツをはいたサル」に起きた世界史の真実~ (tanQブックス)

 単純に言えば、ユーラシア通史で、しかも独自の視点に立ったものである。その独自性がどの程度トンデモかというと、まあ、こういう考え方もあるかなというくらいで、その意味では、修辞を除けば、それほどトンデモ的なものでもないだろう。

 史学的にはいろいろ難点がありそうだし、そのあたり、宮脇さんとの対話でもあるとよいのかと思う。あと、学説に至るための参考文献はある程度網羅的につけたほうがよかったようにも思う。

 栗本さんらしいなと思ったのは、カザール=アシュケナージムを強く打ち出しているのだが、全体の枠組みのなかで、それほど強調するほどの意味合いはないように思われる。むしろ出所を問うより、K・ポランニが19世紀の金融を問うたように、実際上のユダヤ人ネットワークがどのように西洋社会に機能していたかという分析だけで十分だろうし、のちのユダヤ問題は基本そうした社会機能的な問題の派性にすぎない。

 キリスト教の扱いについては、昨日の書籍と同じで、やや弱いようには思えた。

 あと、エジプト文明への言及がまったくない。栗本さん自身としては、メソポタミア文明の派性と見て軽視してはいるのだろうが、年代的な整合がもうすこしあってもよいだろう。

 序文に大見得切って、世界史の新しい見方とされているのは、概ね岡田史学で先行されているし、実際のところ現代世界の解明は、岡田先生が示したように、モンゴル継承という筋道なので、それ以前のユーラシア諸民族の動向はそれほど現代世界につながってはいない。

 個別に、一個所、マルタ島の文明について簡単な言及があったが、あれは僕も現物を見てかなり印象的だった。

 これね⇒マルタの巨石神殿群 - Wikipedia

マルタの巨石神殿群はマルタ島内、ゴゾ島内で20世紀までに約30の巨石神殿が確認され、そのうち6神殿が世界遺産として登録された巨石建築物である。建造は紀元前4500年から前2000年頃とされている。

 当地の解説はその後自分なりに調べたが、よくわからない。古すぎる。

 その後は、基本、フェニキアの文明と見てもよく、これらは海を解していわゆるケルトなどにも繋がっているようだ。またインド洋をつたって東南アジアとも繋がっているかもしれない。

 古代においてパナマ運河は存在しないので、マルタからインド洋の経路はなさそうにも思うが、地中海から西欧、また東南アジアからアフリカの古代交易路は存在したとみてよく、その文明の背景は依然わからない。

 さらに、ポリネシア文化が台湾から伝搬していく古代文明も海の道を使っているが、こうした視点も、栗本さんの全世界史からは抜けてしまった。だからいけないというのではなく、人類史というのは視点の当て方でいろいろに見えるというだけのことのように思える。

 まあ、それでも、面白いというか、なるほどねという感想はもった。

 ダイヤモンドみたいな平べったい歴史観よりは面白いかもしれない。

 これね⇒【第2回】『銃・病原菌・鉄 ― 1万3000年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド著・倉骨彰訳)|finalvent|新しい「古典」を読む|cakes(ケイクス) https://cakes.mu/r/fxlV

 だが、現代のシニックな文化では、ダイモンド的な理解のほうがわかりやすいし、いわゆるインテリはダイヤモンド的な枠組みにほいほいとひっかかるだろうと思う、というと、ちょっと皮肉ったようだが、栗本さんの経済人類学でもダイモンドの地理学でも、超歴史的な原理を立ててしまい、理解をその原理に還元しようとしてしまう。僕はそういうふうに学を形成する必要はないんじゃないかと思うようになった。

soulmountainsoulmountain 2013/05/02 21:01 原理を還元するように学を構成する必要はない。って面白いですね。
どういうことか知りたいです。

finalventfinalvent 2013/05/02 21:06 soulmountainさんへ。問題を設定において、解の十分な条件を用意しておけばいい、ということです。つまり、問題と解から体系を作る必要はない。当面の問題の解があればそれでよいと。

soulmountainsoulmountain 2013/05/02 22:01 会議で今後の方針を決める時に、原理原則を立てたがる人と当面の問題だけ考えておけばいいと考える人の違いに似てますね。

finalventfinalvent 2013/05/04 15:25 soulmountainさんへ。率直にいうとその逆かなと。

SundalandSundaland 2013/05/07 12:01 まだ読了してないんでフライングですけど、言いたいことは理解できるという感じでしょうか。「シリウス」同様、思考の飛躍と断定口調が過ぎるように思いますが、そこを勝手に補完してしまえるところが、ああ、影響を受けたんだなと、過去形にて実感してます。

finalventfinalvent 2013/05/07 22:25 Sundalandさんへ。太陽暦の文明があのあたりで発生し、そこが文明の原点になったというのは、感覚としてはわかる気がしますし、「ゲルマン民族の大移動」なども概ね、栗本さんの考えでよいようには思いますね。ただ、史学・考古学で解明される日は来そうにないようにも思います。諦観というより、それはそれでいいかなという感じです。彼の考え方になじんできたということなのでしょうね。

はてなユーザーのみコメントできます。はてなへログインもしくは新規登録をおこなってください。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20130502/1367481096
最新コメント一覧