第一章学問のすすめ
「はぁ…」
気が重い、重すぎる…何をすればいいのか全く分からないしそもそもエージェントって一体誰が私に着いたのだろうか?
私の隊は全滅したはずだったし乙葉のお付きは中西か四聖天位しかいない…まさかこんな学園の為だけに四聖天を動かしたりはしまい、お付きのエージェントは校門で待っていると言われたが…
「ちょっと鈍ったかなぁ」
私はリハビリがてら腕力だけで崖を登っている、でもきつい…この山標高一体いくつあるのかすらわからない、目測で富士山よりは上だろうとは思っていたが龍種や魔獣達がうようよする森を抜けたと思ったらずっと崖を登っている、他にも崖を登ったり飛んでいったりしている異能者が居たりしているからここのルートで間違いないんだろうけど…や、やっぱり私も大人しく飛んで…いやいやそんな事でこれから先生き残って行けるとは思わない、多分査問委員会からの刺客もいるだろうし…今は少しでも強くならなきゃ。
そうこうしているうちに頂上が見えてきた、大して長くもない監禁生活で鈍っていたのは私の根性だったようだ。
「よい…しょっと」
崖から体を持ち上げて服の埃をはたく、そこまで汚れてはいないからまだシャワーが必要になることはないだろう。
「わぁ!」
地図にも載っていない無人島にある常闇学園、旧異能者遺跡を改築して作られたそれは見事な物だった、どこの日本の校舎に似た建築様式ではあるがどこなく違うそれ、切り立った崖に囲まれてはいるがミスリウムで構築された頑強な土壌の上に構築された建造物、確か三柳のデータでは異能者が地球に出来た頃に起こった第一次人異大戦の名残であるとか見た事がある。
とても広大な敷地に立つ巨大建造物、歴史を感じさせた、異能者がどれだけ人間にうとまれたかを考える事ができた、巨大な門…今は開かれているが…この門はどれだけの異能者を受け入れて人間を拒絶してきてくれたのだろうか、その門の足元に銀髪の男が居た。
鶏の骨を顎でかくかくさせながら遊んでいる、どうやら結構待たせてしまったようだ…えっと私のコードネームを伝えればわかってくれるかな?
「…ようやく来たのかよ、姉さん」
鶏の骨を吐き捨てて、ついでに吐き捨てるようにそう言った。
「龍葉?まさか…私と同じ生産ラインだった同じ個体名有りの…」
「ああ、久しぶりだな姉さん」
龍葉はにっこりと人懐こそうに笑った、男の子なのに私と見た目はそう変わらない…いや決定的に違う部分がある、それは声…龍葉の声はものすごくハードボイルドなのだ。
具体的に言うと大塚○夫。
(この顔はまた訳のわからない事を考えている顔だな)
龍葉は率直にそう思い地面に置いてあった二振りの刀を制服についているホルダーに戻す、ここは常闇学園、いつ戦いが起こってもおかしくない学園だ。
ここで一葉を待っている間にいくつも見覚えのある異能犯罪者が通った、それも莫大な懸賞金をかけられている一級の賞金首ばかりだ、在校生にも多数の危険人物を発見した…中でも注意すべきなのはここの生徒会長をやっているバーナード・マクレーン、先程何人か斬り殺したルリアン・ベッケンバウアー、朝早くに来てさっさと屋上で昼寝をしているエイブラハム・クルスト…この三人だ。
元イギリス陸軍大尉バーナード・マクレーン…通称ネクロフィリアマクレーン、闇に堕ちた異能者の一人で美しい女の遺体に興奮しそれを永遠と生産する為に女を狙い続ける危険人物だ。
三十二の死刑判決を受けた死刑囚ルリアン・ベッケンバウアー、闇に堕ちた異能者の一人で人間を目の敵にする危険人物だ、こいつに殺された人間の数は十万を超えるという。
伝説エイブラハム・クルスト…通称スマイルメイカー闇に堕ちた異能者でもなく、ましてや人間でもないこの男は何の酔興か戦争を根絶して回っている、こいつの驚く所は三柳含む暗殺五家に喧嘩を売ってもまだ生きている所だ、だが手出しをしなければ安全な男らしいが…要注意だ。
「龍葉、どうしたの?」
「ああ、すまない…ちょっとした考え事を…ね」
龍葉は再び人懐こそうな笑みを浮かべて学園の中へと入って行く、首を傾げながらもそれを追って私も中に入ると突如アナウンスが鳴り響いた。
『あーテステス…聞こえているな、諸君、おはよう。現在最後の入学者が校門をくぐった、これより入学式をはじめる。』
唐突なアナウンスに口がポカーンと開いてしまった、どうやらそれも周りに居る新入生も同じようでわずかに困っているが在校生を見る限り今回これが特例というわけでもないようだ。
『私は生徒会長のバーナード・マクレーンだ、よろしく頼む…挨拶はもういらんな?…今年はなんと異能者以外に魔族、人間の新入生を入れるらしい。皆仲良くやるように…さてそれでは入学式を終わりにして歓迎会の説明に映らせていただく。この学園は異能者学園である…異能者式の歓迎といえばやはり喧嘩だ!なお毎年この歓迎会で死者もでているが…なぁに、気にする必要はない。ルールは簡単だ、戦い続けて生徒の胸についているバッジを五つ集めて日が沈むまで立っていたら勝ちだ、日が沈むまでにバッジが五つに満たない者は即退学だ、死んでも退学だ。以上…楽しんでくれよ?開始の合図は花火があがるそれでは皆…グッドラック』
そう言ってアナウンスは切られた…辺りにざわめきが広がる、ざわついているのは魔族…子供にしか見えない体格の男女と人間だけだった、異能者達は落ちつき払い得物を持って戦闘態勢に入っている。
異能者は元々力比べが好きだ、だがそれは命を奪う行動が好きを言うわけではない、単純にどちらが強いかを決めるだけの力比べが好きなのだ、勝者の勇敢さに惜しみない称賛を、敗者の素晴らしい健闘を讃える、それが異能者の戦いだったはずなのだが…ある時病気にかかる事がない異能者に奇病が見つかった。
殺戮症候群。
そう呼ばれたそれは闇に堕ちると形容された、治療は不可能でこうなった以上その異能者の名誉の為にも周りの異能者の生活の為にも殺すべきなのだが…普段は異能者を敵としている者達が立ちはだかった、人間が喚きだしたのだ。
異能者にも人権はあるetc…同族同士で殺し合うのは馬鹿げているetc…殺戮症候群に陥った者に救済をetc…
異能者は人間と争いたくはない、人間のゴキブリのようなしぶとさはわかっているし何よりも人間は殺戮が好きで同じ過ちを何度も繰り返し被害者を無視して神とか呼ばれる偶像に許しを乞うHEN☆TAI種族、好んで関わりたいと思う異能者はまずいない。
異能者は山奥でひっそりと集落を作ってのんびりと暮したいと思っていたが人間はそれを許さなかった、だから異能者は人間を嫌う。
話が反れた、とりあえず今は戦闘に集中しなくては。
「おー嫌だ嫌だ…戦いなんて虚しいだけなのになぁ…誰もわかっちゃいやしねぇ」
ボサボサ頭の巨人がのっそりを現れた、死んだ魚のような緑色の瞳を左右に動かし敵となるであろう者の位置を確認しながら飄々と歩いている。
「エイブラハム・クルストか…!」
龍葉がくぐもった声でそう男の名前を呼ぶ、聞き覚えがある…確か…そう、この世界で一番戦っちゃいけない人物ってマザーコンピューターから教わった事がある。
「はっ、三柳んとこの兵隊ちゃんか。俺を殺るには数が少ねぇなぁ…」
身の毛がよだつ殺気がこちらに押し寄せる、殺気だけで走馬灯を見せるなんてクルストと言う男はどんな死線をくぐってきたのだろう?
三柳に目をつけられて生きているだけでおかしい人物だからなんら不思議に思えないのが何故か悲しい。
「えっと、クルストさん」
「ん?」
とりあえず敵意がない事を伝えないと殺されかねない…!
「私たちクルストさん殺す気ないです」
「あっそ、んじゃいいわ」
あっさり納得して引きさがってもらえた、やる気なさそうにクルストは校舎の中に戻っていく…なんだろう?案外素直な人なのかな?
「…そんな訳ないだろう。俺達に不意打ちされても負けない自信があるからあんな事出来るんだ…!舐めやがって…」
龍葉は納得できてない様子、無駄に命を散らさなかっただけありがたいと思って欲しい。
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