序章:死刑執行21分前
「出ろ、三柳一葉」
独房の扉が開き自分と同じ銀髪の女が重苦しい口調でそう威厳たっぷりに言い放った、異能殺しと呼ばれる手錠をかけられたまま廊下に出ると一週間ぶりの光が私を襲った、眩しい…それでもやはり嫌じゃない。
「貴様の処分が今日言い渡される」
罪状は謀反、中身は…まぁ後々語っていくとしよう。
「…御苦労さまです」
にっこりと自分の姉妹に笑いかけておく、彼女は大分面くらったようだ、それはそうであろう…私はこれから死ににいくのだから…
長い廊下を監視の兵達に引かれながら進む、無重力空間でマグネット入りの靴を履いてない私はこうでもしないと前に進めないが、なんだか動物園での客引きになったようであまり好きになれない。
好きになったらそれはそれでおかしいのだが。
「№36789です、個体名一葉を引き渡しに参りました」
「御苦労№36789、確かに一葉を引き取った」
査問委員会部屋前で私が引き渡される、ドナド~ナ♪これだけ短い遣り取りで渡されると私は子牛になった気分だ、まぁただの肉塊になる運命は変わらなく子牛と一緒だ。
薬殺処分されてデータ収集用に中身を分けられてそれで私の一生はおしまい、まぁなんと素敵な幕引きでしょうか、ぶら~ぼぶら~ぼ…なんて考えていると扉が開いた。
いつもと変わらぬ査問委員、三柳の胎の中から生まれてきた正統なる三柳の後継者達…私と同じ銀髪が空調の風で揺れ、真紅の瞳が私を一斉に射抜き私の心に恐怖を思い出させた…私と彼らの姿形はそう変わらないが強さは別格だ。
私が謀反を起こした…いや、起こさせられた時に私を鎮圧しにきたのはこの中のたった一人だった、そのたった一人に精鋭二千人が一分立たずして殺された…生き残ったのは私だけ、最後の私も今こうして死地に向かっている。
「個体名一葉、貴様に処分を言い渡す」
円卓の上座に座っている男が野太い声でそう語る、私の最後の瞬間が訪れようとしていた。
「我ら三柳のクローン体であり御先祖から引き継ぐ崇高なる野望を遅延させた事は万死に値する、温情をかける事も出来ん。よって…」
そこまで語ったところで男の言葉は遮られた、後ろの扉が破られたのだ、査問委員全員の瞳がそちらを向く、私も釣られてそちらを見るとそこには私を罠にはめて謀反を起こさせた張本人がニコニコ笑いながら手を振っていた。
「おはようございます皆様」
「…これはこれは御当主乙葉様……一体何用でこんな場所にまで御足労願えたのですかな?」
空気が代わる、殺気を押し隠していた先ほどまでの空気とは違う、委員全員が明確な殺意をその張本人乙葉に向けていたが本人はそんなものどこ吹く風、悠然と私に歩み寄り私に服を投げた。
見覚えのある服…これは…
「嫌ですわ…決まっているでしょうに」
委員全員が立ち上がり腰の得物に手を伸ばした、余計な発言をすれば斬る…そんな空気だが
「あら?死にたいならお手伝いしてもよろしくてよ?」
委員達の背後からそんな声が響いた、委員達は固まり武器からゆっくりと手を放した。
「そう、それでいいの」
あっけらかんと乙葉は笑顔で言い放った、三柳乙葉…最強の一角であり私が…いやこの部屋の誰もが気がつかぬ間に全員を始末することが出来る女であるが見た目は金髪をツインテールにしたただの幼女にしか見えない、これで二十八歳だというのだから驚きである。
「さ、一葉ちゃん…行きましょうか」
査問委員達が歯ぎしりをする中私を引っ張り悠然と進み出した、どうやら私の人生はまだまだ続くようだ。
「楽になさって」
部屋につくなり乙葉はそう言った、この状況で楽に出来る人物がいたら見てみたい。
「あ、申し訳ありませんわ」
気がついてくれたようだ。
「手錠を外さないと楽にできませんものね、中西!」
ダメだった、お付きの中西が手錠を外してくれる、両手は自由になった…結構マシにはなったがこの重圧…どうしようもない。
「三柳一葉」
なんだか自分の固有名の前に聞きなれた物がついてきている、そして私は置き去りだ、誰か私に説明してほしい…まずこの人何をしたいのってところから。
「貴女の新しい名前…というにはおかしいかしら?そうねぇ…人間で言う所の……そうそう、コードネームよコードネーム、あだ名みたいなもの」
中々素晴らしい人である、名前や出身を隠すための名前コードネームでどこのスパイか丸わかりのコードネームをつけるなんてどこの大物でもやらない、ルーズベルトやスターリンですらやらないと思う行動をやってのけた。
「貴女にやってほしい任務があるのだけれど…どう?戻りたい?査問部屋に」
紅茶を嗜みながらさらりと脅してきた、処分されて死ぬか任務で戦って死ぬか選べときたものだ…この人大物すぎる、私にどっちを選んでも得がないのにそんな事言ってる。
でも任務先なら逃げ出す事も…いや、無理だ、三柳から逃げられる者など存在しな…いや一人だけ存在して現在も元気であるらしいが私には無理だ、私の頭脳は逃走開始から一時間後で捕まり殺されるとすでに結論を出した。
なら選ぶのは一つだけ、私も異能者の端くれ、死ぬなら戦いで死にたい。
「やります…」
私は蚊の鳴くような声でそう言った、乙葉は大層満足そうに笑って私に刀を投げてよこした、装備の支給…にしてはいい刀だ、鞘から引き出すと刀身が一瞬燃えた。
「これって…査問委員長の刀じゃ…」
「そうよ、桜火。その子の名前」
「こ、こんな良いものは…」
「構わないわ、それより貴女にやってもらう任務の事だけど…常闇学園って知ってる?」
知ってるも何も私が夢見るほど行きたい場所だ、地球に唯一存在する三年制の異能者学校…年若い異能者が全て集まる学校だ。
「貴女の任務はそこで学業をすること、現地に貴女のサポートたるエージェントもすでに向かわせた。その服は今年入学した一年生の服ね。理由は聞くな、以上よ。中西!一葉を地球行きの巡洋艦に押し込んでとっとと出発させなさい」
無茶苦茶である、任務内容もよくわからないまま中西さんに引きずられる私…ねー私が何したのー?反乱起こしたんだよねーアハハ~。
「ああ、そうそう一葉ちゃん」
やっぱり言い忘れていた事があったんだ、希望の眼差しで乙葉を見つめる。
「楽しんで来てね♪」
いちいち呼びとめる事じゃなかったりとか言いたい事一杯あるのに憐れ私はそのまま巡洋艦に押し込められ母なる地球へと旅立っていくのだった。
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