<米韓首脳会談>「連携」に温度差
毎日新聞 5月8日(水)22時0分配信
オバマ米大統領と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は7日の共同記者会見で、両国が連携して北朝鮮に対応していく姿勢をアピールした。だが、両首脳の発言からは、両国の政策にもともとある温度差が感じ取れた。朴氏はさらに、これまで北朝鮮政策における当然の前提だった日米韓3カ国の協力にも疑問を抱いていることもうかがわせた。過去の歴史問題を巡る日韓の対立が、米国の北朝鮮政策にも悪影響を及ぼす可能性が表面化した。【ワシントン澤田克己、白戸圭一】
◇対北朝鮮、結束強調でも
「北朝鮮は、最近の挑発行為で米韓の間に亀裂を作ろうと考えていたかもしれない。そうだとしたら、今日(の会談)は、北朝鮮がまたもや失敗したことを証明するものだ」
オバマ大統領は共同記者会見で、自ら危機をあおり国際社会から譲歩を引き出す北朝鮮の瀬戸際戦術の「失敗」を断言し、米韓に日本を加えた3カ国の北朝鮮政策の一致を強調した。さらに、北朝鮮が非核化へ向け実際に動いていない現状では、対話が不可能であると指摘した。オバマ氏の発言は、「北朝鮮による非核化へ向けた具体的行動」を対話条件とする「戦略的忍耐」という政権の基本姿勢を明示するものだ。
だが、朴氏の基本政策は、南北双方が可能な限り誠実な姿勢を取ることで信頼を積み上げ、関係を改善していこうとする「朝鮮半島信頼プロセス」だ。
南北経済協力の象徴である開城(ケソン)工業団地は、南北関係の悪化で事実上の閉鎖に追い込まれたが、朴政権は核問題と切り離す形で対話による解決の道を模索する。「戦略的忍耐」とは一線を画す対応だ。
米議会調査局が先月まとめた報告書は、朴政権のこうした姿勢が米国の関心事と衝突しうると指摘している。オバマ氏のこの日の発言は、こうした懸念を背景に、北朝鮮との対話に前のめりになりがちな韓国を自らの路線内に押しとどめようとするものだ。
一方、オバマ政権は、北朝鮮への圧力強化に同調するよう中国への働きかけを強めている。中国の「助け舟」がないことを北朝鮮に示し、挑発を思いとどまらせる狙いだ。
ただ、この戦略が機能するには、日米韓が「挑発しても対話には応じない」方針で一致する必要がある。足並みが乱れれば、北朝鮮につけ入る隙(すき)を与えてしまうからだ。だからこそ、米国は今回の首脳会談で米韓が一致していることをアピールした。だが、韓国との温度差は依然として残っており、米国にとっては今後も、いかに足並みの乱れを最小化するかが最重点課題となりそうだ。
◇日本外し、米に悪影響も
米国は、日韓両国との連携を北朝鮮政策における当然の前提としている。領土問題や歴史問題などで日韓関係が悪化することは望ましくない状況だ。
韓国政府関係者によると、首脳会談で日米韓の連携の重要性に言及したオバマ氏に対し、朴氏は「北東アジアの平和のため、日本が正しい歴史認識を持たねばならない」と反論した。
共同記者会見でもオバマ氏が日韓との緊密な協力を明言したのに対し、朴氏は「6カ国協議参加国および国際社会との協力」という言い方に終始し「日本」という国名を出さなかった。
韓国の報道によると、朴政権は最近、北朝鮮情勢での新たな協力の枠組みとして米中韓3カ国による戦略対話という構想を立案。中国からは既に肯定的な返答を得ているという。
朴政権の動きは「日米韓」より「米中韓」を優先させたいという願望を反映したものだ。米韓首脳会談では議題にできなかった模様だが、朴政権の「日本外し」は今後も米国の東アジア政策に影響を与えそうだ。
ただ、米国の視線は、一方的に韓国を問題視するものではなくなっている。日本政府当局者は「昨年夏に李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領(当時)が竹島=韓国名・独島(ドクト)=へ上陸した時には、米国は韓国に批判的だった。だが、最近は、安倍晋三首相の一連の言動に対する風当たりの方が強い」と話している。
最終更新:5月8日(水)23時51分