第93号
透析に入る以前から腎臓病では動脈硬化が始まっている?
内 科  椎貝 達夫
<透析患者の動脈硬化>

 透析例では脳卒中、心筋梗塞などのいわゆる「心血管死」が多いことが知られています。一般の人たちに比べ、透析例では心血管死が10倍多いという報告があります。以前は血液透析が動脈硬化を促し、そのような現象がみられると考えられていました。
 超音波でしらべた内頚動脈の中膜の厚さ(CA-IMT)は動脈硬化の指標としてよく用いられます(図1)。
図1  【動脈断面図】
 このCA-IMTは血液透析を受けていた年数と比例するという報告がありました。ところが他の研究者はそのようなCA-IMTと透析年数との関係を見出せませんでした。つまり透析療法そのものが動脈硬化を促しているかどうかは、はっきりしないのです。
 大阪市立大学の腎臓内科の庄司医師たちは、健康者(302名)と透析前の腎不全患者(110名)、透析患者(345名)のCA-IMTを、年代毎に比較してみました。図2にあるように、年代とともにCA-IMTは各グループで厚くなり、右肩上がりの傾向がありますが、これは年齢とともに動脈硬化が進行することを示しています。しかし、もう一つ大事な成績は、50歳代以降の透析前の人のCAMTは健康者より厚くなっている点です。

 動脈硬化は透析療法で促されるのではなく、慢性の腎臓病にかかった時点ですでに始まっている可能性が高いのです。



<何が動脈硬化を促しているか>

 それでは慢性腎臓病の何が動脈硬化を促しているのでしょうか?
 腎臓病では血圧が高い傾向にあります。24時間の血圧を自動血圧計で記録してみると、昼間の血圧測定だけでは発見できなかった血圧の時期が見つかることがあります。
 動脈硬化の最大の促進因子である高血圧が本当にないのかどうか、取手協同病院や東京医科歯科大学に通っている患者さんで詳しく調べる必要があります。
 それ以外では総コレステロールなどの脂質、二次性副甲状腺機能亢進症、最近注目されている血中ホモシステイン、C反応性たんぱく(CRP)などが関係している可能性がありますが、はっきりしたことはわかっていません。
 そこで取手方式を行っている患者さんは

1. タバコをやめる
2. 血圧を十分に下げる。家庭血圧測定も当然行う
3. 総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪を年に4回はチェックし、正常範囲に保つようにする
4.

年一回は胸部レントゲン、心電図、腹部超音波、眼底、頭部MRIをしらべる。胸痛など狭心症を思わせる病状が一回でもあった人は、心臓について詳しい検査をうける。

以上を実行して下さい。

血液のCRP、副甲状腺ホルモン(インタクトPTH)はすでにチェック項目に入れていますが、高感度CRP、ホモシスティンについても定期チェックの必要があるか検討中です。
なお、頚動脈超音波、新しいCTスキャンによる「造影剤なしの心臓血管スクリーニング」については、どのような患者さんに適用するか現在検討中です。



カリウムはどのくらい減るのか? 〜カリウム除去法のポイント@〜

栄養部 川下祐喜子

みなさん、こんにちは。今号より2回に渡りカリウムについてお話します。

1.カリウムってなあに?

 カリウムは無機質(ミネラル)の仲間で、ありとあらゆる食品に含まれています。特に野菜類・果物類・芋類・海藻類に多く含まれています。
 口から摂取したカリウムは主に小腸で吸収され、通常、腎臓から排泄されます。
 保存期の慢性腎不全の患者さんが低たんぱく食を行いますと、たんぱく質を多く含む食品や野菜類などの使用量が減るため、カリウムの摂取量もおのずと少なくなります。そこで新たにカリウム制限を加えることはあまりないのですが、尿たんぱくを減少させる目的で使用されるACE阻害薬やアンジオテンシンU受容体拮抗薬の作用で血中のカリウム値が高くなってしまう方がいます。体の中にカリウムが過剰に貯まると、不整脈や心停止など心臓の機能に悪影響を及ぼします。

2.代表的なカリウム除去法

 ◎ゆでこぼす(ゆで汁は捨てる)
 ◎水にさらす
カリウムは水に溶ける性質を持っています。その性質を利用した代表的なカリウム除去法が次の2つです。


 これまでは、食品の表面積が大きくなる(せん切りや薄切りのように細かく切る)と食品中のカリウムは減りやすいといわれてきました。
しかし、それ以上の具体的な内容を示したものはなく、とにかく長時間ゆでる、長時間流水にさらせばカリウムは減るというような抽象的なものでした。実際に『水にずっとつけたり、長くゆでればカリウムは全部逃げるもの』と思われている方も多いと思います。

 そこで栄養部で食品中のカリウムがどのような処理でどのくらい減るのか、実際に測定してみましたのでお知らせします。

3.何分ゆでこぼせばいいの?

 上のグラフの通り、ゆでこぼしても食品中のカリウムがすべてなくなることはないということが分かります。ゆではじめの時点で多くのカリウムが溶け出し、時間を追うごとに緩やかな減少になるので、結果としてはその食品の食べ頃になるまでゆでれば良いと思われます。

4.何分水にさらせばいいの?

 ゆでこぼし時間と同様『水にさらす時間に比例してカリウムは減る』とはいえません。どれも15分で多くのカリウムが溶け出しています。きゅうりとたまねぎは一晩つけると更にカリウムは減りましたが、それらはすっかり透明になってしまい、ビタミンなど他の栄養素の損失もかなり大きいのではないかと考えられます。

5.水にさらす時、流水でなくてはいけないの?

 上のグラフの通り、流水でも溜めておいた水につけておいただけでも、差はほとんどみられませんでした。

6.水と酢水(水100mlに対し酢10ml)にさらした場合による比較

 以前より酢水につけるとカリウムはより多く減るようだといわれており、実際に比較すると水より1.5〜2倍カリウムが多く溶け出していました。レタスに関しては顕著な差はみられませんでしたが、これは一口大切りだったので、輪切りやスライスのものよりカリウムが逃げにくかったためと考えられます。
 また、キャベツ(せん切り)も試してみましたが、酢水につけると萎びてしまい、味も食感も悪くなってしまいました。

7.まとめ

 今回カリウム除去法を再検討してみて、以下のことが明確になりました。

@ゆでこぼす場合はその食品の食べ頃になる時間までゆでれば良い。

A水にさらす場合は約15〜30分間、ボールなどにためておいた水につけておけば良い。

その際、食品は表面積が大きくなるよう細かくきざんであると尚ベター。

B水にさらす場合水より酢水の方が良い。

但し、キャベツのように味や食感が悪くなってしまうものもあるので要注意。

 今までのように大きな手間をかけなくてもカリウムは除去することができます。また、野菜などゆですぎてくたくたになった料理を食べなければならない、生野菜は絶対食べられないということもなくなると思います。

 次号はこれらの除去法をもとに、カリウム制限を実際にどう行うかについてお話したいと思います。

◇ 患者さんコーナー【私の体験記】 ◇

「私の思うこと」

黒田 文恵

今から4年前のことです。言い知れぬ身体の不調を感じ幾度となく病院を受診致しましたが、クレアチニンは2.0、尿たんぱくや潜血反応もたいしたこともなく更年期だろうということでしたので、少々辛くても家事やお稽古事を続けていました。
 しかし、それにしても尋常でないと思い、ある病院を受診致しましたところ、ドクターより開口一番「もう腎機能は殆どなく、一歩一歩死に近づいていましたね」との言葉に唖然としてしまいました。今、ドクターハラスメントという言葉がマスコミや本の中にも登場してきますが、私も受診する度にドクターの発する暴言、そして、人格までも否定されるような言葉に傷つき、体調の悪さに加えて毎日が憂鬱に過ぎていました。
 ある日、心だけは元気でいたいと思い立ち、たくさんの情報を手に入れたく色々と調べていましたところ、椎貝先生の2冊の本が目に止まり、とても分かりやすく患者の立場に立っての文章に優しさや人柄が偲ばれ、直感でこういうお医者様に診て頂けたらと、無謀にも電話でお願い致しましたところ、私で良かったらみせて下さいとの嬉しい言葉が返ってきたのです。権威ある先生なので内心無理かなと思っていたのです。そうはいっても、以前のドクターのこともあり、少しドキドキしながら先生のもとを訪ねました。ところが、びっくりしたのは診察室からの先生と患者さんの笑い声、そして、待合室の患者さんの笑顔でした。以前の病院では考えられないことでした。
 それから約2年間、親身な治療とご指導を受けましたが、残念な事に透析導入になってしまいました。しかし、万全を尽くして頂いた結果でしたので、今でも前向きに少しずつ楽しく色々な工夫をして日々の生活を送ることができています。これも、幸運にも信頼できるドクターと出逢えたおかげです。今は千葉へ引越し、新しい施設へ通っていますが、なにか不安な時や選択肢に迷った時など、今でも先生の顔が目に浮かびます。
 私が一番大切に思うことは、いかに良い信頼関係を築ける先生と出逢えるかということだと思います。先生はどんな厳しい病状の中でも、常に希望のある方向へと導いて下さいました。そして、私の不安やトンチンカンな質問にもいつも嫌な顔も見せず丁寧に答えて下さいました。たくさんの患者を抱えての中、先生もお疲れの時もあるのにと思いながら、頭の下がる思いです。私は今でも先生を頼りに思っていますので、今後益々のご活躍と一人でも多く先生のようなお医者様を育てて頂ければと願っています。そして、セカンドオピニオンが自由に受けられる社会になることを希望します。
 最後に、患者も病気を受け入れ、先生方のご指導のもと食事療法に取り組んでいきましょう!

黒田文恵さんの解説

椎貝達夫
黒田文恵さんは1999年9月29日に東京医科歯科大学の小生の外来を受診されました。そ
れ以来大変熱心にご主人とともに通われましたが、1年2ヵ月で透析療法に入られました。
図にあるとおり、血清クレアチニンの逆数でみた腎不全の進行は小生の治療開始後はかな
り遅くなっています。しかし2000年7月ごろから尿たんぱく排泄量はそれまでの1日1.5gから
1日2.0g、2.6gへと増えました。透析直前には1日3.8gに達しています。その尿たんぱく増加
が速い進行をもたらしたものと思います。
 尿たんぱく増加を何とか抑えようと、食事の内容、血圧をよく検討し、薬としてはニューロタ
ン、ワソラン、エパデール、リピトールなどを処方しましたが、尿たんぱく増加と進行の加速を
押しとどめることができませんでした。患者さんと共にいろいろ努力しても最後にはむしろ進
行が速くなってしまった点、大変残念な、心残りのある経過でした。
 さて、黒田さんが透析に導入されてから2年7ヵ月経った現在だったら、治療として何かで
きることがあるでしょうか。
 食事内容は、前にも述べたようにすべてを実行されています。血圧は、140/86〜90程度
でほぼ調節されていました。
 薬としては、その当時と違うのは黒田さんに用いたニューロタン(アンジオテンシン受容体
拮抗薬)のグループが当時の2剤から4剤と2剤増え、新しい薬が有効のこともあり、現在で
したらニューロタンを他の受容体拮抗薬に変えてみると思います。また2000年10月から、小
生の外来でその1ヵ月前に米国医学雑誌へ発表された「アルダクトンA」のたんぱく尿減少
作用の追試が始まり、現在ではかなり有効であることがわかっていますので、アルダクトン
Aの追加投与を考えたいところです。
 そのような新しい治療を加えても、結局は透析療法の数ヵ月先伸ばし程度だったかもしれ
ません。
 しかし、ここで大切なのは、2年7ヵ月の間にそれだけ治療手段が増え、わずかではありま
すが治療が進歩している点です。
 がんの場合、治療の進歩は「5年生存率」で論じられます。腎臓病の場合は「死亡」を「透
析導入」に置きかえてみてよいと思います。
腎臓病も生存率で治療の進歩をみるべきなのですが、あまりそのような見方はありません。
「わずかだけ先伸ばしして何になる」という冷えきった見方をする人が今なお腎専門医のな
かにいます。
 しかし、がんの場合と同じく、生存率を数%でも良くしようという毎日の努力が結局は大き
な治療の進歩に結びつくのではないでしょうか。がんの場合には当たり前の見方が腎臓病
では無視されるというのは何とも不思議な気がします。
小生を含め、この治療に携わる医師は少しずつではあっても治療を進歩させることが大切と
考えています。そのような努力の積み重ねが、ある日「腎不全で透析に入ることは例外にな
った」という成果を生みだすのです。また手さぐりのなかから画期的な治療法が見つかること
もあります。
 黒田さんの経過から学べることはまだまだあると思います。一人一人の患者さんの経過を
よく見なおし、治療法を進歩させていきます。

《皆さんの声をお聞かせ下さい》

投稿を募集します。食事療法に取り組んでの感想、
または質問などでも結構です。
800字程度にまとめて頂き、「腎臓病・医と食の会』事務局までお送り下さい。
宜しくお願い致します。
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