2007年夏公開された、映画『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』が待望のDVD化。この物語は、病気によって尾びれの多くを失った沖縄美ら海水族館のイルカ・フジが、人工の尾びれにより泳ぐ力を取り戻し、再び宙高くジャンプできるようになるまでを映画化した作品。この物語は、巨大な水槽やジンベイザメのイメージが強い美ら海水族館の別の姿を教えてくれた。監督の前田哲監督と、海獣課課長役を好演した俳優の利重剛さんに、撮影の舞台裏を聞いた。(箆柄暦:萩野一政)

『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』のストーリー

2002年11月、海洋博公園内にあった旧水族館に代わり、沖縄美ら海水族館が開館した。この時、華やかなオープニングの裏側で、もう一つのドラマが展開されていた。3頭の子供を産み育て“ビッグマザー”と呼ばれていたバンドウイルカのフジが、尾びれの壊死する謎の病に冒されていたのだ。切除手術で命は助かったが、尾びれの75%を失ったフジは泳ぐ気力を失ってしう。生かすだけの治療に疑問を感じた水族館の獣医師は、タイヤメーカーのブリヂストンに人工尾びれの開発を依頼する。水族館スタッフと技術者、そしてフジによる試行錯誤を経て、遂に世界初のイルカの人工尾びれが出来上がる。新しい尾びれを装着したフジは再び宙(そら)高くジャンプするまでに泳ぐ力を取り戻す。映画はこの物語を丹念に作品に仕上げている。

イルカと映画を作るという体験

----前田監督が今回この映画を撮ろうと思った切っ掛けはなんだったんですか。

前田哲監督(以下、「前田」):実は、この映画は僕からアプローチしたわけではないんです。縁があって監督の依頼をいただいたんですが、その時点で僕はフジのことをぜんぜん知らなくて。そこから原作を読んだり、資料のビデオを見たりして、これはすごい話だなと思って引き受けました。普通こういう映画を監督する機会なんてのは、あんまりないですからね。貴重な体験を山ほどさせて頂きました。

----普段ない機会というとどんな点でしょう。

前田:ただでさえ動物相手に映画を撮るっていうのは大変なのに、相手はイルカですよ。実話がもとになっている作品ですが、イルカが事実をどこまで再現してくれるのかわからない。それに、水族館側は全面協力を約束してくれていましたが、どこまで協力してもらえるのかも分からない。映画の現場では蓋を開けたら全然たいして協力してくれないなんて事もいっぱいあるんです。でも今回は、内田詮三館長はじめ、植田啓一獣医や水族館スタッフの皆さんにこれ以上ないって言うくらい協力して頂いて、最高の環境で撮影が出来ました。そして何よりも、イルカのフジが素晴らしい“女優さん”だったんです。

利重剛さん(以下、「利重」):そうなんですよね、予想以上にフジが素晴らしくってね。どう見ても映画の撮影だってわかってんじゃないかっていうようなことが何度もありました。例えば、リハーサルで「あそこはもうちょっと間合いが詰まるといいんだけどな」って感じていたところを、本番ではフジの方から詰めてきたりしてね。カットがかかった後に水から顔出して「これでいいでしょ?」って顔するんですよ。えーってかんじでしたね(笑)。フジはもともと芸をするのが好きじゃないイルカなんだそうです。天の邪鬼な性格で、飼育員が指示を出してもわざとそうしないようなところがある。そのフジがここまでやってくれたっていうのは、僕たちが自分(フジ)のために何かやろうとしているってことを分かっていたと思いますよ。

----利重さんが演じていた海獣課課長は優しさと厳しさを併せ持つ印象的な役でしたが、監督は最初から利重さんをイメージされていたのですか。

前田:今回何故か、プロデューサーさんと僕の間で「利重さんには出てもらう」ということで共通して決まっていたんですね、あとはどの役をお願いしようかみたいなことだけでした。この映画は事実だけだとドキュメンタリーっぽくなってしまって映画として物足りなくなってしまうと思っていたので、サイドストーリーで映画としての厚みも出したかったんですね。利重さんは、海獣課課長としての演技だけでなく、内地から移住してカフェをやっている女性(永作博美さんが演じました)とのラブな話の方も好演していただきました。普通こういうのってわざとらしくなりがちなんですけど、利重さんのおかげで気持ちよく、恥ずかしくなく、心地良い感じに撮れたと思います。

利重:僕も前から前田監督と仕事してみたかったので、「脚本読んでみてください」って渡された段階で即、「参加しますよそれは」って答えて、「で、役なに?」ってかんじで引き受けました(笑)