村上春樹さんの新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のAmazonレビュー欄にとてつもない文章があるとネット各地で話題になっています。確認した時点で、およそ1万1000人がレビューを読み、そのうち95%以上が「参考になった」と投票しています。一体どんな内容なんでしょうか。
レビュー欄を見ると、まずとても長い文章があることに気がつきます。字数はなんと6000字超。原稿用紙15枚以上という気合いの入りようです。気になる星の数はたった1つ。そう、内容はずばり酷評そのものです。歯に衣着せぬ物言いで本作をディスりまくっているのですが、それがある種の芸の域に達しているため、高評価を獲得しているのでしょう。
レビュータイトルは「孤独なサラリーマンのイカ臭い妄想小説」。なかなか挑発的な感じですが、本文も冒頭からハイテンションでスタートします。いきなり、テレビ番組「王様のブランチ」の本紹介コーナーでの一幕を想像してみせ、それから自身の春樹作品に対するスタンスを説明し始めます。
「『風の歌を聴け』をはじめて読んだときは衝撃をうけました。その主人公のあまりのオシャンティーぶりに全身から血の気が引きそうになったのを覚えております。だって……あれだぜ……。ジャズバーにいたら自然と女が寄ってきて、そんで全然そんな気ないのに、ちょっと会話してたらもう部屋に連れ込めてるんだぜ?」と、オシャンティー(お洒落)などの用語を使い、小説の描写を例に上げつつ、それらにツッコミを入れていきます。
例えば、本作の主人公・多崎つくるが孤独な人物であることを説明する描写――「1人暮らしの部屋に戻ると床に座り、壁にもたれて死について、あるいは生の欠落について思いを巡らせた。彼の前には暗い淵が大きな口を開け、地球の芯にまでまっすぐ通じていた」――に対し、「いちいち言い方がおおげさ」「暗い淵が地球の芯にまでって……いくらなんでも深すぎ」などと細かくツッコミます。ちなみに、「イカ臭い」とは“思春期をこじらせた中学生が使いそうな言い回し”を指しているとのこと。
レビュー主は、主人公がぼっちという設定には共感を抱いたものの、すぐに、「あ、これはおいらとは違う」と思い直します。序盤の20ページくらいで、主人公は恵比寿のバーで女性と会話をはじめ、さらにバーに入った理由が「とりあえずチーズかナッツでもつまもうかと思ったから」ということで、以下、怒涛の引用とディスが続きます。
ツッコミの矛先はほかのキャラにも向けられます。主人公の友人のせりふ「俺は思うんだが、事実というのは砂に埋もれた都市のようなものだ……」については、「福山雅治なら許されます。ガリレオのときの雅治なら許されます。しかし、それ以外は、断じて許されません」と強い口調で訴えます。こうした比喩をよく使うことと、独特のリズムを持った文体がこのレビューの特徴です。
最終段落では、レビュー主が本作になじめなかった理由と、ある閃きについて書かれているのですが、それはネタバレ要素が含まれるため、伏せておきます。気になった人は是非、Amazonにアクセスして原文を確認してみてください。なお、文中には「オス!おいら多崎つくる!」ではじまる怒涛の要約があり、これが500字以内でコンパクトにまとまったあらすじとなっており、一読の価値があります。
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