韓国との付き合い方に揺れる長崎・対馬市を取材しました。
人口や経済の衰退に悩む長崎県の対馬。国境という特性を生かし、観光に力を入れていますが、一方で弊害に悩まされています。
仏像盗難問題など、韓国との付き合い方に揺れる島を取材しました。
長崎・対馬市、この島が今、あるブームで大にぎわいとなっている。
フェリー乗り場は普段は閑散としているが、ある路線の到着時刻が近づくと、大型バスの列ができる。
駐車場は満杯。
午前11時、韓国からの高速船が到着した。
今、対馬では、韓国からの観光客が押し寄せている。
対馬から博多までは、およそ138kmなのに対し、韓国の釜山(プサン)はわずかか54km。
高速船は3社が乗り入れ、1時間10分で結び、料金は往復4,000円からとなっている。
人口3万4,000の島に、年間15万人の韓国人観光客が押し寄せる。
対馬市観光物産推進本部の本石 健一郎本部長は「有史以来の数字かと思っております」と話した。
観光地では、ハングルのアナウンスや看板まで用意し、街なかの商店も、韓国人観光客目当てにハングル対応。
なぜ韓国人から対馬は人気なのか。
韓国からの対島への旅費は、同じ国内の済州(チェジュ)島に行くよりも安いという。
だが、対馬の旅館やホテルが全て歓迎一色かというと、そういうわけでもないようだった。
対馬の旅館経営者は「予約はいっぱいあるとですけど、もう全部断ってます」と話した。
一部の韓国人ツアー客のマナーの悪さにも困っていたという。
対馬の旅館経営者は「流さないわけですよ、トイレを、一晩中騒ぐわけですよ。少し静かにしてくれんかと言われても、それをもう、聞かないし、そして予約しても来ないことがあるし。もうそれでこりごりしまして、もう今はですね、断ってます」と話した。
島内でも問題になっているのが、ごみ問題。
ここは韓国側に面する、木坂海岸。
五穀豊穣(ほうじょう)を願う「ヤクマの塔」で知られる風光明媚な場所だが、韓国からの漂流ごみに悩まされる。
多いときでは、年間およそ5億円の費用をかけて処理しているが、大きな負担となっている。
また日韓関係をめぐる緊迫した状況も、客を取らない理由になっているという。
2012年5月、対島沖35kmの地点で、韓国のアナゴカゴ漁船を、海上保安庁の巡視船が発見。
違法操業が相次ぐ。
さらには、2012年10月、対馬市内の観音寺で、仏像が韓国人窃盗グループによって盗まれ、返還されない問題。
韓国側の僧侶が来日したが、「盗難事件以前に、お互いが胸襟を開いてまず話し合うべきではないか」などと話した。
この問題は、依然解決する見通しが立っていない。
取材班は、韓国人観光客や、宿泊施設に取材を申し込んだが、軒並み拒否。
唯一、ある旅館経営者だけが取材に応じた。
対馬の旅館経営者は「対馬の旅館はほとんど泊まらせてますよ。皆さんはそれは嫌だということはわかっていても、やっぱり経営状態の問題もありますし。背に腹は代えられないという」と話した。
さらに3月には、韓国・京畿道(キョンギド)の市議会が、「対島は韓国の領土」と決議。
これに対して対馬市長も、「笑止千番」と声明を発表した。
韓国との交流で築き上げてきた島の歴史は、転換期を迎えている。
今、課題となっているのは、国防に関わる問題。
韓国からのツアー客が必ず訪れるという韓国展望所。
これは16年前に作られた。
条件がよければ釜山市内が見通せるのだが、一番きれいに見えているのは、航空自衛隊のレーダー基地。
また韓国企業による土地の買収が、島内で懸念されている。
海上自衛隊対馬防備隊本部の基地に隣接した2か所の敷地が、韓国企業により買収される事態が起こった。
2009年には、長崎県知事が視察を行い、安全保障上問題はないとしている。
しかし、基地の隣接地に外国資本の建造物があること自体に懸念がある。
だが、対馬もほかの離島と同じく、人口減少、産業衰退に悩まされ、今後も隣国、韓国との交流を続けていかざるを得ない。
対馬市観光物産推進本部の本石本部長は「わたしども、動こうにも動けない隣人ですから、逆に言えば、したたかに生きていくのも対馬人かなと」と話した。
選ぶことはできぬ隣人とどう向き合っていくのか。
国境に面する離島からは、国の主体的な離島政策を望む声が、悲鳴のように上がってくる。