松井秀喜は「引き受ける男」だ。
高校時代に5打席連続敬遠されても、入団時から巨人の4番を期待されても、東スポに好きなAV嬢を答えて何度も記事にされても、いつだって引き受けてきた。スケベイスを東スポから贈呈された時も静かに引き受けた。
国民栄誉賞受賞に対して「まだ早い」「松井より先に受賞すべき人がいる」「政治利用されている」という声があったが、当然本人も耳にしたはずだ。
しかし、松井は引き受けた。
「(長嶋茂雄)監督が国民栄誉賞を受賞したことを、おそらく国民の誰よりもうれしく思っています。その気持ちだけです」と松井は言った。
長嶋さんが自分より後に国民栄誉賞をもらうのはヘンだ。それなら引退という区切りがある今回自分が受賞すれば、人生の恩師にも同時受賞のタイミングが整う。究極の気づかいをしたのかもしれない。
私の友人のマキタスポーツは松井を「国民のお兄ちゃん」と見立て、「松井がしっかりしてるから俺たちは安心して二度寝ができる」と以前から主張している。
確かにそうだ。松井のふるまいを見ていたらこれが国民栄誉賞授賞式ということを忘れ、「何か賞をあげたい」とつい思ってしまった。今までありがとう、松井兄ちゃん。
さて、プロ野球がおもしろいのはここからだ。同じ日、ナゴヤドームでは中村紀洋(DeNA)が通算2000安打を達成した。
何球団も渡り歩き、時にはトラブルメーカーとも報道もされた男が国民的セレモニーの裏でヒットをかっ飛ばす。国から表彰されるヒーローもいれば、お上が嫌がりそうなアンチヒーローもいる痛快。
翌日の6日には、谷繁元信(中日)が神宮球場で史上最年長の42歳4か月で通算2000安打を達成。ほぼ1年前に同じ神宮で宮本慎也の2000安打を観戦したときも感じたのだが、決して主軸打者ではないが、チームに長く喝を入れ続けてきた選手が元気に2000本に到達するのも最近の傾向だ。
そんな谷繁に前監督の落合博満は「まだ通過点。ノムさん(野村克也)の最多試合出場記録(3017試合)を抜いたらその時になって初めておめでとうと言う」とコメントしたらしい。こちらもすごい師弟。
谷繁にはぜひ「引き受けて」ほしい。