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憲法96条の政治戦 - 好機に護憲派は何をしているのか
今年のGWは、憲法96条改定の政治戦がキックオフされた1週間だった。テレビ各局の報道は、NHK(特に大越健介のNW9)を中心に怒濤の勢いで96条改定を正当化し、安倍晋三の積極発言を前面に押し出して、これを肯定する世論固めに躍起になっていた感がある。NHKやフジの手法を一瞥すると、この世論操作には二つの特徴があることが分かる。一つは、とにかく安倍晋三の映像でニュース番組をジャックし、世間で支持率の高い人気者の安倍晋三が96条改定に意欲的なのだから、安倍晋三の政策主張はことごとく正論であり、国民はそれに右倣えして追従するのが正しい判断だと吹き込む報道攻勢である。シンボルとしての安倍晋三を振り回し、「将軍様」として絶対化した安倍晋三の表象に全ての政策の正当性を吸収し、「将軍様」の威光を国民に照射し発散する形で、96条改定を説得するという方法だ。これは、特にNHKが強力に推進している工作の手口である。株価が下がったときはテレビで報道しない。株価が上がったときは、必ず大々的に報道し、アベノミクスの恩恵だと祝福する。安倍晋三の政策はこんなにも正しく、国民を幸福に導く神業だと繰り返し訓導する。その宣伝工作の反復と固定によって、安倍晋三の支持率の維持を図る。安倍晋三にとって不都合で不具合な情報、例えば朴槿惠による右傾化批判の発言などは、公共の電波から排除し、国民の耳には触れさせない。


安倍晋三の政治人格を神格化する演出と、それを「支持率」で根拠づける「報道」により、その政策の全体を理屈抜きで感覚的に絶対化して、思考停止的な判断状況の中で個別の政策論を扇動し敷延するやり方。北朝鮮的な個人崇拝の手法であり、ナチズムのプロパガンダの類型である。二つ目は、96条改定の正当化を言う前に、まず、この憲法は改定されるべきネガティブなもので、国民世論の多数が改定を望み求めていると刷り込む宣伝工作の方法である。フジとNHKがやっている。96条改定について詳しい中身に立ち入らない。せいぜい、フランスは27回、ドイツは58回といった、分かりやすい数字を並べて単純に強調し、日本の憲法の非改定の歴史を貶める程度だ。最高法規とか、硬性憲法の意味という中身で論議を噛み合わせることをしない。96条論、改正要件論に立ち入って論争すると、分が悪くなるので、外側から包括的・感性的に現憲法を悪性表象化する。そのときの論法は、現憲法に左翼のイデオロギー性のペンキを塗りつけ、これは左翼の憲法だから悪いのだと決めつける手法だ。印象操作の手法である。フジはこの手法が顕著だが、NHKも同じことを狡猾にやっている。言説は次のような三段論法を用いる。(1)今の憲法は時代に合わない(と国民は考えている)、(2)時代に合わないという意味は冷戦が終わったということだ、(3)だから世論調査で憲法改定に賛成が多数となる。

憲法記念日の5/3の夜、NHKは大胆かつ入念に「世論調査」のプロパガンダをやった。朝鮮中央テレビの女性アナを想起させる、ロボットのような表情の井上あさひが、グラフを示して「憲法改正の必要があるという人が増えた」という結論を言い、「改正の必要がないという人が6年前の24%から16%に減った」と強調した。この報道には驚いたが、何で驚いたかと言うと、朝日が5/2の紙面で報じた世論調査では、NHKとはかなり異なる結果が出ていたからだ。例えば9条については、NHKでは「改正する必要がある」が33%、「改正する必要がない」が30%で、9条改定賛成派が多数になっている。ところが朝日では、9条を「変えない方がよい」が52%、「変える方がよい」が39%で、NHKとは真逆の結果になっている。特に女性は、「変えない」が61%で、「変える」の28%の2倍以上。96条改定についてのNHKと朝日の相違は、何度も記事で紹介した。ここまでNHKと朝日で世論調査に差が出るのは珍しい。どちらが異常かと言えば、やはりNHKの方だろう。NHKが局の方針として9条改憲に舵を切り、参院選で改憲を争点にする安倍晋三を勝利させるべく、従来にない露骨な世論操作に出てきたと推理できる。その工作の要点は、今の憲法は冷戦前の憲法で、時代遅れの古臭いイデオロギーが染みついているという印象操作にある。このレッテル攻撃で現憲法の表象を丸ごと否定し、そこから、手続である96条改定を肯定するという論法を用いている。

以上、マスコミが96条改定をどのように説得し、どのような手法で世論操作しているか、その二つの特徴を指摘した。GWに議論の争点として急浮上した96条改定は、現時点で決して賛成派が多数となっていない。朝日・毎日だけでなく、地方紙のほぼ全紙が反対の論陣を張り、96条改定阻止の言論の態勢を明確にした。ここまで地方紙の主張が揃い、NHK・読売と対決する構図になったことは、最近の政治としては珍しい現象だ。NHKは慌てたのではないか。公正中立の公共放送であるNHKが、96条改定賛成が国民の多数という世論調査の「事実」を報道しながら、地方紙全紙が社説で反対を明言するという事実によって、あっさり引っ繰り返されたである。その「調査」と「報道」の信憑性が問われる。受信料という名の税金を国民から徴収しているNHKにとって、これは重大な信用問題だろう。さて、こうして96条をめぐる新聞の言論状況は、護憲派のわれわれに有利な形勢となっていて、機を見るに敏な田原総一朗のような業界ゴロが、姑息に96条改定反対の旗幟を上げたりしている。安倍晋三は、憲法記念日のマスコミ報道に合わせて、5/1にサウジで96条改定の意欲を示し、参院選の争点にすることを確認し、公明党の懐柔に自信を見せていたが、5/4に帰国後、地方紙が一斉に反発した情勢にたじろいだのか、5/5には少し慎重な口調になった。「まだ十分に国民的議論が深まっていない。熟議が必要だ」などと、相変わらず人を騙す口から出任せの弁を垂れている。

民主党の方も、GWまでは、96条改定反対は海江田万里の個人的な方針だったが、昨日(5/7)、党の認識として一致させる方向になった。関連した政局情報で、今日(5/8)の朝日の紙面に、「維新停滞」と見出しした記事が載っていて、参院1人区の候補者擁立が進まず、石原慎太郎が「維新は賞味期限を迎えつつある」と泣き言を言ったとある。低迷を打開すべく、議員団は橋下徹に参院選出馬を懇請しているが、負け戦で恥をかくのが嫌な橋下徹は、これを渋って逃げているらしい。「このままでは都議選も惨敗する」という議員の声が紹介されている。グッドニュースだ。96条護守の政治と維新の政局情勢とは密接に関連している。6月の都議選で、維新を完膚なきまで叩きのめし、二度と起き上がれないようにしないといけない。それを契機に、安倍晋三と右翼に対する逆風の情勢を作り、改憲を参院選の争点にすることを断念させるか、それを争点にした決戦で自民党を敗北させなくてはいけない。今、96条墨守の護憲派にとって風はフォローだ。ここで、大きく運動を立ち起こす必要がある。どれほど橋下維新が失速しても、その分を安倍自民が回収し、安倍晋三の支持率が不動であれば、参院選で自民が圧勝し、3分の2による発議の展望が開かれる。NHK(大越健介)は必死で安倍晋三の支持率を持ち支えるべく、毎晩毎晩、「将軍様」の英知と威光を讃える宣伝報道を続ける。96条改定反対が国民の声なのだと、下からの運動を盛り上げて示威し、96条改定反対の新聞人を後押ししないといけない。

NHKに対して下からカウンターの攻勢をかけ、NHKの反動報道を追い詰めなくてはいけない。96条の問題を梃子にして、この2か月で、安倍晋三への世論賛否を逆転させる必要がある。96条改定の論議を切り口に、そこから自民党憲法草案の全貌を説き明かして行き、その恐るべき反動性をあまねく暴露することができれば、政治戦を護憲派の勝利に導くことができるだろう。マスコミは自民党の憲法草案をまともに報道しておらず、国民はその内容を未だ詳しく知らない。護憲派は大きな国民集会を打つべきだ。9条の会が率先して企画するべきだろう。だが、ここで懸念となる問題に気づいたので書いておく。5/3に日比谷で護憲派の憲法集会が開催されたが、参加人数が3500人に止まっているのだ。この5・3憲法集会は毎年恒例のもので、2001年に始まって今回で13回目になる。共産と社民の党首が顔を揃えて演壇に立ち、横断幕を持って行進する、今ではきわめて例外的な社共共闘の行動(年中行事)として有名だ。この集会とデモ、6年前の2007年のときは7000人が銀座をパレードしている。第1次安倍内閣のときで、やはり改憲の気運が高まっていた時期だ。今回は、安倍晋三が明確に参院選の争点にすると宣告していて、危機の深刻さは前回以上なのだが、半分の人数しか動員できていない。この数字は、NHKと右翼が宣伝工作で流している、「現憲法は左翼憲法で、護憲派は急速に衰えて減っている」という誹謗言説を裏付ける材料になりかねない。護憲派は7000人を上回る1万人規模の集会を打つ必要がある。

9条の会事務局長の小森陽一は、5/5の朝日の紙面記事で、「世代交代も簡単には進まない。どう運動を立て直すか」と繰り言を言っている。しかし、こんな愚痴を聞かされる前に、小森陽一や9条の会が、どのように若い世代を運動の担い手とすべく試行錯誤し、運動の再建や活性化を図っているのか、取り組みが全く見えないし、何もせずに事態を静観しているように見える。怠慢としか思えない。今は護憲派にとって好機なのだ。96条を守る戦いに勝つ中で9条を守ることができ、平和憲法の意義を一般に浸透させることができる。なぜ真面目に戦略を立て、陣容を整え、政治戦を挑もうとしないのだろう。


by thessalonike5 | 2013-05-08 23:30 | Trackback(1) | Comments(1)
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Tracked from NY多層金魚 = Con.. at 2013-05-08 22:51
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緑立ちぬ(1)アメリカのメイデー 続・都心溶融した資本主義(1)よりつづく  そこユニオン・スクエアのすべての緑が、どの森の緑よりもピカいちに輝いていたのです。思い切りの太陽光をあびて、一本一本が光合成を謳歌している様子でした。その森の下にはほんとうにさまざまなひとが溢れていて、その前にいるだれかとひと言話しはじめると、その場のみんながさっと分かりあえる気がする。あぁ新しい仲間なんだなと再認識できて、突然、七人のこびとのひとり、耳の大きなドーピーになった感じです。メイデーをこんなに楽しんでい......more
Commented by かまどがま at 2013-05-08 23:56 x
内田樹氏のブログ『改憲案の「新しさ」』で、時代に合わなくなった憲法と云う意味、グローバル化する企業にとって国民国家や基本的人権などが足かせになっているということがわかりやすく書いてありました。国際競争の中で生き残るためには、国民の権利などに構っていられないと言う意味で古くなった憲法なのです。
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