マネジメントをきちんとする
財団法人 海洋博覧会記念公園管理財団 沖縄美ら海水族館
  海獣課 主任技師 植 田 啓 一さん 大学獣医学科1996(平成8)年卒業

 沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館で獣医師として活躍中の植田啓一さんにお話を伺いました。
 海洋博覧会記念公園管理財団は、沖縄国際海洋博覧会跡地を整備し、日本で唯一の亜熱帯性植物の育成に関する調査・研究とその知識の普及等を実施し、さらに国営公園の管理運営をも行う機関として設立されたもので、海洋博公園と首里城公園を整備管理しています。
 沖縄美ら海水族館は海洋博公園内に位置し、世界最大規模の大水槽を有し、水槽の水にオープンシステムと呼ばれる新鮮な海水を水槽にくみ上げて再び海に戻すシステムを採用、屋根をつけずに自然光を入れるなど自然に近い環境で、世界でここだけのオニイトマキエイの複数飼育、世界初となる体長7mのジンベイザメの繁殖を目指した複数飼育、生きたサンゴの大規模飼育などユニークな飼育に取り組んでいます。
 ほかにもイルカなどの鯨類や、マナティ、カメ、その他の魚類を飼育し、昨年の年間入園者数は約220万人を数えています。
 2002年秋、バンドウイルカの「フジ」が尾びれの末端から壊死する病気にかかり、一命は取り留めたものの尾びれの75%を失い、自由に泳げないストレスで気力をも失なってしまったことから、「フジ」の運動機能回復とイルカの尾びれを科学的に検証することを目指し、「イルカ人工尾びれプロジェクト」がスタート。
 株式会社ブリヂストン社をはじめ、造形作家など多くの人々が、それぞれの専門分野においてボランティアとしてかかわり、2004年12月ついに、世界初のイルカ人工尾びれが誕生しました。
 植田さんは、このプロジェクトにおいて中心的な役割を果たすなど、水族館での獣医医療に取り組んでいます。

Q.酪農学園入学のきっかけは?
A.生物が好きで、興味があったので、動物に関わる仕事をしたいと考え獣医を志し、酪農学園へは、北海道というとても魅力的な立地と実習が多いと聞いたことで進学を決めました。


Q.学生時代は?
A.2年時に病理の松川清教授の授業で、「将来どんな獣医になりたいか」という質問があり、「海獣医になりたい」と答えたことから、泉澤康晴教授を紹介され、「あなたにとってのイルカが好きということは、犬・猫が好きと同じレベルなのか、イルカの何がしたいのか? 解剖、臨床、生態、またはライフワークなのか考えなさい」との指導を受けました。
 それから、臨床がやりたいとの目標ができ、あちこちの水族館に実習に行き、とにかく、足しげく水族館に通いましたね。
 また、学内では、どっぷりと患畜と向い合っていたような気がします。

Q.本学で学んだことで今の考え方に影響を与えたことがあれば。

A.泉澤教授から「マネジメントをきちんとしなさい。1年後10年後、そして命を全うするまでの事を考えるのが獣医師としての務めであり仕事である」と教えられたことですね。

Q.フジの出来事を通しての感想を。

A.あきらめない。
 物事はすんなりいかない。
 人はまんざらでない。
 人間力のパワー。
 これが感想です。
 このプロジェクトは、さまざまな分野の専門技術のコラボレーションによって成功することができました。
 水族館関係者だけでなく造形作家やブリヂストン社など、異業種の人々が知恵を出し合って、ワクワクしながら失敗してもあきらめないで、心を合わせた結果、元気にジャンプするフジを見ることができたのです。
 私は本当に良い人達に恵まれました。
 これからも人とのつながりを大事にしていきたいと思います。
 成功=完成ではなくさらに改良を続け、日本鯨類研究所と共同で遊泳速度を解析し、人工尾びれの有益性の検証を進めていく予定です。
 人工尾びれの研究が、本来の尾びれの役割解明や、イルカで成功したなら他の動物への応用など、次へのステップになることを期待しています。



Q.これからの目標は?
A.水族館での治療レベルの向上。
 学会へも出て積極的に指導を受けたいですね。
 また、一般の人々にもっと水族館に興味を持っていただけるように努力工夫すること。
 水族館における専属獣医師の必要性が理解されるよう、頑張りたいです。

Q.在学生へのメッセージを。

A.自分の思うことをやってほしい。
 ただ、周りの人の意見を必ず聞くこと。
 間違っていたらやり直せばいい。
 自由な発想力で、頑張ってください。



プロフィール
1969年1月20日生まれ。36歳。
大阪府出身。妻と娘2人の4人家族。
イルカとの接触にも耐えられるユニークなメガネがトレードマーク。