中国が昨年8月、弾道ミサイルの運搬・発射用の大型特殊車両4両を北朝鮮に輸出していたことがわかった。日本政府が昨年10月、車両を運んだ貨物船で輸出目録を発見し、入手した。車両は今年4月、北朝鮮の軍事パレードで新型の弾道ミサイルを搭載して登場した。この輸出は、北朝鮮への大量破壊兵器関連物資の輸出などを禁じた国連安全保障理事会制裁決議に違反する。決議に反する対北支援を一貫して否定してきた中国の主張が崩れた。
複数の日本政府関係者が朝日新聞の取材に明らかにした。
日本と情報を共有した米国と韓国の計3カ国は、北朝鮮が3回目の核実験に踏み切る可能性があるなか、北朝鮮に強い影響力を持つ中国との関係を良好に保つ必要性があると判断。米国の主導で一連の経緯を公表せず、結果的に制裁決議の空文化を招いた。
4両を運んだのは、カンボジア船籍の貨物船「HARMONY WISH」(1999トン)。日米韓の情報衛星は、この船が昨年8月1日に上海を出港、3日後に北朝鮮西部の南浦に到着した事実を確認した。
その後、昨年10月3日に大阪港に入港していたこの船に対し、第5管区海上保安本部が任意で立ち入り検査を実施。不審な積み荷はなかったが、上海の輸出代理店が発行した輸出の詳細な目録が見つかった。内閣情報調査室を通じて外務・防衛両省、首相官邸に報告された。
目録によれば、輸出した貨物は、中国軍系の「中国航天科工集団公司」の子会社が昨年5月に開発・製造した大型特殊車両「WS51200」(全長21メートル)4両。中国軍はWS系と呼ばれるオフロード型車両を弾道ミサイルの運搬・発射用に開発してきた。「51200」型は、ミサイルの大型化に対応するため、従来の12輪の「2900」型を改造して16輪にしている。大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風31」(射程約8千キロ)の運搬を念頭に置いた開発とみられている。
輸出元は、中国の「武漢三江輸出入公司」で、中国航天科工集団公司の関連会社とみられる。輸入元は北朝鮮の「リムモク総合貿易会社」。日本政府がリストアップしている北朝鮮の武器輸出入関連企業の極秘ファイルには掲載されていない。同社は、北朝鮮が制裁を逃れるために作ったペーパーカンパニーの可能性が高いという。日本政府はこうした事実を外務省を通じて、米韓に通報した。
北朝鮮は、4月15日に平壌で行われた故金日成(キム・イルソン)国家主席の生誕100年を祝う軍事パレードで、新型の弾道ミサイルを搭載した16輪の大型車両8両を公開した。北朝鮮には発射台を搭載したこれらの車両を独自に開発する技術はなく、形状がWS51200に酷似していることから、日米韓は中国が輸出した4両と同一だと断定した。
そのうえで、日米韓は今回の輸出が、2009年の2度目の核実験を契機に、小火器や軽火器を除く全兵器と、その関連物資の北朝鮮への輸出を禁じた国連安保理の制裁決議1874号に違反すると結論づけた。制裁決議は安保理の最も強い意思表明手段で、加盟国に対して法的拘束力を持つ。
中国はこれまで対北朝鮮制裁決議に違反した事実はないと説明してきた。今回も公式には関与を否定していたが、米国が4月、中国に非公式にこの事実を提起したところ、初めて輸出の事実を認めたという。ただ、「伐採された大型木材を運搬する目的での輸出だった」として、あくまで民生用の輸出と釈明しているという。
政府関係者によると、中国の貿易実態をまとめた中国税関統計には、4両の輸出に関する記載はない。WS系車両はミサイル起立装置の装着を前提に開発されており、中国が国際社会の批判をかわすために強弁している可能性が高い。(牧野愛博)