群馬県太田市にある日野自動車の工場を訪れた。工場脇の空き地では、重機が白いほこりを上げながら敷地を掘り起こしていた。トラック・バスを生産する同社は、殺到する注文に対応するため、160億円を投資し、工場の拡張に着手した。同社のテヅカ・ヒデノブさんは「国内での工場拡張には円安が追い風になった」と話した。
日野自の工場から車で20分の距離にある富士重工業の大泉工場は、久しぶりに工場をフル稼働している。新車発売と円安の効果で、輸出が急増したためだ。同社のタベイ・ヨシアキさんは「注文が殺到し、一部の生産ラインは24時間稼働している」と説明。タクシー運転手のカメヤマ・ミチオさんは「工場の夜間操業が増え、夜にタクシーを利用する従業員が増えた。夜勤者をタクシーに乗せるのは何年ぶりか思い出せないほどで、久しぶりに地域の景気が回復している」と話した。
三洋電機のリストラなどで地域経済が大打撃を受けた大泉町は、最近の円安でにわかに活気づいている。工場の稼働率が高まり、臨時雇用の従業員も急増した。宿泊施設や飲食店も混み合っている。工場周辺には新築中の住宅、倉庫が目立つ。賃貸住宅のレオパレス21のハヤシ・マサアキさんは「派遣労働者の宿泊先を探す問い合わせが増えている」と説明した。
アベノミクスが円安をもたらし、円安が企業の業績を向上させ、投資を誘発するなど、日本経済は徐々に活力を取り戻している。
広島と山口にあるマツダの工場では、押し寄せる注文に対応するため、休日も従業員が出勤している。4年連続赤字という販売不振に苦しんだマツダは、2月の輸出が前年同期に比べ23%増加した。国内生産が70%を占めるマツダは、円高による直撃を受け、2012年3月期の最終損益が1077億円の赤字となった。しかし、昨年後半からの円安に支えられ、13年3月期は大幅な営業利益が見込まれる。株価は1年間で3倍に急騰した。