蝉コロン

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性別が7つある生き物とその決定機構

ヒトの性は2種類だ。集団に男女半々ずつとすると100人いたら交配相手の候補は50人ということになる。じゃあ7種類の性があったらどうなるのか!これも集団中に各性別が均等にいるとすると相手候補は100人中およそ85.7人になるのだ!!!!!!なんてお得!!!!!!よりどりみどり!!!!!!引く手あまた!!!!!!みどりあまた。


まあそれ言い出したら全員雌雄同体が一番お得かもしれないな……。なんかそれもつまらなそうだけど……。


テトラヒメナTetrahymena thermophilaには7つの性がある。「オス」と「メス」以外になにか名称があったら面白かったのにI,II,III,IV,V,VI,VIIと呼ばれています。味気ない。そのテトラヒメナの性決定の仕組みがちょっと明らかになったそうなので紹介します。

基礎知識

テトラヒメナはこういう単細胞生物。普通に分裂もするし成熟した奴が飢餓状態になると接合と呼ばれる交配もする。各性別見た目は全く同じなんだけど同性では交配できない。
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http://www.plosbiology.org/article/info:doi/10.1371/journal.pbio.0040304より

単細胞生物なんだけど、我々が生殖細胞*1と体細胞*2からできているように、次世代に受け継がれる遺伝情報を持つ小核(生殖核)と、一代限りの大核(soma nucleusだけど体核と呼ばれてるの見たこと無い。栄養核という表記あった)が細胞の中にあります。小核は我々で言うと減数分裂前の生殖細胞と一緒で2コピーのゲノムを持っている。大核はゲノムをワッショイワッショイ複製して2nどころじゃなくどっさりしている。個体としての活動は大核の遺伝情報で行われて、小核はコンパクトにして交配するまでしまっておくというシステム。交配後はまた小核から大核ができてくるちゅうスンポー。古い大核はデストローイされ、減数分裂と接合を経た新たな遺伝情報が今後この個体を支配するのだ。これ自体はゾウリムシなんかでも見られる様式です。つかゾウリムシで初めて発見された*3。ゾウリムシの性はO型とE型の2つ。確か性が二桁ある生物もいたような気がしたけど忘れた(追記:情報いただきました。エントリの最後に)。


ところでここまで書いて、果たしてmating typeはイコールsexなのか気になって来ましたがもう戻れないのでこのまま続けます。

性決定メカニズム

テトラヒメナの性が7つもあるのは1950年代から知られていたそうです。40年くらい経って1995年のPNAS論文High frequency of sex and equal frequencies of mating types in natural populations of the ciliate Tetrahymena thermophilaでは、研究者らがウオーって言って5,822クローンものテトラヒメナを調べたところ、やっぱり7つのタイプに分けられ、それぞれ15%前後のだいたい均等な割合で存在していたのだそうです。かわいそうに。まあPNASになったからいいか。


そして最近出た論文:PLOS Biology: Selecting One of Several Mating Types through Gene Segment Joining and Deletion in Tetrahymena thermophila


研究者らは以前にやってたRNA-seq解析から、飢餓状態になってるときのタイプVとVIのRNA配列のデータを持っていた。そんでその中から、接合時にVでだけ発現していてVIには出ていない配列を特定してゲノム上の場所も決定した。これらはゲノム上にhead-to-headで隣り合っている2つの遺伝子でMTA、MTBと名付けられた。膜貫通ドメインを持っていてつまり細胞膜表面にあるタンパク質をコードしている。テトラヒメナはお互いぺたっとコンタクトしたら同性か否かわかるそうで、細胞膜のタンパク質で識別されるのはなんかうまいこと辻褄が合っている。


この遺伝子ペアが潰れると、同性異性の区別がつかなくなり、子孫も残せないということで、確かに交配に必要なようだということが分かった。


タイプVのMTAとMTBがわかったので、じゃあそしたらVIのはどこにあるのよ、と思ってテトラヒメナゲノムをサーチしてみて研究者らは気付いた。なんか似たような配列が6ヶ所ある。そんでわあわあやってみての結論、

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http://www.plosbiology.org/article/info:doi/10.1371/journal.pbio.1001518
Figure 7より

  1. 小核ではII–V–VI–IV–VII–IIIの順にMTAとMTBのようなものが6つずつ並んでいる*4
  2. タイプIIのMTAとタイプIIIのMTBだけが機能できる形だが他は不完全。
  3. 大核ではそれがどれか1タイプのみのMTA、MTBが完成されてて他の配列が失われている。
  4. つまりゲノムが切ったり貼ったりされてて機能的な1タイプのみの遺伝子に再構成される。

図中、ピンクのVIは不完全でIIの持ってる頭とIIIの持ってるお尻が必要。相同組換えで他のタイプを削りつつ必要な配列がVIに受け渡されている。実際にはもっと細かい切り貼りみたいだけど、こうやって1タイプだけが完成すると考えられました。


まー、訳の分からん生物がやることだから特殊なんかもなーと思いきや、例えばヒトでも血球では、ガシャーンガシャーンとゲノムが再構成された抗体遺伝子が機能していたりするので、生物としては普遍的な技なんかもしれない。もともとテトラヒメナはテロメア研究で有名だしね。テトラヒメナのテロメアって早口言葉のようでそうでもない。



関連:原生生物研究の魅力 - Togetter



追記:情報いただきました。どえらい世界が広がってた。


*1:精子・卵

*2:自分そのものだと思っている方

*3:http://www.nict.go.jp/publication/NICT-News/1109/03.html参照

*4:type Iはなんか割愛されてる。異なる仕組み?