中国で深刻化している微小粒子状物質PM2・5による大気汚染問題で、日中韓3国が政府間の協力態勢を強化することになった。北九州市で開かれた3国の環境相会合で、政策対話の場[記事全文]
これからの道徳教育の話をしたい。社会のルールについて、子どもたちに深く考えてもらうにはどうすればよいのだろう。小学校の道徳の時間で、一人の先生がこ[記事全文]
中国で深刻化している微小粒子状物質PM2・5による大気汚染問題で、日中韓3国が政府間の協力態勢を強化することになった。
北九州市で開かれた3国の環境相会合で、政策対話の場を設けることなどで合意した。
国境をまたぐ大気汚染の防止には、政府間の緊密な連携が欠かせない。閣僚レベルによる今回の合意が、その一歩となることを期待する。
中国の周生賢・環境保護相は会合を欠席し、李幹傑次官が出席した。尖閣問題で硬化した中国政府の対日姿勢は、なおかたくなだ。
それでも、中国政府が次官を派遣してきたのは、問題の解決には環境対策のノウハウを持つ日本の協力が不可欠という事情があるからだろう。
PM2・5問題は、自動車の排気、石炭、建設工事、工場の排煙といった要因の複合体と言われ、解決は簡単ではない。
その一義的な責任は、成長優先で環境対策を後回しにしてきた中国政府にあることは言うまでもない。
ただ、中国では多くの日本企業が活動しており、問題の発生に日本が全く無関係ということでもない。
そして何よりも、中国の大気汚染は、会合の開催地、北九州をはじめ日本各地にも悪影響をもたらしつつある。
環境汚染で、国境線は意味をなさない。問題は、日本にとってもいや応なく「我がこと」となる。国境線を越えて協力に取り組むしかない。
日本政府には環境政策の蓄積がある。世界に誇る環境対応技術を持つ企業も多い。国内の公害で多くの犠牲を払ってきた経験のうえに培われたものだ。
ビジネスにしろ非営利にしろ、日本として協力できる余地は大きい。
中国では今月、上海や昆明で新たな工場建設に反対する市民の抗議活動があった。環境問題への人々の意識は急速に高まっており、日本の協力は対日観の改善にもつながるだろう。
3国が協力して取り組むべきは、なにも環境問題だけではない。ところが、5月に予定されていた日中韓首脳会談は延期され、日中韓財務相・中央銀行総裁会議も中止になった。
北朝鮮問題や3国の経済連携交渉など、現実を直視すればこんな異常事態がいつまでも放置されていいはずはない。
互いに引っ越せない隣国同士である。利害が一致する分野から地道に協力を進め、信頼関係を築き直すほかはない。
これからの道徳教育の話をしたい。
社会のルールについて、子どもたちに深く考えてもらうにはどうすればよいのだろう。
小学校の道徳の時間で、一人の先生がこんな授業をした。
《ある子が、電車に駆け込んで席を取った。でも実は、それは並んでいるお年寄りを見て席を取ってあげようと考えたからだった。どう考える?》
意見はわれた。議論の末、もっといい方法がある、と子どもたちは言いだした。座っている若い人に、席を譲るよう頼む。優先席に案内する……。
他人にぶつかってけがをさせないよう、車内に駆けこまないというマナー。お年寄りが座れるように、という思いやり。
価値と価値がぶつかり、一つの規範で白黒をわりきれずに悩む。世の中にはそんな場面がたくさんある。そういうときに、よりよい選択をできる子に育てたい。そんな狙いの授業だ。
一つの決まった答えはない。だからこそ、目の色を変えて意見を言い合う。
よき社会とは何か。よく生きるとは何か。あらかじめ用意した答えを与えるのではなく、討論を通じて考えを深める。テレビ番組などで話題を呼んだマイケル・サンデル教授の「白熱教室」のようではないか。
いま、文部科学省は道徳教育の改革を検討している。
いじめ対策の一環として、規範意識をはぐくむ必要がある。そんな政府の教育再生実行会議の提言を受けたものだ。
ほかの教科のように、検定教科書をつくる案もある。
はじめに、道徳に検定制度がなじむかどうかという問題がある。価値観にふみこまず、客観的な事実と異なる記述を点検するのが制度の趣旨だからだ。
次に、少年非行が近年減り続けていることを考えても、子どもたちのモラルが低下したとは必ずしも言えない。
こうした点をふまえたうえでよりよい道徳教育のありかたを探ることには賛成だ。
他者への想像力をもちつつ、きちんと自己主張もできる。社会と上手にかかわれる子を育てる場として、道徳の時間をいかしたい。
いまの学習指導要領は、教え方や教材について現場の創意工夫を重んじている。ニュースや身近なできごとを素材に、考える力を身につけさせる。そんな実践をしている先生は多い。
そのなかから良い取り組みを見つけて、広く共有する。道徳教育を豊かにする一つの方法ではないだろうか。