編集者注記: このゲスト記事では、SocialcastのファウンダTim Youngが、わずか5枚のスライドによるプレゼンテーションで、1年に3回の調達ラウンドを実現し、総額$10M(1000万ドル)の資金を獲得した彼自身の経験を、詳しく述べている。この記事は最初、“Knowledge Is Social”に掲出された。
“お手間は取らせません。スライドを5枚見ていただくだけで、わたくしどもの事業を十分にご理解いただけると思います。”
San Franciscoに引っ越してから1年あまりになるが、今日までの毎日、Socialcastとabout.meの構築に明け暮れていた。しかしその間に、Socialcastとabout.meの2社のために3回の資金調達ラウンドを行い、総額で$10M(1000万ドル)以上を獲得した。生後365日に満たないスタートアップ2社への投資を、ベンチャーキャピタリストたちに説得するのは至難だが、そのおかげで、資金獲得のためにすべきことと、してはならないことが、比較的短期間で分かってきた。以下に、資金調達の過程で学んだ貴重な教訓の概要を説明しよう。中でも、いちばん重要なのは最初のミーティングだ。そこで、自分の会社とそのビジョンを、初めて説明するのだから。
最初のミーティングではプロジェクターを使うな
ベンチャーのパートナーたちとの最初のミーティングは、会議室で行われることが多い*。スライドを映写したいときは、通常ならApple Mini DisplayPort − VGAアダプタを持参する。しかし、ある有名な大手ファンドのオフィスで、アダプタを忘れてきたことに気がついた。アダプタの借用をお願いするなど、準備不足を露呈するのはまずいと思ったので、方針を変え、自分のラップトップ(ノートパソコン)の画面にスライドを映写することにした。相手が複数のときはこの方法はおすすめしないが、そのときのミーティングでは非常にうまくいった。得られた投資の条件も、最高だった。なぜ、これがうまくいったのだろう? ふつう、企画を売り込むミーティングでは、投資家と自分が会議用のテーブルを挟んで対面する形になる。しかしノートパソコンの画面を見てもらいながら説明するときは、お互いが体をくっつけるようにして横並びになる。うちとけた感じが醸成され、お互いが快適で、リラックスできるのだ。〔*: パートナー、VC企業の投資参加者たち。〕
投資家の観点からものごとを見よ
ベンチャーのパートナーたちは、一人一人、性格やものの考え方が違う。スタートアップの事業を理解する場合も、製品やサービスに着目する人がいるかと思えば、主に財務的な側面を気にする人がいる。あるいは、開発チームの陣容に関心をもつ人もいる。そして資金を求めるファウンダの側も、どういうタイプのパートナーを求めるのかを、事前に明確にしていることが重要だ。自分と考えを共有してくれる人を求めるのか、あるいは、自分にない部分を補完してくれる投資家を求めるのか。これから会いにいく投資家の、経歴と中心的な観点を、事前に知っていることが重要だ(例:元銀行家だから財務面を重視するだろう)。それまで、営業をやっていた人か?、製品担当だったか?、ずっと一貫してベンチャー畑の人か?、このように経歴を知ることで、彼らのものの見方や、企業を育てる能力などの、見当をつけることができる。
最初のスライド
通常、初回のミーティングは30分から1時間ぐらいだ。そんな短時間で売り込みにばかり精を出していたら、投資家との質疑応答がまったくできない。それは、ファウンダが持ち込んだスライドの枚数が多すぎるときに、よく起きる。そのほとんどは、初回の説明用には要らないのだ。最初のミーティングの目的は、あくまでも、投資家に自分の会社を紹介し、関心の程度をさぐり、次の予定を立てることだ。その目的を達成するためには、事業の概要をしっかり理解してもらうこと。ややこしい議論や、技術的な細部には、立ち入らないことが重要だ。スライドの枚数が多いと、どうしても技術的な細かい話が多くなり、ミーティングが前に進まなくなる。私の場合は、初回のミーティングにはスライドを5枚しか持って行かない。スライドを30枚も映写して、説明のときにはまた’1′に戻る、なんてのは最悪だ。スライド5枚で事業の概要を説明できないときは、シナリオのゼロからの練り直しと、メッセージの単純化が必要だ。ミーティングの冒頭のあいさつや自己紹介などがすんだら、こうやって口火を切る:
“お手間は取らせません。スライドを5枚見ていただくだけで、わたくしどもの事業を十分にご理解いただけると思います(I have a short five-slide deck to share that provides a solid framework for understanding our business)。”
最初にこう言うと、投資家の心の中には、これから起きることの像ができる。そうか、30枚じゃなくて、たったの5枚か。最初にこれを言うと、必ず、投資家の心が前向きになってくれる。彼らの態度で、それが分かるのだ。わずか5枚か、じゃあ拝見しよう…。以下のスライドの範型を見てもお分かりのように、重点的に説明するのは、ビジョンと戦略と(投資家にとっての)価値と、ビジネスとしての可能性、この4点だけだ。
5枚のスライドが演ずる魔術
以下は、私が実際に売り込みで使った使ったスライドを、秘密情報や個人情報を取り去ってスケルトン化したものだ。AcmePowerは、架空の会社である。
スライド0: 表紙(会社のロゴと日付)
スライド1: 会社のスナップショット
現在の関係者をざっと紹介する: ファウンダ(複数可)、投資家(エンジェル、友人、家族など)、主な社員、アドバイザー。財務状況(得ている投資額など)。技術(何を使っているか…詳細でなくてよい)。顧客(バナーの広告主、アクティブユーザ数、など)。
スライド2: 数値
売上、利益、経費(月額)など。
スライド3: タイムライン(別名: マネースライド)
人間はパターンが好きだ。人は、パターンで世界を把握しようとする。このスライドは相当勉強しないと作れないが、もっとも価値ある、お金に結びつく、”マネースライド”なのだ。過去半年で会った5社のスタートアップは、いずれもこのタイプのスライドを使って、全員が資本のゲットに成功した。だからこのスライドが、5枚の中で最重要だ。このスライドでトレンドのパターン、すなわち未来の形を彼らの頭に刷り込み、その直後にデモを始める。注記: 以下のスライドはSocialcastで実際にActivity Streamsという製品の売り込みに使ったものだ。
ブランクスライド: 製品のデモ
売り込みの相手が一人のパートナーでも、あるいはVC企業のパートナー全員でも、話を前へ進めたくても今見たのやその前のスライドがえんえんと話題になることがある。そんな経験を二度したあと、ブランクスライドを入れるという対策を思いついた。とにかく、「この次の話がいちばん大事!」というタイミングでは、必ずブランクスライドを映す。ブランクスライドを見ると、注意が再び私に戻る。ただし、ブランクスライドの濫用はいけない(いちばん盛り上がるべきタイミングで使うこと)。5枚のスライドを使う最初のミーティングでは、1枚のブランクスライドを使って、プレゼンテーションの中に短い製品デモを挿入する。〔訳注: 下のブランクスライドの実例中には、「デモは焦点を極力絞り込み、3分以内で終わらせよ」、「ScreenFlowなどを使って反省しながら100回以上練習せよ」など、この記事の読者のための教えが書かれている。〕
スライド4: 製品の人気/顧客紹介
スライド5: 今後の計画
今現在最重視している上位3項目を挙げる。必要投資額を含めてもよい。これらが、この初回の売り込みにおける最重要項目でもある。
補助的スライド
以上5枚のスライドに対し、だいたい40枚ぐらいの補助的スライドをいつも用意する。初回のミーティングで使う機会はめったにないが、その後のミーティングでは役に立つ。投資家との話し合いの中で、詳しい説明が必要になったら使うのだ。必要だと感じられたら、それらすべてを使って事業の全貌を詳しく理解してもらってもよい。その約40枚は、以下のような種類に分かれる:
* 各チームメンバーの詳しい経歴
* 価値をプレゼンするための顧客ケーススタディ(二つぐらい)
* 顧客獲得/顧客創出の方法
* 技術の詳細説明
* ターゲットとする顧客層のプロフィール(どんな人たち/企業か)
* 市場の大きさと機会
スライドのルール
スライドに関していつも気をつけるシンプルで重要なルールは:
1. 顔、顔、なんといっても顔。すべては顔から始まる(Dave McClureはその点エライね)。社員を紹介するスライドでも、必ず顔があること。名前の羅列は、見る人をうんざりさせる。投資家は、名前ではなく、人間に投資するのだ。だから、人間を、最大限、魅力的に見せること。
2. シンプルで、饒舌でないこと。スライド1枚につき、訴えたいことは一つ。話がだらだら広がってくると、注意散漫となり、聴衆は自分のケータイを取り出して誰かと話し始める。
3. スライドにストーリー性があること。どんなに製品やチームがすばらしくても、それらが、視聴者がつい最後まで引き込まれてしまうストーリーの上に乗っていないと、印象も希薄になる。
4. 台本棒読みのナレーションはだめ。投資家たちは、あなたがどんな人間で、どれだけ上手に自分のビジョンを売り込めるのかを知りたがっている。台本棒読みのスライドは、情熱がまったく感じられず、プレゼンの全体を味気なくしてしまう。
5. スライドはあくまでも補助的データにすぎない。重要なのはスライドではなく、あなたの話だ。
そして、もっとも重要なのは:
6. スライドは人の目を見ることができない。それができるのは、あなただ。あなたのビジョンを、情熱を、熱中ぶりを伝え、そしていちばん重要なことだが、これからのあなたの旅路を投資家が共有するつもりになってくれるためには、いちばんものを言うのは、あなたの目である。
これらの教訓が、あなたの資金獲得と、ビジョン伝達のお役に立つことを望む。スライドはPDF形式で、ここからダウンロードできる: 魔術を演ずる5枚のスライド。
キーノートで使うスライドもあるので、メールをいただいた希望者にお送りしたい: tim@socialcast.com
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))