2013年1月18日金曜日

アルカナハート回想録3

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【ゲームシステムを考える】
新作格闘ゲームの製作が決定した。

アーケードゲームの売り上げは下降線を辿り、格闘ゲームというジャンル自体が廃れていっている時勢、ほとんどの企画がこの製作決定前に企画倒れとなる事を考えれば、この時点で一番の難関は乗り越えることが出来たようなもの。そう思いました、この時は本当に。

さて、ここまで来て、ようやくゲームの内容を詰めていく作業に入れます。
クライアントの要望をいくら取り入れたところで、格闘ゲームマニア層に指示されないようではゲームでは売り逃げして終わりになってしまう。

それじゃ、せっかくのチャンスも逃してしまうって事で、格闘ゲームの内容についてはかなり考え込みました。 幸い、ゲーム性についてはクライアントも口を出してきません。

おおまかな世界観は決まっているので、まずは世界観に合わせた基本システムの組み立てです。 
学園の設定とか守護聖霊とかはぁとの性格とかが出来てくるのは最後の方ですね。いわば後付け。

とりあえずターゲット層を再確認。
一番、重要視しなければいけないのはコアユーザー。
もう、これだけははずせない。

しかし、全員女キャラと言うわけで、本格的な格闘ゲーマーはそれほど多く遊んでくれないだろう。どちらかと言えば、アニメファン層に受け入れてもらいたい。
そもそもが、メルブラの二番煎じ企画なので、ターゲット層は大体をこの辺りを中心に、格闘ゲームを遊んでいる人たちになるだろうと予測。

次は、どういう方向のゲームにするかをざざーっと考えてみます。作りたい、遊びたい、求められてる、と思ったものをとにかく思い付くまま出してみたんですね。

格闘ゲームは大きく「コンボゲー」と呼ばれる、連続技を気持ち良く繋げていき、大ダメージを与えるタイプの物と、「差し合いゲー、読み合いゲー」と呼ばれる、対戦相手との、心理戦を重視した物に大別されます。
既存の格闘ゲームは、このどちらか、もしくは、この二つの要素を上手く取り入れてゲームデザインされており、後期の作品になるほどコンボゲーの比率が高まっています。

時流とインカムを考えれば、当然コンボゲーになるだろうと考えました。個人的には差し合いのゲーム性は大好きですが、対戦相手との読みあいが重視されるゲームは往々にして、CPU戦がつまらなくなりがちです。
CPU戦がつまらないと一人用が遊ばれなくなるので、対戦も発生しづらくなりインカムが上がりません。
ゲーセンからすれば、どんなに面白いゲームでもインカム、つまりお金が入らなければ必要ない物になります。

なので、おのずと一人でも練習ができるコンボ要素を入れることになっていきます。 
それならば、いっそコンボが気持ちよく繋がりまくるようにしてはどうかと発想しました。
このあたりで、既存の格闘ゲームで出来ることはなんでも出来てしまうゲーム性はどうかと考え始めます。

ダッシュ、ラン、2段ジャンプ、スーパージャンプ、空中ダッシュ、打ち上げからの空中コンボ、必殺技キャンセル、バースト等々。ありとあらゆる格闘ゲームの要素が入っていて、しかもゲームとして成り立っている。言ってるだけでもかなり無茶な企画ですね。

ここまでで「全員女キャラ、学園物、素手格闘 、コンボゲー、なんでも出来ちゃう」等ゲームを構成する大まかな要素がでてきて、ゲーム全体の大枠が見えてきました。

次回は「格ゲーヒット作 7つの法則」について書いてみます。

続く

2013年1月15日火曜日

アルカナハート回想録2

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【企画を詰めていく】
今回はアルカナハートの企画を進めていく話です。

企画の立ち上げは出来る限りクライアントの意向に沿うようにと進めていくので、アルカナのキャラは「萌えが好き」とか「スタッフの趣味」とかで出来た訳じゃないんですね。結果的に、非常にいいスタッフに恵まれて少々クセのあるキャラ達にはなりましたが。

全体の方向性が決まるまではわりと早かったのですが、本格的な作業に着手するまでは結構な時間がかかってしまい、他の業務と平行して半年くらいなんだかんだとアイデア会議を繰り返してました。

この時点で、3本立ち上げた内の「中世ファンタジー路線」の企画を担当していたメインスタッフの一人が退職してしまいます。元々退職の意思は聞いていたので、担当企画が落ちたことで残る理由はなくなったのでしょう。
すごく優秀な人だったので、彼がいればかなり違ったゲームになっていたと思います。

最初の企画書では、サムスピの実績があると言うことで全員が武器を持ってたんですが、クライアントからの「武器格闘と言うのは売りずらい」という意向で、素手格闘に路線変更となりました。

実際、あの当時は武器格闘はヒット本数が少なかったので、まぁ致し方ないかと思い承諾し、企画を通す為、主人公を素手にしました。実は武器持ちキャラの方が多いのですが、主人公だけ素手にすれば素手格闘に見えてしまうと言うごまかしですね。


全員女性キャラというコンセプトに関しては、当時、格ゲーの人気上位キャラは、ほぼ女性キャラで埋め尽くされていたので、いろんな格闘ゲームの女性キャラに似せて、ゲームを作れば確実にプレイしたい層はいるかなーと考えました。

ところがクライアントの担当者がキャラ案の中の「きら」を非常に気に入ってしまったんですよ。
よりによって「きら」! その流れで他のキャラもテニスラケットで戦うとか鞄で叩くとか、学園のりのギャグっぽいアイデアが出てきちゃったんですね。
しかし「きら」みたいなキャラは全体のなかで浮いてるからいいキャラになるのであって、全部が全部あんなキャラだったらそれこそ、ただのギャグ路線になってしまう

いくつかの前例を振り返ってみても、ギャグ路線の格闘ゲームを遊んでもらうのは、それはもう難しい。

それでどうしようかということで、とりあえず主人公は学生にしようと。先程もあったように、ほぼ主人公のデザインで、ゲーム全体のイメージとい言うのは固定しますから、主人公のデザインだけはなるべくクライアントの要望にあわせようかとなるわけです。

たとえばストリートファイターならハチマキと胴着の主人公が「俺より強いやつに会いに行く」となっていれば
「格闘家が闘うゲーム」のイメージで定着しますが、キャラ全体でいうと、その大半は変なインド人だったり、獣人だったり変なやつばっかりですよね。

なので、一見、学園物で明るい雰囲気で、見ようによってはギャグにも見える風に工夫しました。ラケットだの鞄だののアイデアは、他のあまりヒットしなかったゲームの例を出して、見送りにしてもらいました。

しかし、基板の流通業と言うのは、古い体制が残っている部分が多くて、インベーダーゲームの頃に創業した方々が今だ現役でがんばってらっしゃる事も多い。先程の要望のあった学園ネタも昭和の香りがするんですね、だから販売先に説明がしやすい。

しかも、クライアントの会社は社長の力が非常に強く、社長が一言「これがいいんじゃいか」と言うと、社員全員揃って「その通りです!」って言うような社風で、流行りのデザインを持っていってもわかってもらえない。
担当にわかってもらったとしても、結局没になる。

そこで「電車男」です。

当時、ちょうどテレビドラマや映画の宣伝で「萌え~」を連発して、いかにも流行ってます!といった宣伝をしていたんですよ。

最初に萌えを言い出した人達や、本スレ追いかけてた人たちは、当然その先に行ってるので「今さらメイドだの2ちゃんねるだの言われてもなぁ」という覚めた感じでしたが、世の中の大半の人はあれでブームになって萌えを知っちゃった。


そうすると、今は「萌えがブームだ!」っていうのは、やっぱり売りやすいんですよね。なので、全キャラにわかりやすい要素をぶっこみましょうと。我々からすると完全にギャグで出した提案なんですが、営業担当は本気で受け取ってくれました。

というわけで、キャラの方向性が確定したんですね。

正直なところ、この時点では企画内容に不安もあったのですが、
「大ヒットは見込めないが、ニッチ層にある程度は受け入れられるので大失敗はしないだろう」という思いと、「次の仕事が決まっていないので、業務が継続できるなら早く決めてしまいたい」という焦りから仕事に着手することになりました。

ここまでくれば、最低限の取り決めを守りつつ、後はある程度自由に作って良い訳です。

やはりオリジナルの格闘ゲームタイトルを作れるとなると気合いも入ります。これまで何度も何度も新企画を作っては、没になっての繰り返しだったものだから、見た目はナンパでも格闘ゲームとしては骨のあるものにしたい。

こうして、本格的な製作に入ることとなりました。
続く

2013年1月9日水曜日

アルカナハート回想録1


これを書いている時点で、アルカナハートは多くのファンに愛されて、実質6作目となるLOVEMAX!!!!!も発表され、私としても心から嬉しく思っています。
最初に企画を立ち上げた時には、ここまで愛されるシリーズになるとは想像もしていませんでした。

ここで、アルカナハートを立ち上げた頃を振り返って見るのもいいかなと思い、ブログを書き始めてみました。
開発の話なのでキャラのファンにはあまり面白くない内容かもしれませんが、開発に興味のある方には楽しんで頂けるのではないでしょうか。

このブログでは、立ち上げから完成までの経緯や思ったことを綴るつもりですが、あくまで私視点ですので、当時のスタッフからしたら、それは違うだろ!と言われたり、私の記憶違いもあるかもしれません。
数年前のことですし、出来事には多面的な視点があるので、そのあたりはご理解の上読んでください。

では、アルカナハート回想録、始めまーす。

【企画の立ち上げ】
アルカナハートの企画が立ち上がったのは、天下一剣客伝のアーケード版の開発が一段落した頃でしょうか。

アーケード用の商品を販売している大手販売代理店から「新作アーケードゲームを作って欲しい」ってオーダーがあったんですね。その時点で何本か格闘ゲームの企画を進めてはいたのですが、次の仕事が決まっていなかったので、これはチャンスだと思い打ち合わせに赴きました。

話を持ちかけてくれた会社は「サムライスピリッツ零」の販売も扱っており、これが思いがけずヒット商品となったことで次の商品を自社で扱いたいって話が出てきたわけです。

「それならば、いくつか格闘ゲームの企画を作ってみます。」というわけで、当時の開発スタッフを3つのチームに分けて、3本の企画を立ち上げました。
それぞれの企画にリーダーを決め、私が担当したのは「古代遺跡格闘」でした。

で、3つの企画を持ってクライアントへ打ち合わせに行くと、当時「メルブラ」や「鉄拳4」が流行っていたので、とにかく似たようなゲームを作って欲しいって言うんですよ。

クライアントは営業の会社で一枚20万以上もする基盤を何百枚と売らなければいけない。そうすると当然「売りやすい」見た目や、店舗に説明がしやすい売り文句が必要になる。一番、売りやすいのが「儲かった○○みたいなゲーム」の一言です。そうすると、当然、市場には似たようなゲームが溢れるわけですが、売り手買い手がいないとゲームを作れないわけですよね。

鉄拳のような3D格闘は機材もなければ、スタッフのスキルも向いていない。そういうわけで「全員女性キャラ」と言うコンセプトの企画が、メルブラに似ていて非常に売りやすいということで採用となり、アルカナハートの原型になりました。

(以前、サムスピを手掛けていた事で「ナコルルが出る女性だけの格闘ゲーム」と言う無茶な注文もありましたが、さすがにそれは版権を無視し過ぎていると苦笑いで断りました...)

続く