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特別取材

反社会的勢力の餌食になったトランスデジタルの株券乱発事件(上)
特別取材
2008年9月17日 14:25

 不可解かつ異常な倒産劇だった。ジャスダック上場のシステム開発会社、トランスデジタル(株)(東京・千代田区、後藤幸英社長)は9月1日、民事再生法の適用を申請した。8月27日に約31億円の資金を調達したと開示したが、翌日・翌々日に小切手で2度の不渡りを出し事実上の倒産に追い込まれた。負債総額は約26億円という。調達したはずの31億円はどこへ消えたのか。

消えた31億円

 トランスデジタル(以下、トランス社)は8月7日に、グランドヒル市ヶ谷でスカイパーフェクトTVの新番組『ガンバレ自衛隊! 安全保障アワー』制作発表の一大イベントを開いた。歴代の防衛大臣をはじめ自民党防衛族、在日米軍や防衛省関係者など400人を招いた。出席した歴代の防衛大臣は、現職の林芳正のほか、石波茂、小池百合子の3氏。トランス社が不渡りを出す3週間前のことであった。

 トランス社が資金調達計画を開示したのは7月11日夜。「TD戦略投資事業組合」(東京・千代田区)に行使価格修正条項付き新株予約権(MSワラント)を割り当て、最大で約50億円を調達すると発表した。当初の行使価格は1株8円。大量発行した新株予約権が株式に転換されれば6億5,000万株を新規発行する。

 TD戦略投資事業組合は計14人、8企業にMSワラントを譲渡。7月29日から行使が始まり、8月中にMSワラントはすべて行使され、発行済み株式数は2008年3月末の約4.1倍の約9億3,800万株に膨れた。株数急増で株価は急落。8月20日には株価は1円に下げ、その日のジャスダック市場の出来高のうち約8割をトランス社株の売買が占めた。8月22日には行使価格を8円から2円に引き下げた。

 トランス社は8月27日、MSワラントがすべて行使され、31億3,000万円を調達したと発表した。行使価格を引き下げたため、調達した資金は当初の計画より約20億円少なかった。開示資料によれば、借入金や社債の返済に10億円、『ガンバレ自衛隊! 安全保障アワー』制作費に12億円、運転資金に8億円をあてるとしていた。ところが、8月28日に小切手1億円が不渡り。翌29日にも小切手1億3,000万円の不渡りを出し、9月1日に民事再生法の適用を申請した。調達した31億3,000万円は消えてしまったのだ。

仕手筋の玩具に

 トランス社は9月4日、都内で債権者説明会を開催した。説明会で配布された資料には、次のような内容が記されていた。
(1)08年3月10日以降は、筆頭株主となったTD投資事業組合が派遣した取締役、執行役員等が経営権を把握した。
(2)TD投資事業組合が資金を注入できなかったため、(トランス社は)給与の支払いなどの資金繰りに窮し、高利の貸金業者から借入するようになった。
(3)これを解消すべく、50億円の第三者割当増資による資金調達を実行した。しかし、増資金は(高利の)借入金の返済に充当したため、資金繰りが破綻、小切手が不渡りになった。
(4)不渡り前後から実質オーナー経営者とその関係者とは連絡が取れなくなった――という内容だ。
 説明会に集まった債権者からは「実質オーナー経営者とその関係者」の実名を明らかにせよ、との質問はあった。だが、トランス社側は、それを明かさなかった。この2人は行方不明になり、すでに海外に逃亡したと噂された。

 トランス社は1969年に静岡県三島市で創業。日本エム・アイ・シーの社名(その後、ファイに変更し、2005年から現社名)で89年に株式を店頭登録(現ジャスダックに上場)。システム開発を主力に08年3月期の売上高は35億3,000万円、最終損益は42億5,900万円の赤字。3期連続の赤字となり、監査法人は継続企業の前提に疑義の注記をつけた。この間、度重なるエクイテイ・ファイナンスで発行株式は増加。目まぐるしく株主が異動し、仕手筋のオモチャ銘柄として知られていた。

つづく


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