これは僕が21歳の頃の話。時給の良い肉体労働のバイトをしてわ、スロットで全部無くしてた頃の話。僕はこの感じで人生が終わるのかと思っていたし、それでも構わないと思っていた。
そんな不毛な頃、当時北海道の大学に進んでもうすぐ4年生になる友達から「こっちはスロット勝てるぞ。暇なら来い」という電話が来た。僕らの年齢だとスカイメイトというのに登録すれば飛行機代が半額だと教えてもらって、それ以外の詳細はほとんど聞かず、その電話の2日後に僕は北海道の北見市という場所にいた。おそらく僕にとって天国になるであろう土地。金だ金だあい。
実際のところ、本当に良かった。スロットの設定は高いのに、それを食い物にするようなプロもおらず、まさに天国だった。ここでスロットで食う為のノウハウを学んだ気がする。でもそれだけじゃなかった。北海道の女の子はとにかくかわいくて、とにかく優しかった。
友達もみんな優しかったし気が合った。パソコンに詳しい友達もいたのでそれも覚えたし、女の子を口説くのがやたらに上手な友達もいたのでそれも勉強になった。
北海道に行った当日に「心霊スポットに行きたい」と言ったらみんなで連れて行ってくれたし「牛の乳しぼりがしたい」と言ったら数日後にはやらせてもらえたし「合コンがしたい」と言ったらほとんど毎日開催された。「ウニが食いたい」と言ったらみんなでフォーク持って海に入った。ビックリマンが復刻した日には車で何時間もかけていろんな店を回ったし、友達が女の子を連れ込んだ日には隣の部屋で壁にコップを当てて数時間過ごしたりもした。
結局僕はこの土地に1年近く滞在し、僕にとっての青春はおそらくここだったと今になって思う
。
その一年で僕は運命的な出会いもした。相手にとってはそうでもなかったかもしれないけれど、少なくとも僕にとっては。
彼女はとてもきれいで、とてもスタイルが良く、とても性格が悪かった。
北海道に住んで数カ月した頃。夏が来る頃に僕はその子に出会った。僕は一目惚れし、必死で口説いて、いつものパターンに持ち込んだ。
そこまではいつも通りだったのだけどその後が違った。彼女はプライドがすごく高かった。僕は「ほっとけば連絡来るだろう」と思っていたのだけど、ほっといたらそのまま連絡は来なかったし、かといってこちらから連絡すると、それにはちゃんと返信がきた。
僕はそれなりに好きだったし、彼女もそれなりの愛情表現はしてくれた。「じゃあ付き合おうか」というとそれは丁寧に断られたのだけど、後になってそれを聞くと「付き合ってたようなもんだよね」と言う。全く分からない。たぶん僕よりも男っぽい性格だったんだと思うが20代前半の僕にそれは理解できなかった。とにかく扱いが難しい子だった。
僕はその子を想いながらも、うまくいかないので他の女の子と遊んだ。いっぱい遊んだ。男はそういうのができる。
たまにその子に連絡しては「反応が薄い」と思って、やっぱり他の女の子達にうつつを抜かした。
でも「誰が好きか」と問われれば迷うことなく僕は彼女の名を挙げた。でも他の子と遊んだ。
そんな日々にも終りが来た。一年後、僕が居候してた友達が大学を卒業することになったから。
大学4年の2月。最後に僕らはクラブでパーティーをした。ゲストDJを呼ばずに400人を越えたので、あれは田舎にしてはかなり大きなパーティーだったと思う。
その日、僕はいろんな友達と話をしたり乾杯をしたりで忙しかったのだけど、時間を作って彼女とクラブ前の階段で話をした。内容はほとんど覚えてないけど「本当は僕はすごく好きだったんだよ」とか「私はそれなりに好きだったかな」とかそういう甘酸っぱいやつ。
でも特にしんみりするわけでもなくて、僕らは「もうちょっと素直に言えてたらねえ~」くらいで笑いながら会話を終えて、その後は彼女と話すこともなくパーティーは終わった。
数日後。僕は居候してた友達と一緒に北海道を発つ日になった。僕らは全然荷物をまとめていなくて、当日に集まってくれた仲間がフル稼働で頑張ってくれて、なんとか夕方前には出発できた。その出発する直前に彼女が見送りにきてくれた。
みんなが気を遣ってくれたので 、からっぽになった部屋で僕と彼女の二人きりになった。この前みたいに笑って終わるかと思っていたのだけど、予想外に彼女が泣き始めた。あのクールな彼女が泣いた。本当はもっと素直になりたかったと言って泣いた。それを見てカッコつけてた僕も糸が切れて「いまさらそんなの言うなよ」と泣いた。今まで本音を明かさなかった分を取り戻すかのように僕らは結構泣いた。
そして、出発の時に彼女に渡したのが「I'm still waiting / courtney pine」というレコード。渡した時に「タイトル通り、僕を待ってて」と僕は言った。何か変なものに取りつかれていたのかというほど寒いセリフだが、たぶんあのときは違和感がなかった。人生で1~2回は寒い事があってもおかしくない。なので今になっても恥ずかしくはない。
僕らはみんなに手を振りながら車で去った。 「意外とあっけないね~」とか笑いながら。たまに黙ったりしながら。
その2年後。北見市に残って大学院へと進んだ友達も卒業する時期になった。
「最後だから」と言う事で僕らはまたパーティーをする事になって、愛知県から駆け付ける事になった。彼女に会える。
彼女に会えるとはいえ、僕はその頃に付き合ってる子いたし、そうでなくてもいろんな子と遊んだ。
なので一途な気持ちとは全然違う。でもすごく嬉しい。僕にも分からない。
パーティーが始まって、しばらくして「彼女が来た」と友達から教えてもらって、彼女が待ってる場所へ行った。誰も入らない控室のようなところ。僕は彼女を見て頭が真っ白になった。
真っ白になったから何も言葉が出ない。「あ、あ、あ、ひさしぶりだね。え、えっと」みたいな。
そんな僕に、彼女は「なーに緊張してんだ」と言ってキスしてくれた。力が抜けたし、文章で説明できないほど惚れた。人生でこんな経験ができる事は滅多にないだろうと思った。
僕は真っ白な頭で「え、えっと。僕にはいま彼女がいるし、そうでなくてもチャラいし、言ってる事は適当だし、嘘も多いし、約束なんて守った事がないのだけど。。。でも、僕は有名になって君を迎えに来るから待ってて。それだけは守る。人生で一度くらい、ちゃんと守るから」と言った。
「有名になる」というのはアバウトだし、難易度高いし、なかなかとんでもない事を言ってしまったなと今は思うのだけど、当時は400人越えのパーティーも何回か出来てしまった事で天狗だったんだと思う。 何か変なものに取りつかれていたのかというほど寒いセリフだが、たぶんあのときは違和感がなかった。人生で1~2回は寒い事があってもおかしくない。なので今になっても恥ずかしくはない。
あれから愛知に戻った僕は必死に頑張るかと言ったらそうでもなかった。忘れたわけでもなかったけど、まあほどほどにという感じだった。なにより愛知で付き合っていた彼女の事がすごく好きだった。一応レコードは買っていたし、スクラッチや2枚使いの練習はしていたけど有名になるための何かはしなかった。
でもある日チャンスが来た。小西さんに出会えた日。それ以降はもうどこかの日記に書いたような感じで事が進んで、僕はゲストDJとして札幌に行けた。有名と呼ぶには程遠いけどかといってあの頃の僕には考えれなかったような事なので、もちろん彼女にも連絡した。
しかし彼女はすでに結婚していた。一途でもなかった僕に何も言う権利はないのだけど「そんなもんだよな」と思った。ただ「一応約束は守れたのかな」という安堵感はあった。
一生に一度の約束と宣言したのだったら、それは守らないとヤバイ。
そんな事を想いながら、今日あの頃にもう一枚買った「I'm still waiting / courtney pine」を聴こうと思ったらレコードが割れていた。
あの子は元気にしているのかな。僕は飲み過ぎてあまり元気じゃないです。
ばいばい。