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大阪・日雇い労働者の街 (上)敬遠 震災関連 やめとけ/「日当ピンハネされる」

西成労働福祉センターが入る建物。昼間は比較的、閑散としている

 東日本大震災の被災地には全国から労働者が集まる。その供給源の実情を探るため、国内最大規模の日雇い労働者市場を抱える大阪市西成区を訪ねた。不採算や賃金の搾取を理由に、被災地の仕事を敬遠する向きがある一方、震災関連の特需にありつこうと、人影がうごめく。被災地と西成の関わりを見た。(「復興の陰で」取材班)

 西成区の一角。正方形にすれば約800メートル四方のエリアに、1万人もの日雇い労働者が集う。「釜ケ崎」「あいりん地区」などと呼ばれる。
 2月中旬、午前4時。1泊1600円の簡易宿泊所を出て、労働者と業者がじかに仕事の交渉をする場所へ向かった。
 財団法人西成労働福祉センター。1962年設立の就労支援施設だ。
 複数の建設業界関係者によると、センターが関わる交渉は「職業あっせんの公式ルート」とされる。業者が携わるには雇用保険加入など公共職業安定所のチェックを通過し、センターの登録を受ける必要がある。
 センターが入る建物のシャッターは開いていないが、その前には登録業者の車が30台以上並ぶ。車窓に求人用紙が貼られ、職種や賃金、雇用期間が記されている。複数の業者が路上に立ち、労働者と言葉を交わす。
 シャッターが上がった午前5時以降も両者のやりとりは続く。交渉がまとまり次第、労働者は現場に向かう。
 ニット帽をかぶった業者の男性から声を掛けられた。「兄さん、じっくり仕事を選びなよ」

 東北の被災地には全国から労働者がやって来る。西成も震災特需に沸いているのかと思ったら、状況は違った。この業者に震災関連の仕事があるかを尋ねた。
 「遠くても名古屋ぐらいやな。震災の仕事はここにはない」
 センターの担当者によると、2012年度の被災地向け求人はわずか4件。1件は仙台、石巻両市での警備、もう1件は石巻、気仙沼両市での土木で、ともに応募がなかった。ほかの2件は業者が求人を取り下げた。
 「公式ルート」でなぜ求人が少ないのか。担当者は「地元業者からは『採算が合わず、仕事を取りに行っても割り込むのが難しい。宿舎を確保できない』という話を聞く」と説明する。

 午後6時。シャッターが下りた。労働者の声を聞こうと、夜の街を歩く。居酒屋に入り、カウンターに座った。
 隣に男性が腰を下ろす。泥付きの作業着姿。60歳。30年以上街に住み、この日は建設現場の職人の指示で働く「手元」として1万円の日当を稼いだという。
 1995年の阪神大震災直後も働いた。「被災地の道路が渋滞し、1日当たりの労働時間は短かったが、日当は2万円ももらった」と振り返る。
 男性は「東日本大震災の仕事は重機が中心。日雇いは要らないのではないか」との見方を示す。
 居酒屋で出会った別の男性(68)は主に解体工をしてきた。雑談するうちに震災の話題になると、こう忠告された。
 「センターを通さない震災関連の求人はある。復興の仕事の日当はこっちの相場より高い。だが、応じない方がいい。ヤクザが絡んでいてピンハネされる。応じた人はみんな、行くのはやめた方がいいと言う」
 男性の言葉を手掛かりに街を歩くと、東北の被災地に労働者を送り込む実像がおぼろげに見えてきた。


2013年05月04日土曜日


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