2013年5月7日(火)

深刻化する“子どもの貧困” 法制化への課題

鈴木
「続いては、深刻化する『子どもの貧困』の問題についてです。
こちらをご覧ください。
これは、日本の子どものうち、使えるお金が平均の半分を下回り、貧困状態にある子どもの割合を示す『貧困率』のグラフです。
10年前から年々悪化する傾向にあり、6人の子どものうち1人が貧困の状態となっています。
とりわけ、母子家庭など親が1人の世帯では半数以上が貧困状態にあり、先進国の中でも最下位なんです。」

阿部
「こうした中、今、国会議員の間で子どもの貧困対策を進める法律を作ろうという動きが出ています。
法案の柱の1つが、子どもに対する『教育支援』です。
その背景には、経済的な理由で高校や大学の進学をあきらめる人や、中退する人が少なくないことがあります。
勉強する機会を失うことで、将来、十分な収入が得られず、親の貧困が子どもにも引き継がれる『貧困の連鎖』が広がっています。」

“教育費が足りない” 子どもの貧困を救え

「子どもの貧困の連鎖を断ち切れ!」

3月末、国会の周辺で、10代、20代の若者が参加する大規模なデモが行われました。
多くは、ひとり親世帯で育ち、進学で苦労した経験のある若者たちです。
親の経済状態に関わらず、教育を受けられるような支援がほしいと訴えました。

「実際に(貧困を)経験してみないとわからない。
すぐにでも(貧困対策の)法律を制定してほしい。」

ひとり親世帯で、高校や大学に通わせることが、いかに厳しいのか。
48歳になるこの女性は、夫と離婚し、働きながら2人の息子を育てています。
高校2年生と小学5年生、これから教育費がかかる年頃です。
昼間は、派遣で電話オペレーターの仕事。
子どもに夕食を食べさせたあと、夜は近所のレストランでアルバイトを掛け持ちしています。
年収は160万円、毎月13万円の収入は、生活保護水準を下回ります。

「制服代とか支度金とか、これからどうしようとか、いつもいつも追い詰められて。」

高校の教育費は義務教育の小中学校に比べて格段に重い負担になっているといいます。
私立高校に通う長男の授業料は月額5万円。

授業料無償化に伴う国の措置で、およそ2万円が補助されています。
都からも1万1,000円が支給されますが、授業料だけでおよそ2万円の負担になります。
さらに教材費や通学の交通費などもかかるため、家計の負担は月4万円にもなります。
母親の収入では捻出できない金額です。
長男は高校に進学するため、続けてきたホッケーをあきらめ、アルバイトをして家計を助けています。
母親は派遣の仕事をさらに増やし、3つの仕事を掛け持ちすることにしました。
このままでは2人の息子の教育費がまかなえないと、不安を強めたためです。

「これから行くのは?」

「派遣の打合せです。
登録していたところからお話をいただいたので。」

「うちはひとり親だからとか、学校も選ばせてもらえなかったとか、子どもたちの可能性、選べる道をたくさん作ってあげたいという思いで、教育に関しては絶対譲れないところ。」

家庭の事情で進学が難しい子どもたち。
なんとか支援しようという取り組みが広がってきています。
高校生までの子どもたちを集めて、ボランティアの大学生が勉強を教える「無料塾」です。

「ここは数字だから…。」

勉強を教えるだけでなく、子どもの面倒をみる余裕がない親の代わりに、悩みを聞いたり、将来の進路の相談に乗ったりしています。

塾の運営団体代表 谷口太規弁護士
「有形無形の能力が、学ぶ経験をしていない子どもたちには欠けてしまう。
職業の機会が限られるし、結果的にまた貧困に陥ってしまう。」



この塾で教える、岸野秀昭(きしの・ひであき)さんです。
家計に余裕がなく、昼間の大学をあきらめ、夜間の大学に進学しました。
同じような境遇にある子どもたちの力になりたいと、この塾でボランティアで講師をしています。

岸野秀昭さん
「私自身の経験からも、将来の選択肢に非常に影響が出るのではないかと思っています。
1人でも多くの子どもたちが選択肢を奪われることがない社会が実現されていく方向に進めば、非常にうれしいことだと思います。」

岸野さんは都内の進学校から難関と言われる大学を目指していましたが、奨学金だけで学費や生活費まで工面するのは難しいと知りました。
結局、昼間働いて、夜に大学に通う道を選ばざるを得ませんでした。
努力も重ね、成績も優秀だった岸野さん。
家庭の経済事情で教育のチャンスが狭められたことを、今も悔しく思っています。

岸野秀昭さん
「なんで自分だけなんだろうと。
学力が原因なら納得いくところがあるが、それが家の経済状況によってだったので、非常に受け入れられない時期が長く続いた。
自分と似た境遇を持っている子どもたちは、何とか後悔しないかたちで自己実現していってほしいと強く願っている。」

阿部
「能力があってやる気もあるのに、子どもたちの進学の幅が狭められているという問題の深刻さを改めて感じますね。
取材にあたった社会部の角田記者です。
高校の授業料の無償化も進められましたが、現状はまだまだ厳しいのですね。」

角田記者
「国の授業料無償化以外にも、都道府県の奨学金など、利用できる制度は増えてきています。
ただ制服代や教材費、修学旅行費など授業料以外の出費というのも大きな負担になっています。
親の世代で格差が広がり、雇用も不安定で、子どもの教育の環境を守るのは非常に厳しくなっていると感じました。」

鈴木
「子どもの貧困対策の法律の制定を期待する声もありましたが、この法律によって何が変わるのでしょうか。」

角田記者
「現在、自民党と民主党がそれぞれ法律案を作っていますが、この問題に取り組む議員が共通して言うのは、『生まれた環境によって将来が左右されるべきではなく、望めば必ず教育を受けられる環境が確保されるようになるべきだ』ということです。
法律ができれば、教育費の援助や保護者に対する就労支援などに、国や自治体の取り組みが進んでいくということが期待されています。
子どもは生まれてくる家庭を選べません。
子どもたちの未来を広げていくため、実効性のある対策を打っていくことが求められます。」

この番組の特集まるごと一覧 このページのトップヘ戻る▲