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熱電モジュール gigatopazTM
便利な生活を送ることのできる大きな理由の1つに電気エネルギーは欠かせないものです。しかし、周知の通り、電気は限りある資源の1つですし、便利さの代償として生じた廃熱による環境破壊問題は今や避けては通れない事実として私達の目の前に立ちはだかっています。今回は従来、困難であった自動車や工場などの高温廃熱を利用できる技術を取材。多大な恩恵を受けることになるであろう未来像を一足先にのぞいてみました。
1.小さいけれどパワーは満点!
館長:今回開発された「熱電モジュール」は耳慣れない言葉ですが、私達の身近なところに使われているものでしょうか?
近藤:まだこの技術を使ったものはありませんが、温度差を利用するという技術面で、構造上ほぼ同じようなものは市販されています。景品として扱われることのある小さな温冷庫をご存知でしょうか?最近はホームセンターでも見かけるようになりましたが、あれに使われています。
館長:では、モジュールの中の構造と、これが発電する仕組みを教えてください。
近藤:P型とN型の2種類の半導体を交互に配列し、それを電極でつなげています。このPとNとで構成された1個1個が電池というイメージで、これを直列にしたものがたくさん集まって大きな電気を発生する仕組みになっています。温度差を生じさせることで発電するのですが、高温側温度は711℃、低温側温度は67℃の時、最大出力密度は4.07W/cm2となります。
館長:どのような工夫によって、従来のものを超えることができたのでしょうか?
近藤:これまでは耐熱性が低く300℃以上では使用できませんでしたが、 今回、高い温度に耐えうる材料を開発し、それを使用したことが1つのポイントです。そしてもう1つは、高温でも半導体素子や電極などの部品が酸化しないように モジュールを封じ込めたこと。高温面には熱に強い鉄の合金を、低温面には熱が伝わりやすい銅を使用しています。これら2つの要素で700℃という高温にも耐えられるようになりました。
市販モジュールとの比較単位 | 東芝 モジュール |
市販 モジュール |
|
gigatopazTM G9 | |||
高温側温度 | [℃] | 711 | 230 |
低温側温度 | [℃] | 67 | 30 |
電圧 | [V] | 8.0 | 1.7 |
電流 | [A] | 6.5 | 8 |
出力 | [W] | 51.7 | 14.0 |
幅×高さ | [cm] | 3.9×4.2 | 6.3×6.3 |
質量 | [g] | 41 | 82 |
単位面積当りの 出力 |
[W/cm2] | 4.07 | 0.36 |
単位質量当りの 出力 |
[W/g] | 1.26 | 0.17 |
館長:それが業界初の大きな飛躍となった要因なのですね。
近藤:ええ、そしてもう1つ、専門用語で言うところの「モジュール化」する 技術も大いなる躍進です。たとえ高温に耐えうる材料だけができても、またどんなに性能が良くてもそれだけでは熱が逃げてしまいます。 最も肝心なのは、熱を通すために必要となる色々なものを積み重ね、そしてそれらをぴたりと付着させるところにあります。500円玉ほどの小さな中に、およそ100個の半導体、またその他、数々の小さな部品を組み込み、なおかつパッケージング。このモジュール化したところに意義があるのです。
館長:一見したところ、そこまでは分かりませんでしたが、たしかにチョコレートタブレットほどの大きさの中にそれだけの要素を組み込むのは大変な技術を要することかと思います。脚光を浴びるのも当然ですね。
2.未来にあるべき姿を実現させる必須アイテム
館長:このモジュール1個で、どの程度の発電が可能ですか?
近藤:50W発電できます。これは例えば、携帯電話が20台充電できたり、持ち運びのできる小さな液晶テレビが16台動くといった電力に匹敵します。またモジュール1個で小型パソコンを駆動することも可能です。
館長:では、複数つなげれば、さらに大きなものを駆動させられるのでしょうか?
近藤:はい、例えば自動車がその最たる例です。ガソリン車というのは、その持っているエネルギーの約20%が走るための動力として使われていて、残りの約80%は排熱として大気に放出してしまっています。そういった現状の中で、ご存知の通り、今自動車は、パワーウインドやパワーステアリングなどと電化が進んでいます。そして、更に車内へサーバーを積んで付加価値を与える予定もあるようです。ますます電気を使う方向にあるのですが、車に搭載している発電機は走りに影響が出るため、そう大きくもできないと聞いています。このようなことから、現状では捨てている熱を使って発電を、という発想になりました。エンジンに近い排気管の部分にモジュールを取り付け、そこから電気を取り出すシステムとなります。
館長:なるほど、車内でのエンターテイメントを始めとする様々な利便性を高めることに、このモジュールが大きな役割を果たしてくれるようになるわけですね。
近藤:そうです。今、流行っているハイブリッドカーはその典型と言えるでしょう。街中では主に車が自ら起こした電気で走り、高速道路や山を登る時はエンジンで走るわけですからね。
館長:環境に優しい車が、この技術で、もっと優しくなるわけですね。その他の使用例は?
近藤:モジュールを貼り付けたバケツに水を入れ、それを下から火であぶると、電気が出来ますので、先ほど言った事と同様に、液晶テレビを見たりラジオを聴くことができます。野外での活用はもちろん、自家発電をしている東南アジアなど発展途上国でも大いに活用頂けると思います。
館長:そうですね、海外での需要もかなりのものになりそうです。最後に、今後掲げている目標をお聞かせください。
近藤:最終ターゲットは原子力発電所での利用です。現在は立地問題で悩まされており、新しい原発を建設できない状況です。そうは言っても、作らないわけにはいきません。ではどうしたらよいかと考えた時、原子炉に必要な電気を作り出すタービンに焦点を当てました。タービンはとても大きくコストも手間もかかるものです。これを無くすことができれば、と。そこで原子炉の中に、このモジュールを入れ、そこから直接、熱を採取して電気にすることでタービンは不要になると行き着いたのです。これが実現すれば、今より省スペースになり、数倍の原子炉が設置可能となるでしょう。これを究極の目標としています。
館長:今はまだ従来のスタイルが固定されているので、やはり、そこまで確立させるには年月がかかりそうですか?
近藤:そうですね、性能アップも必要ですが、許認可をとるのにもとても時間がかかると思います。きっと実現している頃には、この世にはもういないかと思いますけれどね(笑)。でも、そこにたどり着くまでの間に、みなさんにも身近に使っていただいて、その良さを実感していただければと思っています。
館長:そうですね。環境に優しい技術は、これからの私たちにとって必要不可欠なものですからね。これからの市場展開や動向を興味深く見守って行きたいと思います。今日はどうもありがとうございました。