社会・生活 文藝春秋 掲載記事

情報公開でわかった「公」と「私」
天皇家と東宮家「それぞれの家計簿」

使い道で見えてきたご公務への覚悟、考え方の違い

奥野修司(ノンフィクションライター)と本誌取材班

 現在の皇室費の大枠が決まったのは1968年である。この年に消費者物価指数や公務員の給料に比例して、内廷費が自動的に1割アップするシステムができた。もちろん皇族費もこれに準じて増やされてきたが、バブル経済が崩壊して以降の低成長を反映して、91年からほとんど変わっていない。

 まず、大雑把に皇室予算の全容を述べておきたい。2012年度の「皇室費」は約61億9500万円。この皇室費は3つに分類される。もっとも多いのが「宮廷費」で、いわゆる皇室のオフィシャルマネーである。宮中晩餐会や園遊会、地方への行幸啓や宮殿の補修などに使われ、90.1%の約56億円が充てられた。

「内廷費」は天皇家と東宮家の私的費用で5.2%の3億2400万円。残りの4.7%、2億9100万円は秋篠宮、常陸宮、三笠宮、桂宮、高円宮の私的費用「皇族費」だ。宮家当主が3050万円で妃殿下はその半額等、皇室費を定めた皇室経済法によって家族の人数と構成で決まる。ちなみに秋篠宮家は、悠仁親王誕生後5490万円である。

「宮廷費」と「内廷費」は年4回、「皇族費」は年2回に分けて振り込まれるという。

 皇室費の実態について、宮内庁はその仔細を自ら公開することはない。そこで情報公開法に基づいて宮内庁に開示請求をし、公開されたファイルを元に取材を進めたのが本稿である。

 情報公開法で開示されるのは、「皇室費」のうちでは「宮廷費」だけである。「内廷費」はプライベートな費用ということで、これまで使い道が明らかになったことはない。「皇族費」となると、まったくうかがい知れない。すべて国民の税金なのに、明らかにされるものと明らかにされないものがあるのはなぜなのか。これは、戦後の「象徴天皇制」から生じた矛盾でもある。

 天皇が国家元首であった戦前は、公費で認められる範囲は今よりも広かった。たとえば、宮中祭祀をつかさどる掌典職も神事費として賄われた。また当時の皇室は、財閥をしのぐほどの資産を有していたが、これらはGHQによってことごとく没収されてしまう。

 そして、戦後はじまった象徴天皇制の下で、皇室は国家予算による「丸抱え」となった。つまり、「公」も「私」も公費で賄われるのが戦後の皇室制度なのである。

 宮内庁は会計上、公私を分ける必要に迫られ、宮廷費、内廷費、皇族費といった区分がつくられたが、今もってその区分は極めてあいまいだ。

 特に天皇家や東宮家は、存在そのものが公的であるがゆえに、私的費用と公的費用に分けるのは簡単ではない。元宮内庁職員によれば「主計課では宮廷費で払うべきか内廷費で払うべきか、よく議論をしていました」といい、こんな逸話を披露してくれた。

「90年代末に、主計課でパソコンを導入したとき、『内廷費は内廷費で購入したパソコンで計算すべきだ』といわれ、内廷費用と宮廷費用のパソコンを別々に購入しました」

「あるとき、物品がなくなったことがありました。どうやら皇族の方が来客に差し上げたようです。それは宮廷費で購入した物品でしたから、事務方はあわてました。どのお金で購入したかというのはそれくらい分かりにくいものです」

 しかし、すべて税であることに変わりはない。そのお金が、実際に「皇室費」としてどう使われているのか、いくつかの事例を検証しながら、皇室の「公」と「私」の問題を考えていきたい。

【次ページ】 事前調査に二度行った

この記事の掲載号

2013年4月号
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天皇奥野 修司

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