ようやくシスターアンナの完結です。
長くかかっちゃいました。
楽しんでいただければ幸いです。
9、
ピシーン!
ピシーン!
ムチが皮膚を打つ音が響く。
苦悶のうめき声とともに脂汗がハッサンから滴る。
背中の皮膚は切れ血が垂れ始めている。
荒い息。
はあはあと速い呼吸。
だがそれはハッサンのものではない。
汗が飛ぶ。
「あは・・・あははははは・・・」
笑いが止まらない。
腕が振り下ろされていく。
ムチが空気を切り裂き勢い良く当たっていく。
躰が熱い。
腕が止まらない。
楽しい。
楽しくてたまらない。
「あははははは・・・」
笑い声が周囲に響く。
もう止まらない。
シスターアンナは存分にムチを振るっていた。
「う・・・あ・・・」
がっくりとうなだれるハッサン。
もはや意識はなく、ただムチ打たれるだけになってしまう。
「ククク・・・気を失ったようだな。シスターアンナよ、それぐらいでいいだろう」
そっとアクバーがシスターアンナの腕を押さえた。
「え?」
我に返ったようにハッとなるシスターアンナ。
「これ以上やっても死ぬだけだ。死んではつまらないからな。こいつらは体力があるから楽しませてくれる」
ああ・・・そうよ・・・
死んじゃったらつまらないわ・・・
ムチを振るうのがこんなに気持ちいいなんて・・・
うふふ・・・
もっともっと楽しみたいわ・・・
そのためには生きていてもらわないと・・・
「ハイ、アクバー様。その通りですわ」
シスターアンナはそっとハッサンのそばに行き呪文を唱える。
ベホイミの呪文がハッサンの傷をたちまちのうちに癒して行く。
「うふふ・・・これでいいですわ。これでまだまだ・・・うふふふ・・・」
それは見るものをぞっとさせる悪魔の笑み。
シスターアンナの笑みはまさに美しく残酷な悪魔の笑みだった。
「ククク・・・どうやらずいぶん気に入ったようだな。シスターアンナ」
「ハイ、アクバー様。とても気に入りましたわ。人間をムチ打つことがこんなにも気持ちいいことだったなんて知りませんでした」
アクバーにうなずき、胸に手を当てて余韻を感じるシスターアンナ。
「驚いたな・・・まさかシスターアンナがこんなことをするなんて」
ドグマも目を丸くしている。
「うふふ・・・ドグマ様、私はアクバー様のおかげで欲望のままに生きる喜びを見出したのですわ。これからは楽しく生きませんと。ね」
妖艶に微笑むシスターアンナ。
「くそっ、なんてこった! シスターアンナ、あんたそれでもシスターかよ!」
鎖をガチャガチャさせてテリーが叫ぶ。
何とか逃げ出したいがどうしようもない。
「ほう、まだいきがるか、小僧」
アクバーが大きな口をゆがめて笑う。
もはやこいつらには楽しませてもらう価値しかない。
たいした後ろ盾もなしにここまで旅をしてこられたことは驚きだが、この強靭な精神と肉体ならばうなずけるというもの。
せいぜい楽しませてもらうとしよう。
「くそっ、アクバー! 貴様シスターアンナを洗脳したな!」
その言葉につかつかとテリーに近寄るシスターアンナ。
パシーンという音が響き、彼女の平手がテリーの頬を打った。
「黙りなさいクズが! アクバー様を侮辱すると赦さないわ」
赤い瞳がテリーをにらみつける。
「シスター・・・目を覚ましてくれよ」
「目を覚ます? おかしなことを言うのね。私は正気に決まっているじゃない。やはりクズにはそんなこともわからないのかしら?」
「シスターアンナ・・・」
唇を噛むテリー。
どうやらシスターアンナは心を変えられてしまったようだ。
もはや以前のシスターアンナではない。
「さて、ドグマとゾゾゲルにも楽しみを分けてやらねばな。上に行くとしよう、シスターアンナよ」
アクバーが背を向ける。
「・・・・・・ハイ、アクバー様」
テリーに一瞥をくれ、ムチをドグマに手渡してアクバーの後を追う。
スリットから覗く太ももまでのガーターストッキングに包まれた脚が美しい。
その後ろ姿を黙って見つめるドグマとゾゾゲルの前で静かに扉は閉じられた。
はあ・・・はあ・・・
どうしたのかしら・・・
躰が熱い・・・
背中がむずむずする・・・
節々が痛む・・・
アクバーの後を歩きながら躰の不調を感じているシスターアンナ。
「む? 疲れたか?」
振り返り、少し顔色の悪いシスターアンナを気遣うアクバー。
「いえ、大丈夫です・・・」
首を振るシスターアンナ。
「そうか。ならいいが」
再び歩き出すアクバー。
地下牢を出て居館のほうへ向かって行く。
ドクン・・・
ドクンドクン・・・
あ・・・
躰が・・・
躰が・・・
熱い・・・
まるで火がついたよう・・・
熱いよう・・・
ガクッとひざから崩れ落ちるシスターアンナ。
あ・・・
アクバー様・・・
ア・・・ク・・・バ・・・さ・・・ま・・・
そのまま倒れこんでしまう。
「む? どうした?」
振り返るアクバーの目に地面に倒れこんだシスターアンナの姿が映る。
「む、しっかりするのだシスターアンナ」
駆け寄って助け起こすアクバー。
だが、シスターアンナの躰はまるで火がついたように熱い。
「すごい熱だ。これはもしや」
意識を失ったシスターアンナをアクバーは抱きかかえ、そのまま居館へ運びこんだ。
闇・・・
どろどろに溶けた闇・・・
べとべととして躰に纏わり付いてくる・・・
ゴムのような・・・タールのようなどろどろとした闇・・・
躰がその中に沈んで行く・・・
顔も目も鼻も耳もどろどろの闇に覆われていく・・・
熱い・・・
どろどろに煮えたぎった闇・・・
躰が熱で溶かされていく・・・
手も脚も胸もお腹も溶かされて徐々に形を失っていく・・・
口からも鼻からも目からも耳からも肛門からもヴァギナからもどろどろの闇が入ってくる・・・
お腹も胸も闇で満たされて溶けていく。
残るのは何も無い・・・
首から下はすでに闇・・・
でもそれでいい・・・
闇が全ての替わり・・・
手も脚も胸もお腹も無いけれど、手も脚も胸もお腹も存在する・・・
やがて煮えたぎる闇は目も鼻も口も耳も溶かしていく・・・
何も無い・・・
何も見えないし聞こえないししゃべれないし嗅げもしない・・・
だが全てを見ることができ、聞くことができ、話すことができ、嗅ぐことができる・・・
それはまるで胎児のよう・・・
新たな生が今始まるのだった・・・
******
「あれっきりシスターアンナの姿が見えなくなったんだが、どうなったんだ?」
「ああ、酒場の一件以来だろ? アクバーのところに居るとか聞いたが・・・」
「地下牢の連中はどうなったんだ?」
「さあ・・・どうも女たちはもう牢には居ないって聞いたけどな・・・」
「食事を運んだシンシアの話じゃ、生かさず殺さず毎晩拷問されているらしいぞ・・・」
「新たなアクバーの側近が増えたというのは本当か?」
「さあな・・・おそらくその発表がこれからあるんじゃないか?」
広場に集められた牢獄の町の住人たち。
男も女も全ての町の人々が集められている。
広場の周囲には以前まで友人や家族だった人々が牢獄兵と化し、威嚇するように槍を構えて立っていた。
広間の正面には壇が設えられていて、その上にはギロチンが置かれている。
このギロチンで処刑された人間は数知れない。
魔物たちは意味も無くただ楽しむためだけに人間をギロチンにかけていく。
このギロチンはこの町の恐怖の象徴だった。
「おい、現れたぞ」
「あ、あれは?」
人々がざわめく。
そのざわめきの中、アクバーと三人の魔物が壇上に上がった。
二人はドグマとゾゾゲルであり、町の人々にとってもおなじみの顔だったが、もう一人は今まで見たことのない魔物だった。
その魔物は女だった。
艶めかしくも美しい肢体を晒した女魔物だったのだ。
頭の両側には太いねじれた角が生え、肩口までの髪から覗く耳は尖っている。
首には漆黒のチョーカーを巻き、胸から股間までをおへそのところが開いた黒いボンデージのレオタードが覆っている。
背中は大きく開いていて、蝙蝠型の羽根がヒクヒクと動いていた。
二の腕から先と太ももから下はそれぞれ黒い長手袋と同じく黒のハイヒールのブーツが覆っている。
お尻からは先の尖った尻尾が妖しく動き、まさに悪魔と呼ぶに相応しい姿を誇らしげに見せつけていた。
その女魔物が振り向いて正面を向いたとき、人々は絶望に打ちひしがれた。
「シスターアンナ・・・」
「ああ・・・シスターアンナが・・・」
「シスターアンナだ・・・」
その女魔物の顔はみんなが見知っていた顔だった。
しかし、その表情には冷たい笑みが浮かび、瞳は赤く、黒く塗られた唇からは真っ赤な舌がぺろりと覗いていた。
「ククク・・・今日は貴様らにいい知らせをやろう。我が妻デビルアンナだ」
アクバーが悪魔と化したアンナの腰を抱いてそばへ寄せる。
デビルアンナと呼ばれたかつてのシスターアンナは嬉しそうに腰を振ってアクバーに擦り寄った。
「うふふふ・・・私はデビルアンナ。アクバー様の妻にして忠実なしもべ。今日からは我が夫とともにお前たちクズどもを管理してあげるわ」
妖しい笑みを浮かべながらデビルアンナは宣言する。
人々の絶望的な表情がなんとも心地よい。
「うふふふ・・・まずはこれから」
そう言うと呪文を唱えるデビルアンナ。
彼女の頭上に巨大な火球が浮かび、かつての居場所であった教会を直撃する。
轟音とともに教会は吹き飛び、人々は全ての希望が失われたことをまざまざと見せ付けられた。
「クククク・・・メラゾーマとはなかなかやるわい。さすがはわしの妻」
満足そうにうなずくアクバー。
「うふふふ・・・このぐらい造作も無いことですわ。さあ、クズども、生きていたかったらしっかりと我ら魔族に奉仕することね」
住民たちはがっくりとうなだれる。
「クククク・・・お前たちのもう一つの希望とやらもいずれはこうなるのだ。見よ!」
アクバーが壇の下に控えていた牢獄兵を手招きする。
小柄な牢獄兵とヘルメットから金髪を覗かせた牢獄兵の二人が壇上に上がって跪いた。
「クククク・・・こいつらはヘボヘボとやらと一緒に居た女たちでな。我が妻の希望により牢獄兵として下僕にしてやったわ」
顔を上げる牢獄兵と化したミレーユとバーバラ。
二人は無表情でデビルアンナとアクバーの命を待つ。
「どうだ。いい知らせであろう? がっはっはっは・・・」
アクバーの高笑いが響いた。
「うふふふ・・・ねえ、アクバー様」
「なんだ?」
広場から居館へ戻ってきてくつろいでいるアクバー。
その膝の上にはデビルアンナが座っている。
「私、面白いことを思いつきましたわ」
「ほう、聞かせてもらおうか」
アクバーがにやりと笑う。
すでにシスターアンナの面影はまったくない。
デビルアンナは素晴らしい女魔物だ。
「あのヘボヘボとやらにはライフコッドにターニアという妹が居るとか・・・うふふ・・・私、その子で遊びたいと思いますわ」
冷たく笑うデビルアンナ。
真っ赤な舌が黒く塗られた唇を舐めまわす。
「クククク・・・それは面白い。あのヘボヘボの顔が見ものだわい」
美しく邪悪な女魔物デビルアンナ。
アクバーはそのことに非常な満足を覚えるのだった。
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- 2006/05/29(月) 19:50:55|
- デビルアンナ
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シスターアンナ8回目です。
よかったら楽しんでくださいね。
それではー。
8、
髪を掻き揚げながら通りを歩いているシスターアンナ。
冷たい笑みが月明かりに映える。
背後で起こる悲鳴もざわめきも気にならない。
今日はいい月夜だった。
「こんな時間に散歩か?」
月明かりの中金属鎧が照りかえる。
フルフェイスのヘルメットが不気味な輝きを見せていた。
「これはゾゾゲル様」
シスターアンナは笑顔を見せ、スカートを持ち上げて一礼した。
「うふふ・・・とても気分がよくて・・・月を眺めておりましたわ」
赤く染まった瞳。
口元には冷たい笑み。
今までのシスターアンナとは違う。
「ふん・・・楽しんだようだな・・・殺したのか?」
「ハイ、虫けらどもを数匹。クスッ・・・人間ってたやすく死にますのね」
笑みを浮かべたままこともなげに答えるシスターアンナ。
「酒場の騒ぎはそのせいか。様子を見て来いと言われたが・・・まあいい。戻ってアクバー様に報告することにしよう」
くるりと背を向けるゾゾゲル。
どうやらシスターアンナの変化にはさほど興味はないようだ。
「あ、あの・・・」
立ち去ろうとしたゾゾゲルを呼び止めるシスターアンナ。
「ん? どうした?」
「アクバー様の元へ戻られるのですか?」
「ああ・・・」
うなずくゾゾゲル。
「あの・・・ご一緒しても構いませんでしょうか?」
両手を胸の前で組み、おずおずと切り出す。
それは何か恋人のところへ行きたいけど行ってもいいのだろうかと問いかけているようだった。
「構わんのでは無いか? アクバー様もお喜びになろう」
シスターアンナの表情がぱあっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます。ゾゾゲル様」
以前であれば決して様付けなどしなかったであろうが、今のシスターアンナにはまったく気にならない。
「来るがいい」
「ハイ」
うなずいてシスターアンナはゾゾゲルの後に続いてアクバーの居館に向かった。
「ほお・・・よく来たなシスターアンナ」
アクバーはナイトドレス姿のシスターを喜んで迎え入れる。
野暮ったい尼僧服に包まれていて隠されていた若々しく美しい肢体が、惜しげもなく晒されているかのようだ。
実際にはスカートが覆い隠しているすらっとした脚線美も、スリットから覗かせることで余すことなく晒している。
「こんばんは、アクバー様。このような時間にご訪問する無礼をお許し下さいませ」
すっと片膝をつき、一礼をして館の主に敬意を表する。
「構わん。夜は魔物の時間だ。ククク・・・そなたも夜は気分が落ち着くのではないか?」
あ・・・
そうだわ・・・
その通りだわ・・・
夜はすごく気持ちが落ち着くわ・・・
「ハイ。仰せの通りですわ、アクバー様」
「ククク・・・アクバー様か・・・以前はあれほどわしを毛嫌いしていたのではないのか?」
シスターアンナの心臓が跳ね上がる。
あ・・・
私は・・・
私はなんとおろかだったのかしら・・・
このような実力あるお方をあのように嫌っていたなんて・・・
後悔が波のように押し寄せる。
「申し訳ありません。お許し下さいませ、アクバー様。私はおろかな女でした。神などという下らぬものに心を捕らわれ、アクバー様を初めとする魔物の方々の素晴らしさに気が付かなかったなんて・・・」
頭を下げて陳謝するシスターアンナ。
「良い、気にすることはないのだ。今のそなたならわかるであろう。我が魔族の素晴らしさが」
「ハイ。魔族は素晴らしいですわ。私もできることなら・・・魔族になりたいですわ」
ああ・・・それが叶うならどれほど素晴らしいことか・・・
それにしてもアクバー様はなんてお心の広いお方なのかしら・・・
この方のおそばに居たい・・・
永遠におそばに・・・
「ククク・・・時を待つがいい。そう、間もなくだ」
「えっ?」
何のことかしら・・・
もしかしたら私を魔族に加えていただけると言うの?
あ・・・
信じて・・・信じてよろしいのですか、アクバー様?
ああ・・・
なんて嬉しい・・・
私は・・・
私は永遠にアクバー様の忠実なしもべです・・・
私をどうか・・・
どうかおそばに置いて下さいませ・・・
「アクバー様。そろそろお時間ですぞ」
ドグマが壁にかかった時計を見る。
魔物が時間を気にするというのも変な話だが、牢獄の町と言う場所で人間どもを相手にしているとどうしても時間と言う概念を使わないとうまくいかないのだ。
そのためアクバーは時間という概念を使って町を支配していた。
時刻はすでに21時を過ぎている。
「おお、そうか・・・ククク・・・そなたも来るか? シスターアンナよ」
「どこへ行くのですか? アクバー様」
立ち上がるシスターアンナ。
もう彼女はアクバーが来いと言ったらどこへでも付いていくに違いない。
「地下牢だ」
アクバーが不気味な笑いを浮かべた。
ひんやりとした地下牢。
アクバーを始め、ドグマとゾゾゲル、そしてシスターアンナが階段を下りてくる。
「すでに準備はできております」
一礼して出迎える牢獄兵たち。
「うむ」
アクバーは一瞥して牢獄の奥にある拷問室へ向かう。
「どこへ?」
「拷問室だ。奴らはなかなかしぶとくてな。楽しませてくれる」
アクバーが巨体をゆすりながら歩いていく。
その大きな背中がとても頼もしい。
アクバー様ならばきっとこの町どころかこの世界を闇に閉ざしてくださる・・・
そう思うと何だか嬉しくなる。
「奴ら?」
「うむ。ヘボヘボたち一行だ。デスタムーア様より背後を調べるように仰せつかったのだ」
「デスタムーア様より?」
大魔王デスタムーア様・・・
この世界を司る闇の王。
一度でいいからお会いしたいわ・・・
「うむ、そうだ」
アクバーはうなずいた。
拷問室の扉が開かれる。
そこにはすでに壁に枷で固定されたハッサンが背中を向けて立たされていた。
さらにその隣にも同じようにテリーという青年が固定されている。
「くそっ、離せ!」
「俺たちを舐めるなよ。あとで後悔させてやる」
二人のおろかな喚き声が聞こえる。
バカな男たち・・・
アクバー様に逆らってただで済むわけがないじゃない・・・
いい気味だわ・・・
アクバーたちの後に続いて室内に入るシスターアンナ。
その姿にハッサンもテリーも驚きを隠せない。
「シ、シスターアンナ?」
「シスターアンナ? その格好は一体?」
「こんばんは、お二人さん」
慇懃に一礼するシスターアンナ。
侮蔑感を隠そうともしていない。
「ククク・・・どうかな彼女の姿は? とてもよく似合うじゃないか」
アクバーがいやらしく笑う。
だが、シスターアンナにとってはこの上もない褒め言葉だ。
「ありがとうございます。アクバー様」
「ア、アクバー様?」
「アクバー様だって?」
シスターアンナの言葉に再び驚愕する二人。
鎖をガチャガチャ言わせて枷を外そうとする。
「ククク・・・シスターアンナはな、自分に素直に生きることにしたのだ。そうだろう?」
「ハイ、アクバー様。私はこれからは欲望のままに生きますわ」
本当にそう思う。
どうして今まであんなに制限された生活をしてきたのか理解できない。
神という名の下に自分を押し殺してきた今まで。
でも、そんなことはもう必要ないのよ・・・
私はもう思うままに生きるの・・・
うふふ・・・
思わず笑みが浮かぶ。
「しっかりするんだ、シスターアンナ」
「あんたは町の人々の希望の源じゃないか!」
希望の源?
そんなこと知ったことじゃないわ・・・
所詮自らの力では生きていけぬクズども・・・
アクバー様に支配されることで生きて行くことができるのも知らずに文句ばかりを言うクズども・・・
そんな連中に崇められるなんてぞっとするわ・・・
「うるさいわね。お前たちには関係ないことでしょ」
二人をにらみつけるシスターアンナ。
「まあ、これを食らえばおとなしくなる」
ドグマが用意したとげの付いたいばらのムチを手にするアクバー。
床を打ち付けるバチンと言う音がする。
その音が二人を恐怖させた。
「ククク・・・」
ビュッと言う音がしてハッサンの背中にムチが打ちつけられる。
皮膚にムチが当たる乾いた音が響いた。
「ぐあっ!」
「ハッサン!」
悲鳴を上げるハッサン。
すぐに背中に一筋の痕が浮き出て血が滲む。
「くそっ、こんなことしたって俺たちには背後関係なんてないぜ」
「そうだ。俺たちはお前たちのような連中が赦せないんだよ」
テリーもハッサンも不適に笑う。
まだまだ堪えていないみたいだ。
「ふん、わしはお前たちの事などどうでもいい」
そう言って再びムチがうなりハッサンの背中を打つ。
「ぐあっ」
Xの字に痕が付く。
「お前たちがわしを楽しませてくれればそれでいいのだ」
アクバーがにたりと笑う。
「くそっ、サディストかよ」
テリーが舌打ちする。
これはちょっと厄介だ。
シスターアンナは不思議な気分に捕らわれていた。
アクバーがムチを振り下ろすたびに心臓が早鐘を打つ。
躰が火照ってくる。
ハッサンの背中に新たなムチ痕ができるたびに躰が熱くなる。
頭がぼうっとなって息が苦しくなる。
虚ろな目で振り下ろされるムチを見つめている。
「ククク・・・どうしたかな? シスターアンナ」
アクバーが笑っている。
その言葉もどこか別の世界から聞こえてくるようだ。
「やってみたいか?」
ムチを差し出すアクバー。
あ・・・
気が付くとムチを手にしていた。
「来るがいい」
言われるままに前に出る。
場所を開けてシスターアンナをハッサンに向き合わせるアクバー。
ククク・・・
どうやら思ったとおりだ。
アンナはサディスティックな感情が芽生えてきている。
アクバーはシスターアンナの手を取って持ち上げる。
「さあ、思い切り振り下ろすんだ。気持ちいいぞ」
こくりとうなずくシスターアンナ。
彼女の手が振り下ろされた。
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- 2006/05/26(金) 21:50:53|
- デビルアンナ
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ベトナムです・・・
泥沼です・・・
終戦の兆しが一向に見えません・・・
撤退することもかなわぬまま書き続けています・・・
シスターアンナが闇に染まるまで・・・(笑)
と言うことでシスターアンナ7回目です。
ようやく邪悪化しそうです。ww
7、
「こんばんは」
酒場に優しい声が流れる。
酒場にいた人々は振り返ると同時に目を見開いた。
「シ、シスターアンナ?」
「シスターアンナ?」
現れた女性は黒いすべすべしたドレスを身に纏い、裾からは黒エナメルのハイヒールを履いた脚が薄い黒のストッキングに覆われて覗いている。
「シスターアンナ。今日は一体?」
妖艶だがまがまがしさを感じさせる服装の彼女にみんな驚いていた。
「ワインがなくなったの。とりあえずワインと食べるものをちょうだい」
かつかつと靴音を響かせて店内をカウンターに向かって進むシスターアンナ。
背筋もぴんと伸び、美しい。
椅子に座って脚を組む。
スカートにくっきりと脚の形が浮かび、裾からは魅力的な足首が覗いていた。
今までは尼僧服に包まれていたみずみずしい肉体。
露出具合は同じぐらいなのに、包まれ方が違うだけで彼女の肉体はその滑らかなラインをあらわにする。
酒場にいる男たちにとってはまさに女王の降臨であった。
カウンターにワインのマグとサンドイッチが置かれる。
サンドイッチをつまみながらワインを飲む。
美味しい・・・
うふふ・・・
楽しいわ・・・
店内の男たちを見やる。
みんな一様にシスターアンナをちらちらと盗み見ている。
顔を合わせると恥ずかしげに顔をそむけるのだ。
ふん・・・
私をまともに見ることすらできないクズどもだわ・・・
もっとも、お前たちに見せてやるのももったいないんだけどね・・・
少し不快な気分になりながらワインを飲む。
せっかくのドレスを着たのに、こんなクズども相手では見せる価値もない。
うふふ・・・
きっとドグマ様は目を白黒させるわね・・・
ゾゾゲル様は何も言わないけれど目の輝きが変わると思うわ・・・
うふふ・・・
スカートを少し嫌みにならない程度に持ち上げるの・・・
すると私の脚が見えて喜んでくれるわ・・・
きっと私も気持ちよくなっちゃうわね・・・
アクバー様の前ではしたなく感じちゃうかも・・・
うふふ・・・
美味しいワインを味わうシスターアンナ。
店の男どもは最低だけど、ワインは悪くないわね・・・
あとで一樽届けさせなきゃ・・・
「すみません! シスターアンナがこちらだと聞いたんですが?」
一人の若者が酒場に入ってくる。
ランプの明かりでよくわからないが、何か切羽詰ったように顔が青ざめているようだ。
「シスターならこちらにいらっしゃるけど、どうしたんだ?」
マスターがカウンターのシスターアンナを指し示す。
「よかった・・・シスターアンナ、助けてください」
カウンターに駆け寄ってくる若者。
シスターアンナは彼の方に振り向いた。
「・・・どうしたの?」
いつに無く不機嫌そうな声。
いい気分で食事をしていたのが台無しだわ・・・
シスターアンナはそう思う。
「シスター、大変なんです。また奴らの気まぐれでボビーの奴が怪我をしたんです。どうか助けてください」
青い顔をして青年は訴える。
その必死さ加減がシスターアンナには癇に触った。
また?
どうせそのボビーとやらが魔物の機嫌を損ねたんでしょ?
そんなの当然じゃない・・・
この町は魔物が支配する町なのよ・・・
あんたたちなんていつ死んでもおかしくないんだからおとなしくしていればいいのに・・・
シスターアンナは黙ってワインを傾ける。
「おかわりちょうだい」
空になったマグを差し出すシスターアンナ。
「シスターアンナ、あまり飲み過ぎないほうが・・・」
「シスターアンナ、お願いです。急いで」
・・・なんだって言うのよこいつらは・・・
私はお酒を楽しむことも許されないの?
くだらない連中を助けるためにどうして私が楽しんではいけないのよ・・・
くたばればいいんだわ、こんな奴ら・・・
はあ・・・アクバー様にお願いして少し町の人間を減らしてもらおうかしら・・・
聴いてくれるかしら・・・私のお願い・・・
聴いてくれたら私なんでもしちゃうのにな・・・
「シスター!」
「うるさいわね! 連れてきなさいよ!」
若者をにらみつけるシスターアンナ。
その目はこの若者への憎悪が満ちている。
「あ・・・わ、わかりました」
すぐに駆け出して行く若者。
その様子にマスターもマグをワインで満たして行く。
シスターアンナは再び優雅な手つきでワインを傾けた。
「こっちです」
酒場の入り口から三人の青年たちが入ってくる。
一人は怪我をしているようで、服が破れ胸から血を流していた。
先ほどの青年が先導し、もう一人が怪我人の肩を抱えて歩いてくる。
床に点々と血の跡をつけながら、若者たちはどうにか怪我人をシスターの脇へ寝かせた。
「大丈夫か、ボビー? しっかりしろ」
「傷は浅いぞ。それにシスターアンナが手当てしてくれる」
勝手なことを・・・
足元に寝転がる怪我人を見下ろす格好になるシスターアンナ。
脚を組んだままワインを飲んでいる。
「シスター、お願いします」
仕方ないわね・・・
すっと席を立ち、怪我人の脇に跪く。
確かにひどい怪我ではあるが、命には別状無いだろう。
きっとタイガークローあたりに切り裂かれたに違いない。
おろかな男・・・魔物に逆らったりするから・・・
こんな男のために治癒魔法を掛けてやるなんて気が進まないわ・・・
こんな男に相応しいのは・・・そう・・・うふふ・・・死の呪文がいいかもね・・・
シスターアンナは先ほど覚えたばかりのザキを頭に思い描く。
スムーズに思い出される詩の呪文ザキ。
これならば呪文を唱えるのに問題は無い。
・・・掛けてみようかしら・・・
でも・・・
そんなことしたら・・・
・・・構わないわよね・・・
どうせ死んでも構わないクズだし・・・
ザキの効果を試すにはちょうどいいかも知れないわ・・・
しばらく無言で考え込むシスターアンナに青年が焦れてくる。
いつもと違うシスターに戸惑いもあるが、これ以上待てば怪我の回復が遅くなる。
放っておいても死にはしないかもしれないが、怪我の回復が遅れればそれだけ後遺症も残ってしまいかねないのだ。
「シスターアンナ、何でもいいから呪文をさっさと掛けちゃってくださいよ!」
彼はその言葉が死刑執行書のサインだったとは気が付かない。
ふふ・・・
うふふふ・・・
そう・・・
何でもいいんだ・・・
うれしいわぁ・・・
呪文なら何でもいいのよね?
うふふふふ・・・
冷たい笑みを浮かべるシスターアンナ。
うつむいて怪我人の様子を見ているために他の人にはうかがい知れないが、その笑みは見るものを凍りつかせることだったろう。
「qzwぇcrvtbyぬみ@お¥p・・・」
シスターアンナの口から呪文が発せられる。
その呪文はすぐにボビーに纏わり付くように青いオーラを発した。
「? ぐ・・・ぐわぁっ!」
自分の躰に起こったことが理解不能のままボビーの生命活動は無理やり止められる。
みるみる青ざめて死んでしまうボビー。
周りの男たちはあまりのことに息を飲んだ。
「な、な、何が起こったんだ?」
「お、おいボビー。ボビー!」
すでに死体となった友人を一所懸命に揺り起こそうとする青年。
だが、すでに物言わぬ骸と化している。
「な、何が一体どうなったんだ?」
「まさかシスターアンナが?」
「まさか・・・」
口々に疑念を口にする男たち。
「あら、手遅れだったみたいね。死んじゃったわ」
すっと立ち上がるシスターアンナ。
その表情には笑みが浮かんでいる。
「し、シスターアンナ・・・あなたは・・・」
何か言いたそうにする青年。
しかしシスターアンナは気にも留めずにカウンターに戻るとワインを傾ける。
「シスター! ボビーは死ぬような怪我じゃなかった! これは一体どういうわけだ!」
「うるさいわねぇ。あなたが何でもいいって言ったから、死の呪文を掛けてあげたのよ。うふふふ・・・気持ちよかったわ」
笑い声を上げるシスターアンナ。
その笑い声は周りの男どもをぞっとさせる。
「な、なんだって? どういうつもりなんだよシスター!」
思わず青年はシスターアンナに掴みかかる。
胸倉をつかまれそうになったシスターアンナは、身を引いてマグのワインをぶちまけた。
「下がりなさい! クズのくせに!」
「な、なんだとぉ!」
頭からワインを被った青年は怒りに燃えてシスターアンナを殴りつけた。
「キャァッ!」
床に倒れこむシスターアンナ。
「よ、よせ、マイク!」
「マイク!」
周りの男たちが青年を止めに入る。
青年は肩で息をしながらシスターアンナをにらみつけていた。
「シスターアンナ。俺たちはみんなあんたが大好きだったんだ。この町に希望をもたらしてくれたあんたが。それがどうしちまったんだよ!」
最低だわ・・・
こんなクズに殴られるなんて・・・
うふふ・・・
赦さない・・・
こいつらは赦さないわ・・・
口の中に血の味がする。
頬が腫れてきたらしく痛みがじんじんする。
ゆっくりと立ち上がるシスターアンナ。
「赦さない・・・お前たちは赦さないわ」
人間とは思えない赤い瞳で男たちをにらみつけるシスターアンナ。
その口から再び呪文が形作られた。
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- 2006/05/25(木) 21:25:44|
- デビルアンナ
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シスターアンナ6回目です。
今日は短くてすみません。
なかなか書く時間が作れませんでして・・・
うーん・・・いつになったら終わるのかな・・・
6、
「メラ、メラミ、メラゾーマ・・・うふふ・・・面白そうな呪文がいっぱいだわ・・・」
お茶を飲みながら魔術書を見ているシスターアンナ。
いや、それはお茶ではない。
カップに入っているそれは赤い液体。
ワインだった。
「うふふ・・・美味しい」
味わうようにカップを傾けるシスターアンナ。
もちろん教会は神の血としてワインを使う。
だが、シスターアンナはワインをこのように嗜むことは無かったのだ。
「はあ・・・なんかいい気持ち・・・解放されたような気分だわ」
首まわりを緩めてヴェールを外す。
クルスを取り出してテーブルに置く。
「ふう・・・息苦しいったらありゃしない・・・」
ホッとしたような表情を浮かべるシスターアンナ。
クルスを外して落ち着くなど考えられなかったことだ。
「面白いわぁ。今度誰かに使ってみようかしら・・・うふふ・・・きっと虫けらのように死んじゃうかも・・・うふふ・・・」
頭の中で呪文をシミュレートする。
意外と簡単に使えそうだわ・・・
メラ・・・
メラミ・・・
メラゾーマ・・・
うふふ・・・なんだ、簡単じゃない・・・
頭の中にはすぐ呪文が思い浮かぶ。
これなら問題は無さそうだ。
「うふふ・・・」
ワインを傾けながらわくわくしてページをめくる。
「えっ? 死の呪文ザキ? これも面白そうだわ・・・」
食い入るように読み込んで行く。
それはいかにも恐るべき呪文で、生物の生命活動を止め死に至らしめる呪文だった。
「・・・・・・」
まるでスポンジが水を吸い込むかのようにシスターアンナはまがまがしい呪文を覚えて行く。
それは邪悪な魔女の営みに他ならなかった。
「あら?」
ふと気がつくとワインは空になっている。
「一瓶空けちゃったんだわ・・・でもちょっと物足りないわね・・・」
魔術書から目を離したくは無かったが、ワインも欲しい。
仕方なくシスターアンナは立ち上がって教会の地下の物置へ向かう。
「あーあ・・・私も雑用に使える奴隷が欲しいわ・・・」
奴隷か・・・
うふふ・・・それもいいかも・・・
今度誰か回してもらおうかしら・・・
うふふ・・・地下牢の連中なんかいいかもね・・・
そんなことを考えながら地下の物置の扉を開ける。
かび臭い臭いがなぜか心地よい。
寝室・・・明るすぎるからここで寝るのもいいかも・・・
笑みを浮かべてワインの入った樽を探し出す。
「あら? こっちも空だわ」
先日の礼拝に使って補充していなかったようだ。
「まったく・・・いらいらするわね・・・酒場へ行かなくちゃならないじゃない」
樽を蹴りつけてやつ当たりをするシスターアンナ。
腕組みをしてため息をつく。
「仕方ないわ・・・出かけましょ・・・そろそろ夕食だし、作るのもなんか面倒くさいし」
酒場へ行けば軽食ぐらいは食べられるだろう。
「?」
そのとき物置の片隅にほこりを被ったチェストが置いてあることに気が付く。
「これ・・・何が入っていたかしら・・・」
そうつぶやきながらチェスとのところへ行くシスターアンナ。
あ・・・
なぜだろう・・・
何か安らぐような感じがするわ・・・
そのチェストから漏れ出す気配。
それがシスターアンナを心地良くさせる。
シスターアンナはチェストの前にしゃがみこむと、チェストを開けようとしたがどうやら鍵が掛かっている。
「もう・・・私が掛けたんだと思うけど、何をこんなに厳重に仕舞ったのかしら・・・」
シスターアンナはすぐに立ち上がると鍵を取りに行く。
もう、中を確かめずにはいられなかったのだ。
「あったわ・・・」
戸棚から鍵を取り出すシスターアンナ。
この鍵束のどれかに間違いは無い。
それにしても何を入れたか覚えが無いわ・・・
きっとたいした物ではないと思うけど・・・
ハッとするシスターアンナ。
確か・・・
呪われた品物を預かった記憶があるわ・・・
とてもまがまがしいもので強い呪いだからって言われて・・・
箱ごと預かったんだわ・・・
でも・・・
呪われた品物?
あの安らぐような気持ちが呪いによるものなの?
ま・・・さか・・・ね・・・
階段を下りて行くシスターアンナ。
教会は呪いを解くのも仕事の一つだ。
持ち主を清め、できることなら呪われたアイテムを処分する。
だが、あまりにも強力な呪いは払うことが出来るまで保管しておくのだ。
あれも保管したまま忘れ去っていたいたものかもしれない。
とりあえず開けてみればわかるわよね・・・
シスターアンナは再びチェストにしゃがみこむ。
鍵束の中から一本を選んで鍵を開ける。
かちりと言う音がして鍵が開いた。
「これは?」
チェストの蓋を開けて中を確認したシスターアンナの目の前には黒くつややかな衣服があった。
「綺麗・・・」
うっとりとした表情を浮かべて中から取り出すシスターアンナ。
それは黒いシルクのような生地でできたワンピースのドレスのようだった。
『闇のドレス』
手に取った途端にそんな名称が心に伝わってくる。
黒い闇の色をしたドレス。
スカートは長く胸を強調するようなデザインはナイトドレスと呼ぶに相応しい。
「素敵・・・着てみたいわ・・・」
抱きしめるようにしてその生地の肌触りを楽しむシスターアンナ。
うふふ・・・いい気持ち・・・
あら?
まだ中にあるわ。
『闇のドレス』を膝の上に置き、さらに手を伸ばす。
これは下着?
チェストの中には同じように黒いショーツとブラジャー。それにガーターベルトとストッキングがあった。
わあ・・・素敵・・・
うっとりと夢見るように下着を手に取るシスターアンナ。
うふふ・・・
すでに彼女の頭には手にした衣類を身に着けることしか頭に無い。
シスターアンナは着ている尼僧服に手を掛けた。
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- 2006/05/24(水) 22:02:44|
- デビルアンナ
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シスターアンナ5回目です。
徐々に思考が変わってきている様子が感じていただけるかなぁ。
それではドゾー。
5、
静まりかえった夜。
すでに町は眠りにつき、時々魔物が徘徊しているに過ぎない。
夜は魔物たちの時間。
人間は家の中で息を殺し、浅い眠りをつかの間楽しむ。
夜通しやっている酒場ぐらいしか灯りは点いていないと思われたが、教会の一室から灯りが漏れていた。
「ん・・くぅ・・・ん・・・はあ・・・ああ・・・ん・・・んん・・・ああ」
開いた窓から艶めかしい声が聞こえる。
ランプの灯りに照らされたベッドの上の輝くような白い裸身。
うっすらと汗の浮き出た滑らかな肌が妖しく蠢く。
「ん・・・んん・・・あん・・・」
その手は股間に伸び、細かな動きを繰り返す。
白魚のような指がうねうねと動き、幻惑すら感じさせた。
「ああ・・・だめ・・・だめよ・・・ん・・・んんん・・・」
目をつぶり、快楽に息をあえがせながらシスターアンナの指は止まらない。
意識の中ではこれがいけないことだとはわかっている。
神は人間の性欲を穢れたものだと戒めている。
シスターアンナもそれを信じ、今まで躰を清く保っていたのだ。
でも・・・
でも止まらないよぅ・・・
いい・・・
気持ちいいの・・・
気持ちいいのよぉ・・・
くちゅくちゅと水音を立てるピンク色の秘めた唇。
綺麗な襞が指の動きにあわせて妖しく蠢いている。
だめなのに・・・
こんなことしちゃだめなのに・・・
そう思っても指は全く止まらない。
それどころかより深く潜り込んで彼女の敏感な部分を擦り引っかいていく。
「ああ・・・ああああ・・・」
彼女の全身を快感が走り回る。
何も考えられなくなってきて、躰がぴんと張り詰める。
「あ・・・い・・・いく・・・」
つま先が丸まって躰がしなる。
腰が浮いて頭が真っ白になる。
「いくぅぅぅぅぅぅぅ」
シスターアンナは光の中で絶頂を迎えていた。
「はあ・・・はあ・・・」
ベッドの上でぐったりとなるシスターアンナ。
いつ以来だろう・・・
一人で躰を慰めるなんてしばらくぶりだった。
気持ちよかった・・・
シスターアンナの顔に満足そうな笑みが浮かぶ。
オナニーって気持ちいいわぁ・・・
どうして神はこんな気持ちいいことを汚らわしく思うのかしら・・・
濡れてべとべとになった指を灯りにかざす。
んふふ・・・
そっと口へ運んで舌で舐める。
奇妙な味だがなんとも言えない。
「うふふ・・・神様にはナイショよ」
そう言っていたずらっぽく笑うと、シスターアンナは灯りを消して毛布をかぶった。
「おはようございます」
「おはようございますシスターアンナ」
「おはようございます」
朝早くから礼拝堂には人が集まってくる。
先日の脱走騒ぎにより、アクバーはよりいっそうの引き締めを行なってくるだろう。
酒場の人間が関わっていたとのことで、酒場も潰されてしまうかもしれない。
そうなったら人々はますます日々の憩いをなくしてしまうだろう。
せめてお祈りをすることで人々の心が休まれば・・・
シスターの尼僧服を身にまとい、凛とした姿で壇に立つシスターアンナ。
「おはようございます皆様。今日も神は皆様と共におられますわ。さあ、お祈りを捧げましょう」
そう言って聖像に向き直り跪いて両手を組む。
集まった人々も思い思いに両手を組んで祈り始めた。
天にまします神様・・・
どうかこの者たちに安らぎを・・・
安らぎ?
祈って安らぎが得られるの?
神様がそんなものを与えてくれるというの?
まやかしだわ・・・
中央の聖職者だって金儲けしか考えていないもの・・・
神なんてただのイメージ・・・
大魔王デスタムーアのほうがよほど実在しているだけにすがる価値があるというものよ・・・
大魔王デスタムーアなら願いをかなえてくれるかもしれないわね・・・
死という安らぎを与えてくれるかもよ・・・
うふふ・・・
シスターアンナは笑みを浮かべて立ち上がる。
「さあ、皆様。今日も一日頑張りましょう。くれぐれも魔物たちの機嫌を損ねないようにいたしましょうね」
祈っていた男女は一瞬えっというような顔をしたが、確かに言われる通りなので一様にうなずいた。
「わかりました。シスターアンナ」
町の人々はそれぞれ礼拝堂を出て行った。
「ふう・・・疲れた。祈ってどうにかなるんだったらとっくにこの町は救われているわ。そんなこともわからないのかしら・・・」
そう言って誰もいなくなった礼拝堂で聖像を見上げるシスターアンナ。
神様なんて・・・いるわけ無いわ・・・
ふいと視線を外し、住居に繋がる扉を開ける。
いつもなら聖像のほこりを払い、礼拝堂の掃除をするのだが、なぜか今日はする気になれなかった。
一日ぐらい・・・いいわよね・・・
何となく後ろめたさを感じたものの、シスターアンナは扉をくぐって閉めた。
窓の外を眺めているドグマ。
いつもどおりの牢獄の町がそこにはある。
あの忌々しい四人は他に仲間がいたらしく、テリーという剣士とチャモロという少年をすでに捕らえてある。
身包み剥いで牢獄へ入れたので、抜け出す心配は無いはずだ。
彼らの脱走を手引きした連中はすでに処刑を済ませ、その首は広場に晒してある。
人間どもは縮み上がっておとなしくなることだろう。
アクバー様よりのお咎めも無かったし、まずは重畳だ。
「町の様子はどうだ?」
玉座に座るアクバーが退屈そうに窓のほうを向く。
「は、取り立てて別に変わりはありません」
「そうか。教会はどうだ?」
「教会ですか?」
ドグマは再び窓の外を見る。
教会もいつもどおり・・・いや?
「今日はシスターアンナが見えませんな」
いつもなら教会の前を掃除していたりする時間のはずだが・・・
「そうか・・・グフフ・・・」
アクバーは大きな口をゆがめて笑った。
「ふう・・・相変わらずモノは高いし・・・いやになるわ・・・」
買い物に町へ出ているシスターアンナ。
いつもなら町の人々と触れあえるこの買い物が彼女は好きだった。
だが、今日は気が重い。
町中を無邪気に駆け回る子供たちや、屈託の無い笑顔で談笑しているおかみさんたちの笑い声がいやに耳につくのだ。
バカみたい・・・
こんな町に捕らわれて飼い殺されているのも知らないで・・・
どうしようもない連中・・・
人間なんてどうしようもない連中だわ・・・
アクバーに支配されても当然よね・・・
「?」
わ、私ったら何を考えているの?
昨日から変だわ・・・
あ・・・
シスターアンナは思い至る。
まさか・・・
まさかあの虫が?
あの虫が私を変にしているの?
ど、どうしよう・・・
キアリーやキアリクじゃ効かないわよね・・・
どうしよう・・・
シスターは青ざめる。
「このままじゃいけないわ」
何事か思いついたようにシスターアンナは通りを後にした。
「お願いです。囚人と会わせてください」
牢獄の町にある地下牢にやってきたシスターアンナ。
入り口を見張っている牢獄兵に先日再び捕らえられた四人組にあわせてくれるように懇願する。
彼らは町の外から来た旅人たち・・・
きっと何か知っているに違いないわ・・・
あの虫が一体何なのか・・・
『魔物のたましい』って何なのか・・・
「あいにくだがここは立ち入り禁止だ。立ち去りなさい」
無表情に答える牢獄兵。
以前彼はこの町にやってきた流れ者だった。
それをアクバーたちが捕らえ、今では牢獄兵として見張りに立っている。
「お願いです、少しだけ、少しだけ話をさせてください」
「だめだ」
「お願いですから!」
何とか会わせてもらおうと頼み込むシスターアンナ。
「だめだ」
だが、牢獄兵はにべも無い。
「お願いよ・・・」
「ここで何をしている?」
背後から声を掛けられるシスターアンナ。
「えっ?」
振り返ると全身を金属鎧で包み込んだゾゾゲルが立っている。
フルフェイスのヘルメットの奥の目が不気味に輝いていた。
「ゾゾゲル・・・」
「ここで何をしているのだ? シスターアンナ」
つかつかと近づいてくるゾゾゲル。
「そ、その・・・囚人とお話をさせて欲しかったのです」
少しうつむくシスターアンナ。
『魔物のたましい』について知っているかどうか聞きに来たなどという事がばれたら・・・
そう思い顔をそらす。
「囚人に? 何を話すというのだ?」
「そ、それは・・・神の教えをお話しするのですわ。彼らだって神様のお言葉を聞けば悔い改めて今回の狼藉を反省してくれると思いますの」
嘘が平気で言えるなんて・・・
でも、仕方ないわ・・・
きっと神も許してくれるはず・・・
許す?
バカね・・・
神様なんていないんじゃなかったの?
「いいだろう。おい、開けてやれ」
ゾゾゲルが顎をしゃくる。
「ハッ」
牢獄兵が鍵を開けて扉を開いた。
「いいのですか?」
シスターアンナはちょっと驚く。
まさか開けてもらえるとは思っていなかったのだ。
「少しの間だけだ。いいな」
ゾゾゲルはそのまま壁にもたれかかって目を閉じる。
「ありがとうございます」
頭を上げてシスターアンナは扉をくぐった。
「シスターアンナ?」
「シスター。ご無事でしたか」
牢獄の一部屋に入れられている旅人たち。
それぞれが二人ずつ三部屋に別れている。
シスターアンナはそのうちのヘボヘボとハッサンが捕らえられている牢の前に立った。
「こんにちは旅人さん。確かヘボヘボさんとハッサンさんでしたね」
「覚えていてくれて嬉しいです。俺がヘボヘボ。こっちがハッサンです」
「よろしくシスター」
あちこちにまだ傷が残っているものの、笑顔を見せる成年と巨漢の男。
「とりあえず無事でよかった。何とかここを脱出して町のみんなを救ってあげますからね」
何気ないそのヘボヘボの言葉にシスターアンナは怒りを感じた。
何とかここを脱出して町のみんなを救う?
余計なお世話だわ・・・
誰があなたに町を救ってくれなどと頼んだの?
無責任なことを言って町の人々をたぶらかさないで・・・
あなたがそんなことを言うから、町に人々はだまされてアクバーに逆らい命を落としたのよ。
それがわかっているの?
「シスター?」
「どうかしたのか? シスター?」
うつむいてしまったシスターアンナに首をかしげるヘボヘボとハッサン。
何か悪いことを言ってしまったのだろうか・・・
「何でもありません・・・何でもありませんわ」
顔を上げるシスターアンナ。
「よかった。それでここへはどうして?」
「シスター。何とか奴らから鍵を奪えないですか?」
鍵ですって?
こいつらはまだ懲りていないんだわ。
私が鍵を持ってきたら、またアクバーに立ち向くつもりなんだわ・・・
そして今度は私も殺される・・・
そんなことさせるものですか・・・
「鍵なんて無理です。少しはおとなしくしていてください」
「シ、シスター・・・そうですか・・・やはり難しいですよね」
落胆するヘボヘボ。
「それよりも聞きたいことがあります。『魔物のたましい』というのはご存知ですか?」
「『魔物のたましい』? 聞いたことないなぁ・・・」
ヘボヘボが首をかしげてハッサンを見る。
「いや、知らないな。チャモロはどうだ?」
ハッサンが少し離れたテリーとチャモロが入れられている牢に話しかける。
「すみません。僕も聞いたこと無いです」
少年も首を振る。
役に立たない連中だわ・・・
「すみませんシスターアンナ。私たちではお役に立てないみたいですね」
となりの牢から金髪のおとなしそうな女性・・・確かミレーユさん・・・が申し訳無さそうにシスターアンナに頭を下げた。
「そのようですね。無駄足でした」
あ・・・
私は何を・・・
「す、すみません。でも、その『魔物のたましい』がどうかしたんですか?」
シスターアンナはヘボヘボに振り返る。
どうかしたかですって?
あなたたちがアクバーに逆らったりするから、私はあの気色悪い虫を飲む羽目になったのよ!
それがわかっているの?
「あなたたちにはわからないわ。どうせあなた方はあの虫を飲んだわけではないのですから」
また・・・
でも止まらない・・・
心が尖って行くわ・・・
何でこいつらは平気な顔しているのよ・・・
「そんな言い方無いじゃないですか。シスターなのに」
シスターなのに?
シスターだったら怒ってはいけないの?
シスターは感情も欲望も抑えなくてはいけないの?
ばかげているわ・・・
「ええ、私はシスターですわ。でもだからどうだって言うの? あの気色悪い虫を飲んでもシスターなら我慢しろって言うの?」
止まらない・・・
どうしても止まらない・・・
「そんなことは言っていないじゃないですか!」
「おい、ヘボヘボ、よせ」
「ヘボヘボ」
回りの連中が心配する。
「もう結構です。私のことは自分でやります。あなた方のような役立たずに聞いた私がバカだったわ」
シスターアンナはそう言って牢獄を後にする。
「なんだ、一体?」
「どうしちゃったんだ?」
後に残されたヘボヘボたちには何がなんだかわからなかった。
「どうした?」
牢獄を出たところでゾゾゲルに声をかけられるシスターアンナ。
「・・・別に・・・」
無表情でその場を立ち去ろうとする。
「ふふ・・・いい顔をしているじゃないか」
「え?」
思わず脚が止まるシスターアンナ。
「人間のくだらなさにあきれ果てたような表情だ。なかなかにそそる」
「そ、そんなこと・・・」
ふいと顔をそらすシスターアンナ。
だが人間のくだらなさという言葉はなぜか心にのこる。
「帰ります。あの人たちに会うなんて時間の無駄でした」
地上への階段を上ろうとするシスターアンナ。
「待て」
「なんですか?」
その声にシスターアンナはにらむように振り返る。
「ふふ・・・俺はお前を探していたのだ。アクバー様よりこれを渡すように言われていたのでな」
一冊の本を差し出すゾゾゲル。
「これは?」
シスターアンナはそれを受け取る。
それは革で装丁された魔術書だった。
「魔術書?」
どういうつもりなの?
私は治癒魔法を主に学んだのよ・・・
攻撃呪文などは・・・
「アクバー様よりの指示だ。読んでみろ」
アクバー様よりの指示?
どういうことかしら・・・
でも・・・
読むぐらいならね・・・
「わかったわ。受け取ります」
本を買い物籠に入れて階段を上がるシスターアンナ。
結局彼女はそのまま教会へ戻るしかなかった。
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- 2006/05/22(月) 21:43:38|
- デビルアンナ
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うーん・・・
『魔物のたましい』を飲ませるだけでかなりかかってしまいました。
ようやくシスターアンナが『魔物のたましい』を飲みますよー。
それでは4回目ですー。
4、
「それはこっちのセリフだ! 行くぞ!」
ヘボヘボと呼ばれた男がその名とは裏腹な勇敢さでゾゾゲルに切りかかる。
抜き払われた剣はその刀身が炎を纏ったように赤い。
『ほのおのけん』だわ・・・
後ろ手に取り押さえられながらも、シスターアンナは彼らの戦いに目を奪われていた。
彼女とアクバーの前にはドグマとゾゾゲルが立ちはだかり、彼ら勇者の攻撃を阻んでいる。
彼女が救われるためにはまずはこのドグマとゾゾゲルを倒さなければならないのだ。
そんなことが可能なの?
シスターアンナは少し暗い気持ちになる。
ドグマもゾゾゲルも魔物の中でも強力さにかけてはかなりのものだろう。
その二人でさえアクバーには敵わない。
彼らにとっては苦しい戦いになるはずだった。
「くぁwせdrftgyふじこ・・・」
赤い髪の毛を後ろでまとめた少女が呪文を唱える。
杖の先から巨大な炎が塊となってゾゾゲルへ向かった。
メラミの呪文? あれが?
爆炎とともに熱風があたりに吹き荒れる。
「キャアッ!」
思わず目を閉じるシスターアンナ。
「?」
だが熱風はまったく感じられない。
そっと目を開けると彼女の躰はアクバーのコウモリ型の翼によって守られていたのだ。
「あ・・・アクバー・・・」
「まったく厄介な奴らだ。だが、ドグマとゾゾゲルの敵ではないわ」
彼女の方を見もしないが、アクバーはしっかりと彼女を守っていたのだ。
それがかえってシスターアンナにとっては苦しかった。
私は・・・倒すべき相手に守られている・・・
シスターアンナはうつむいた。
「お前の相手はこの俺様だ!」
上半身裸ともいうべき巨体を押し立ててばくれつけんを放つハッサン。
「ぐおっ」
ドグマのローブが舞い、表情が苦痛にゆがむ。
「おまけよ!」
長い金色の髪をなびかせて優雅に舞うように呪文を唱える女性。
その杖の先からは強力な冷気が噴出し、ドグマとゾゾゲルを襲う。
「ぬうっ」
さすがのゾゾゲルも躰に霜を纏わり付かせて一歩下がった。
「いけるぞ!」
ヘボヘボの振り下ろす一撃が金属音を立ててゾゾゲルの鎧に食い込む。
だが・・・
「ふんぬっ!」
長柄の剣がヘボヘボの盾にぶつかる。
そのまま勢いは殺がれずにその躰を吹き飛ばす。
「うわっ」
尻餅をつくヘボヘボ。
「ヘボヘボ!」
思わず駆け寄る赤い髪の少女。
「大丈夫だバーバラ」
ヘボヘボはすぐさま起き上がって剣を構え直す。
「ばくれつけん!」
ハッサンのこぶしが幾度もドグマの躰にめり込んで行く。
「ぐぼっ、がはっ」
口の中を切ったのか床に黒い液体が滴る。
「よし、ミレーユ、とどめを刺せ!」
「わかったわ」
金色の髪の女性がハッサンにうなずく。
だが・・・
「¥@:?&%$#おkmんじ・・・」
ドグマが呪文を唱えると、ドグマとゾゾゲルの躰のまわりを緑色の光が漂い、見る間に彼らの傷がふさがって行く。
「ベホマラー?」
シスターアンナは驚いた。
まさか神の奇跡を使えるなんて・・・
魔物が治癒魔法を使えることに愕然となったのだ。
「ククク・・・」
ドグマがにやりと笑う。
「次はこちらの番だ。#$%+-*@¥:?・・・」
ドグマの呪文がミレーユを襲う。
ピンク色の霧が彼女の周囲に漂いミレーユの目の焦点が合わなくなった。
「お前の敵はそいつらだ!」
ドグマの言葉に虚ろにうなずくミレーユ。
今の彼女には敵も味方もわからない。
「あれは一体?」
「ククク・・・メダパニの呪文だ。あの女はもはや正常な判断が出来ないのだ」
アクバーが笑っている。
ミレーユは何も考えられず、言われるままにヘボヘボたちに向けて先ほどの冷気の呪文マヒャドを唱える。
「うわあっ」
彼らの悲鳴が響いた。
「さみだれ剣!」
ゾゾゲルの長柄の剣がきらめき、血しぶきが飛び散る。
ドグマの杖がハッサンの腹部にめり込み、虚ろなミレーユの呪文が追い討ちをかけて行く。
ああ・・・
シスターアンナは悲鳴から逃れるように首を振る。
経験が足りないのだ。
彼らの今までの経験ではドグマとゾゾゲルに歯が立たない。
「もうやめて・・・お願いですからもうやめてください」
「そうはいかん、黙っているのだ」
ブルドックが笑みを浮かべるような顔でアクバーは笑っている。
もう勝負はついた。
マヒャドやばくれつけんで倒せなかったときに彼らの勝機は失われていたのだ。
「かえん切り!」
「うわあっ」
ドウッと倒れるヘボヘボ。
そばにはぼろぼろにされたハッサンや服のあちこちが凍りついているバーバラが倒れている。
メダパニで混乱していたミレーユもゾゾゲルの回し蹴りやさみだれ剣の攻撃によって倒されていた。
「く、くそっ・・・」
床に爪を立てて何とか立ち上がろうとするヘボヘボ。
しかし、そのまま倒れこみ意識を失ってしまう。
「ああ・・・」
駆け出そうとするシスターアンナ。
だが、がっちりと捕まえられた腕は振り解くことが出来ない。
「は、離して! あの人たちが・・・」
どうしたらいいのだろう・・・
私を助けに来てくれたのに・・・
私がこんなところへ来てしまったから・・・
私のせいだわ・・・
「無駄だ。奴らはここで死ぬのだ」
アクバーの冷酷な宣告。
「そんな・・・お願いです。私はどうなってもいいから彼らを助けてください!」
すがりつくようにシスターアンナはアクバーに訴える。
彼らを死なせてはいけない・・・
シスターアンナは必死だった。
アクバーが冷たい笑みを浮かべる。
「ではこれを飲むのだ」
「えっ?」
シスターアンナの目の前に差し出されるピンク色の不気味な芋虫。
うねうねと動き、背中には一列になった棘のような突起がある。
この芋虫がどういったものかシスターアンナは知らない。
だが、いつまでも美しくあるようにとのアクバーのプレゼントだ。
害にはならないだろう。
こんな不気味な虫がお腹の中で消化されるというのは耐えがたかったが、彼らの命には代えられない。
「わかりました・・・飲みます」
シスターアンナはうなずいた。
「ドグマ、ゾゾゲル、それぐらいにしておけ」
「何ですと?」
「よろしいのですかアクバー様?」
アクバーの言葉に驚く二人。
だが、アクバーはうなずくとシスターアンナに『魔物のたましい』を手渡す。
シスターアンナの手のひらの上で蠢く『魔物のたましい』。
顔を上げたり下げたりしてうねうねと不気味に身をくねらせている。
シスターアンナはくじけそうになる自分の気持ちを奮い立たせてそっと口へそれを運び込む。
目をつぶって一気に口の中へ入れて、そのままごくんと飲み干した。
「う・・うげ・・・」
襲ってくる吐き気をこらえる。
お腹の中で蠢いているような気がして気持ちが悪い。
今すぐ吐き出してしまいたいけど、それは出来ない。
彼らを無事に助けるまでは吐き出してはいけないのだ。
「飲みました。これで彼らを自由にしてくれますね?」
シスターアンナは気持ち悪いのを隠すように顔を上げる。
「よくやった、シスターアンナ。約束どおりそいつらの命までは取らん」
にやりとほくそえむアクバー。
狙いが見事に的中したのだ。
これでシスターアンナは・・・
アクバーは喜びに浸る。
「おい、そいつらを牢獄へ入れておけ。武器も何もかも取り上げておくのを忘れるな。それと・・・」
「まだ何か?」
ドグマが気を失っているハッサンを蹴りつける。
「そいつらを牢から出した連中を調べておけ。表で騒ぎを起こしている奴らの中にいるに違いない」
「かしこまりました」
一礼するドグマとゾゾゲル。
早速四人を連れ出すために牢獄兵たちを呼び寄せる。
「あ、待ってください」
シスターアンナが四人に駆け寄った。
「何をする気だ?」
アクバーが呼び止める。
「せめて応急手当だけでもさせてください」
そう言ってシスターアンナは四人の倒れた勇者たちに治癒呪文をかけようとする。
「ふん・・・まあいいだろう」
アクバーが肩をすくめた。
倒れこみ意識を失っている若者。
経験不足にも関わらずにここまで来てくれたのだ。
少しでも傷を治してあげることでお礼代わりになれば・・・
シスターアンナはそう思って手をかざす。
ホイミの呪文を唱えようとした時にちょっと考え込む。
なぜ彼らは危険を冒してまでここへ来たのかしら・・・
私を助けるため?
本当にそうなの?
シスターアンナは首を振った。
違うわ・・・
彼らがここへ来たのはアクバーが溜め込んでいる財宝や、彼を倒したという名声が目当てに違いない・・・
そうでなければ危険を犯して私のような一介のシスターを助けに来るはずがないわ・・・
アクバーを倒せば富も名声も思いのまま・・・
彼に代わってこの町を支配することだってできるかもしれない・・・
ドグマとゾゾゲルの代わりを倒れている大男や金髪の女性が務め、アクバーの代わりをこの青年が務めるとしたら・・・
何も変わりはしないわ。
それどころかもっと悪くなる可能性だってあるわ。
そうよ・・・
アクバーを倒し、彼に成り代わろうなんて考える人間がまともなわけないわ・・・
こいつらは倒されてよかったのよ・・・
すっと手を引っ込めるシスターアンナ。
そのまま振り向いてアクバーの方へ向かう。
「どうしたのだ? シスターアンナ」
「いえ、どうやら手当ては必要無さそうですわ。そのまま牢へ入れても死ぬ心配はないでしょう」
そう言ってうつむくシスターアンナ。
私・・・
私悪い女だわ・・・
手当てもせずに牢に入れろだなんて・・・
でも・・・
でも彼らが何を考えているのか知れたものじゃないわ・・・
それを・・・
それを見極めてからお礼を言っても神様は許してくださるわよね・・・
「私・・・教会へ戻ります」
シスターアンナは顔を上げた。
「よいのか? 部屋を用意させてもよいのだぞ」
「いいえ、結構ですわ。失礼します。みんなが待っていますので」
「まあ、よかろう」
アクバーが指を鳴らす。
するとすぐに牢獄兵が二人やってきて跪いた。
「シスターアンナが教会へ戻るそうだ。念のためについていけ」
「「ハッ」」
無表情のまま二人はかしこまる。
すでに四人は運び出され、室内はブチュチュンパが舐めまわして戦闘の跡を片付けていた。
「こちらへ」
「ありがとう」
二人の牢獄兵に付き添われ、シスターアンナはアクバーの居館を後にした。
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- 2006/05/19(金) 20:08:59|
- デビルアンナ
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賞味期限間近のお蕎麦を茹でましたー。
うーん・・・まずい。(笑)
やっぱり時間が経っちゃっているからかなぁ。
さて、シスターアンナ第三回目ですー。
お邪魔虫が登場か?
3、
「アクバー様。シスターアンナをお連れいたしました」
牢獄兵によって居館の広間へ通される。
豪華なシャンデリアやテーブルの上の花瓶、壁に飾られた絵画などが目を奪う。
いずれも町の人々から搾取したり、近隣の村々から略奪してきたものだ。
もちろんアクバーたち魔物に美をめでる趣味は薄い。
これは単に自分たちに力の誇示に過ぎないのだ。
シスターアンナは広間の中央に進み出て、奥の玉座に腰掛けるアクバーをにらみつけた。
「私に用があるそうですね、アクバー」
「なんと無礼な口の聞き方だ、女! アクバー様をなんと心得るか!」
アクバーの両脇に控える二人の魔物。
ドグマとゾゾゲルのうち、ドグマがいきり立つ。
魔術師のいかつい顔がさらに憤怒の表情を浮かべていた。
「私にとって敬うべきお方は神様のみです。あなたたちを敬う理由などありません!」
「ぐぬぅ。このアマが」
「やめよドグマ」
アクバーが手を振って制する。
彼にとっては目の前のシスターのこの気高さが結構気に入っていたのだ。
神に仕える気高き女性。
それは裏を返せば、大魔王様へも同様に心からお仕えする気高き女魔族としての資質を持っているということに他ならない。
惜しい・・・
実に惜しい・・・
常日頃アクバーはシスターアンナのことをそう思ってみていた。
あの女が魔物であったなら、わしは一も二もなく妻にするために誘惑しておったものを・・・
先日まではそんなふうに思っていたものだったのだ。
だが、過日牢獄の町の状況を報告するために大魔王デスタムーアの下へ出向いた時に全ては変わった。
牢獄の町の状況は悪くはない。
人間どもは魔物によって支配され、おとなしく暮らしている。
だが、絶望の度合いが低いのだ。
大魔王デスタムーアにそのことを咎められ、原因を追究されたときにアクバーはシスターアンナのことを持ち出さざるを得なかった。
「始末せよ」
大魔王の言葉は簡潔だった。
だが、アクバーは躊躇ってしまった。
シスターアンナに惹かれてしまっていたからだ。
出来ればあの女をそばに置いておきたい。
もちろん相手は人間。
魔族である彼にとっては伴侶にするなど思いもよらないことだ。
しかし、それでもできればアクバーはシスターアンナを目の届くところに置いておきたかったのだ。
神などに仕える僧侶や尼僧などは忌々しく汚らわしい存在だ。
しかし、シスターアンナという女だけはアクバーにとっては別だったのだ。
アクバーは何度も考えていた。
いっそのことシスターアンナを他の人間どものように牢獄兵としてしまうのはどうか・・・
だが、そのたびに首を振る。
いかんいかん・・・
それではただの人形に過ぎなくなる。
わしが欲しいのは人形ではない。
わしが欲しいのはわしの妻にもなれるような気高く邪悪な女魔物だ。
牢獄兵のような人形ではない。
何かいい知恵はないものか・・・
そんな時に大魔王デスタムーアの居城で見つけたのが一冊の文献だった。
もちろんアクバーは読書など真っ平だったが、背に腹は変えられない。
何か妙案が無ければシスターアンナを自らの手で始末しなくてはならなくなる。
何かいいアイディアは無いかと思って蔵書を漁っていたのだ。
これだ!
ほこりを被った魔道書。
その一ページにその方法が載っていた。
『魔物のたましい』
それはそう名付けられたアイテムだった。
このアイテムを使うことによって、かつて数が少なかった魔族はたくさんいた人間の中から相応しい者を魔物とすることにより数を増やしたのだという。
これこそが求めていたものだ。
アクバーは狂喜乱舞した。
これでシスターアンナを魔物としてしまえば問題は解決する。
アクバーは早速『魔物のたましい』を作ることにしたのだった。
だがそのアイテムの作り方はちんぷんかんぷんだった。
作り方も材料もどの文献にも載っていない。
当たり前だ。
かつての魔族にとっては当たり前だった代物。
どこででも手に入るものにわざわざ作り方を書いておくだろうか。
例えば空気がどういうものかを書いた文献があっても、空気の作り方を書いた文献はまずないだろう。
アクバーは途方に暮れた。
ドグマやゾゾゲルはアクバーよりも知識量は少ない。
アクバーの知らないことを知っているわけがない。
万策尽きたアクバーは大魔王デスタムーアにそのことを話してみた。
意外にも大魔王デスタムーアはアクバーの話を黙って聞いたばかりか、追って使者を使わせるから普段どおり町を支配せよとの仰せだったのだ。
アクバーは半信半疑ながらも黙って町へ戻ってきた。
そしてついに先日大魔王デスタムーアより『魔物のたましい』が届けられたということだったのだ。
「シスターアンナよ。今日はお前に我がプレゼントを受け取ってもらいたくて呼んだのだ」
「プレゼント? そのようなものいりません。それよりも町の人々に対する嫌がらせを今すぐにやめてください」
毅然として言い放つシスターアンナ。
内心の恐怖をひた隠しにしているのは間違いないが、それでも震えもせずに立っている。
「嫌がらせ? 嫌がらせなどとんでもない。我らは普通に人間どもと接しておるのだ。それがどうかしたのかな?」
「ふざけないで下さい! あなた方のやっていることは弱いものいじめです。町の人々だって生きているんですわ。あなた方の都合で勝手にしないで下さい」
シスターアンナの言葉にアクバーはにやりと笑う。
やはりこの女は素晴らしい。
「黙って聴いておればいい気になりおって!」
ドグマがずいっと前に出る。
「ヒッ」
やはりどうしても躰がすくんでしまうシスターアンナ。
目をつぶってクルスを握り締めている。
「よさないかドグマよ!」
アクバーが一喝すると、ドグマは驚いて下がる。
その姿をゾゾゲルは冷ややかに見ていた。
「クックック・・・どうもこいつは魔術師のくせに血の気が多くていかん」
立ち上がるアクバー。
そのままシスターアンナに近づいていく。
「シスターアンナよ。わしはお前が気に入っておる。だから受け取るのだ。わしのプレゼントを」
「えっ?」
シスターアンナは驚いた。
アクバーが気に入っている?
この私を?
そんなことって・・・
「なに、たいしたものではない。ちょっとした薬のようなものだ。いつまでもお前が美しくあるようにな」
「そのようなもの必要ありません。永遠の美などあるはずが無いのですから」
シスターアンナが首を振る。
おそらくこのままでは彼女に『魔物のたましい』を植え付けるのは困難だろう。
だが、アクバーは引き下がらない。
このチャンスを逃すわけには行かないのだ。
「ドグマよ。そこにある黒い粒を持ってくるのだ」
「ハ、ハハッ」
ドグマが慌ててデスクの上にある黒い粒を取ろうとする。
パキッ!
「?」
「!」
乾いた音がして黒い真珠状の粒は割れていた。
「あ、あわわわ、こ、ここれは」
「なんと『魔物のたましい』が壊れた?」
ドグマは腰を抜かさんばかりに驚き、ゾゾゲルも色を失う。
だが、デスクの上の割れた球体からはもぞもぞと蠢くピンク色の芋虫のようなものがうねっていた。
「おお、どうやら孵化したようだな。心配はいらん。もともとそれこそが本当の『魔物のたましい』なのだ」
アクバーが早く持ってくるように手招きする。
「さ、左様で?」
ドグマが恐る恐る蠢く芋虫を摘み上げ、アクバーのところへ持ってきて手渡した。
「さあ、これを飲むのだシスターアンナ」
「ええっ?」
冗談でしょう?
こんな不気味なものを飲み込めというの?
シスターアンナは首を振る。
「の、飲めません、こんなの飲めません!」
「飲むのだシスターアンナ!」
シスターアンナの手を取り、引き寄せるアクバー。
顎に手を掛けて無理やり飲ませようと口をこじ開ける。
「い、いや、いやぁっ!」
必死に躰をよじって振りほどこうとするシスターアンナ。
あのような不気味な虫を飲むなんて出来ないのだ。
「飲むのだシスターアンナ。これを飲めばお前の心は我ら高貴な魔族のものとなり、やがてはその身も相応しい魔物となる。きっと美しい魔物に生まれ変わるだろう。我が妻に相応しい」
「いやぁっ、誰か、誰か助けてぇっ!」
シスターアンナの悲鳴が響き渡った。
「待てーっ!」
アクバーの居館に声が響き渡る。
ドアを蹴破って入ってくる四人の男女。
いずれも武器を携えていて、とても穏やかに話し合いに来た様子ではない。
「き、貴様らはヘボヘボにハッサン! 確か牢獄に入れたはず」
ドグマが杖を構える。
「ああ、確かに前は不覚を取って牢獄に入れられたさ。でもな、町の人たちが開けてくれたんだよ!」
「所詮牢獄兵ごときでは私たちには歯が立ちませんわ」
剣を構える若い男と杖を構える若い女。
「さあ、シスターを放してもらおうか!」
巨体をゆすってばくれつけんの構えを取る男。
「さもないとメラミの一撃を食らわせるわよ」
もう一人の女性も杖を構えて呪文をいつでも唱えられるようにしている。
「ああ・・・」
彼らの姿を見てシスターアンナはホッとする。
神様・・・
感謝いたします。
「無粋な奴らめ。ここをアクバー様の居館と知ってか?」
長柄の剣を構えるゾゾゲル。
「今度こそ牢獄ではなく地獄へ送り込んでやるわ」
ドグマも呪文をいつでも唱えられるように杖を侵入者たちに向け直した。
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- 2006/05/18(木) 22:36:04|
- デビルアンナ
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シスターアンナ二回目です。
なかなか進みませんですねぇ。
今日も少しだけですみません。m(__)m
あと、このSS中に出てくる牢獄兵の設定は私が考えたもので、ドラクエ中にはこういった設定はありませんのでご了承下さいませ。
2、
「まあ、一体どうなさったというのですか?」
教会に担ぎこまれてくる三人の男たち。
いずれも唇を紫色に腫れ上がらせている。
毒?
シスターアンナはすぐにその症状を見て取った。
「これは毒?」
「そうなんですよシスター。あいつら・・・毒の沼の中に落とした『ちいさなめだる』を取ってこいとか言いやがって・・・」
彼らを教会に担ぎこんだ男たちが悔しそうに唇を噛んでいる。
魔物たちの嫌がらせなのだ。
「すぐに毒を消しますわ。大丈夫」
シスターアンナはキアリーの呪文を唱える。
僧侶としての神の奇跡の一部なのだ。
次々と男たちへかけていくことでシスターアンナの疲労がかさむ。
しかし、彼女は三人全てにキアリーの呪文を施すと、さらにホイミで治療する。
男たちは見る間に呼吸も落ち着き、顔色も赤みがさしてきた。
「はあはあ・・・これで大丈夫・・・ですわ。後はゆっくりと休ませて上げてください・・・」
「シスターアンナ、大丈夫ですか?」
男たちが心配そうに伺う。
「大丈夫です。ちょっと呪文を使いすぎましたけど、しばらく休めば回復しますわ」
にこやかに笑みを浮かべるシスターアンナ。
その笑みは少しぎこちなかったが、それでも美しさが男たちを魅了した。
「そうですか・・・でも無理しないで下さいね」
「そうですよ。シスターは俺たちの聖女様なんですから」
口々にいう男たち。
「そんなことありませんわ。この町に住む皆さんが信仰を大事にして神を敬うのを、私はほんのちょっとお手伝いしているに過ぎませんわ」
「シスター。どうか気をつけてください。最近奴らはシスターをどうにかしようと画策しているらしいです」
「えっ?」
やはり・・・
シスターアンナはそう思う。
彼らにとって私は目障りな存在ですものね・・・
でも・・・
私には神様がついていてくださるわ・・・
負けるものですか・・・
「俺も聞いたよ。なんでもアクバー自体がシスターを狙っているって聞いた。気を付けてね」
「わかりました。でも、全ては神様の思し召しですわ。皆さんに神のご加護がありますように」
シスターアンナは両手を胸の前で組み合わせ祈りを捧げた。
「ドグマよ、人間どもへの嫌がらせは続いているのか?」
玉座のアクバーがにやりと笑う。
「もちろんです、アクバー様。お言いつけどおりにシスターアンナには手を出してはおりませんが」
ドグマが恭しく頭を下げる。
『魔物のたましい』が届いて数日。
行動を起こそうとしないアクバーにドグマは奇妙なものを感じてはいた。
いつものアクバーであれば欲しいものはすぐに手に入れる。
それが今回に限っては時間をわざと掛けているように思えるのだ。
「ぐふふ・・・ますます人間どもはシスターアンナを頼りにし、シスターアンナは彼らを優しく包み込む・・・か」
「よろしいのですか? 彼女を魔族にするには厄介になりませぬか?」
「心配はいらんドグマよ。『魔物のたましい』には餌が必要なのだ。優しさや愛といった下らぬ感情という餌がな」
ドグマは首をかしげた。
餌?
アイテムに餌が必要とはどういうことだ?
だが、その疑問の答えはまだ得られそうになかった。
「シスターアンナ。アクバー様がお呼びです。すぐに来なさい」
牢獄の町の教会に牢獄兵が三体やってくる。
いつもどおりのお勤めをしていたシスターアンナは静かにうなずくと祈りを捧げて立ち上がった。
「シ、シスターアンナ」
「シスターアンナ」
シスターアンナに憧れて、彼女とともに神に仕えようと申し出てきた少女たちが心配そうに彼女を見る。
「心配は要りません。私の方こそ彼にはお話したいこともありますから」
「シスターアンナ」
「大丈夫。私には神様がそばにいてくださいます。アクバーにもそれはわかるはず。無体なことはしないでしょう」
不安そうにしている少女たちをなだめ、シスターアンナは教会を後にする。
「シ、シスターアンナ!」
「行っちゃだめだ! シスターアンナ!」
「アクバーはあなたを亡き者としようとしているんだ。行っちゃだめだ!」
「シスターアンナ!」
町の人たちが通りにあふれてくる。
みな牢獄兵たちが教会へ入っていったことに不安を感じていたのだ。
「ちきしょう! おい! エリック! 貴様あれほどシスターアンナのことを好きだったんじゃないのか!」
「お願いだよ、メアリー。お母さんの事を思い出しておくれ! シスターを連れて行くのはやめなさい」
何とか牢獄兵たちの前に立ちふさがり、シスターアンナを連れて行くのを阻止しようとする町の人たち。
だが、魂を抜かれてしまい牢獄兵に生まれ変わってしまった友人や家族がシスターアンナを連れて行く。
その光景は町の人々に絶望を感じさせるのに充分すぎるほどだ。
「どきなさい。お前のことなど知らない。私はアクバー様に仕える牢獄兵。命令によりシスターアンナを連れて行く」
ランスでかつての母親を小突きながらシスターアンナを連れて行く牢獄兵。
「皆さん、私は大丈夫ですから。どうか無茶なことはしないで下さい」
「シスターアンナ!」
「シスターアンナ!」
目に涙を浮かべて町の人々はシスターを見送る。
だが、誰も彼女を救おうとする者はいない。
いや、出来ないのだ。
アクバーによって魔物の恐ろしさをいやというほど見せ付けられてきた町の人々は、シスターを救いたくても救うために立ち上がることなど出来なかったのだ。
「今に神様がお遣わしになる勇者様がきっと来ます。それまで耐えてください。皆さん」
「黙って歩け!」
両側から囲まれるようにシスターアンナは連れて行かれる。
それでも彼女は笑みを絶やさずに胸を張って歩いていた。
目指すはアクバーの居館。
私はどうなっても構いません・・・
どうか・・・
神様、どうか町の人々をお救い下さいませ・・・
シスターアンナは胸のクルスを握り締めた。
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- 2006/05/17(水) 21:18:16|
- デビルアンナ
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えーと・・・
昨日ブログを書いていて、ついついSSを書きたくなってしまいました。
シスターアンナ悪堕ちSSです。
短編で、シチュ優先で、世界観などはドラクエⅥを知らないとわかりづらいと思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
残念ながら今日一日では書ききれなかったので、明日以降まで引っ張っちゃいますが、お許しを。
1、
「ゲゲゲ・・・まだまだ寝るには早いぜ」
キラーバットの三つ又の槍先がつんつんとうずくまった男をつつく。
「まったくだ。俺たちから逃げようったってそうは行かないさ」
タイガークローのいやらしい笑い声が響く。
「た・・・助けて・・・」
うずくまった男は恐怖に震えてなす術を持たない。
人間はただモンスターのなすがままだったのだ。
ここは牢獄の町。
アクバーと呼ばれる魔物の実力者が支配する町。
あちこちの町や村から魔物に反抗的な人間たちやさらわれてきた人間たちが押し込められている。
ここではアクバーが法であり、魔物たちが好きなように人間たちをいたぶって楽しむことができるのだ。
殺すもよし、ただいたぶってひいひい言わせるもよし。
人間たちはただ生きることだけを考え、プライドも何もかも捨てて絶望の中にその日を生きているのだった。
「やめてください!」
少し高いが凛とした清涼な声が響く。
「ヌウ、誰だ?」
キラーバットとタイガークローが驚いたように声の主を探す。
ほとんどの人間たちが建物の陰から恐る恐る覗いているのに対して、その声の主は通りに立って彼らに声をかけてきたのだった。
その声の主は美しく若い女性だった。
胸の前で両手を組み合わせ、その胸にはクルスが下げられている。
紺色の尼僧服に白いヴェールを被った教会の尼僧。
この町の寂れた教会に奉仕するシスターアンナと呼ばれる女性だった。
「その者はもう怪我をしています。やめてください」
おずおずと、しかしはっきりとシスターアンナは魔物たちに向かって訴える。
「なにぃ!」
タイガークローの一喝に思わず首をすくめてしまうシスターアンナ。
しかし、彼女は逃げ出さない。
この町の普通の人間ならば魔物の一喝は耐えられない。
すぐに腰を抜かすか逃げ出してしまうだろう。
しかし、彼女は必死に歯を食いしばって胸の前で両手を組んで耐えている。
その姿はいかにも気高かった。
「お願いです。もうやめてください。その者はただあなた方が恐ろしかっただけなのですから」
かすかに声が震えているかもしれない。
しかしシスターアンナの声は周囲に響いていた。
「おうよ。俺たちはアクバー様配下のモンスターだ。恐ろしくて当然」
「だがな、運んできた酒を取り落とすというのはいただけないんじゃないか? え?」
キラーバットが槍の石突で男の脇腹を殴る。
「ガハッ!」
男は激痛に躰をよじって苦しんだ。
「あ、やめて!」
思わずアンナは飛び出していた。
彼女とて恐怖を感じていないわけではない。
相手は何しろ魔物なのだ。
人間など虫けら以下にしか思っていないだろう。
そんな連中の前に飛び出すなんて自殺行為だ。
だが、彼女は自然に躰が動いていた。
神様と大賢者マサールの教えにその身をささげたシスターアンナは虐げられている人を見過ごすことは出来なかったのだ。
「やめてください!」
そう言ってシスターアンナは男の躰をかばうように上に被さる。
「シ、シスターアンナ・・・」
男が驚く。
まさかここまでしてもらえるなんて思わなかったのだ。
ここは牢獄の町。
魔物に逆らっては生きてはいけない町なのだから。
「こ、このアマ!」
キラーバットが槍を振りかざす。
「待て!」
通りの奥の建物から野太い声がする。
「?」
キラーバットもタイガークローも思わず顔を上げた。
そこには建物の入り口に立っている一体の魔物がいた。
全身を輝く金属質の鎧で覆い、躰の左右でその色が金と銀に分かれている。
右手には大きな長柄の刀らしきものを持ち、左手には楕円形で髑髏の浮き彫りがされたシールドを持っていた。
この町の支配者アクバーの片腕と呼ばれる強力なモンスターゾゾゲルである。
「ゾ、ゾゾゲル様」
「ゾゾゲル様」
思わずキラーバットもタイガークローも一歩あとずさる。
それほどこのゾゾゲルという魔物は高い実力を備えているのだ。
「その女に手出しはするな」
ゾゾゲルが無造作に言い放つ。
「?」
その言葉にシスターアンナは驚いた。
なぜ?
なぜ私を助けてくれるの?
思わず顔を上げてゾゾゲルのほうを見上げるシスターアンナ。
だが、ゾゾゲルのフルフェイスヘルムの奥に光る目はまったくの感情を感じさせはしない。
「な、なぜですか、ゾゾゲル様? こいつは神などを信じ、この町の人間どもに希望とやらを与えているんですぜ」
タイガークローが納得行かないというようにゾゾゲルに言う。
「お前たちの知るところではない。全てはアクバー様よりの指示」
「ア、アクバー様の?」
キラーバットもタイガークローも顔を見合わせるしか出来ない。
一体この神とやらに仕える女に何があるというのだ?
「わかったら立ち去れ」
先ほどからまったく声の調子が変わらない。
それが帰ってこのゾゾゲルという魔物の力の強大さを感じさせている。
「チッ、行くぞ、キラーバット」
「ああ、命拾いしたな。お前たち」
そう言って二体の魔物は彼らの寝床へ帰って行く。
それを見てゾゾゲルも建物の方へ振り向いた。
「あ、あの・・・」
背後からの声にゾゾゲルは立ち止まる。
「ありがとうございました。助かりました」
服の汚れを落として立ち上がったシスターアンナが頭を下げる。
「ふん。勘違いするな。我はただアクバー様の命に従ったに過ぎん」
「そ、それでも・・・ありがとうございました」
「ふん」
頭を下げているシスターアンナに対しゾゾゲルは背を向ける。
人間を、しかも神とやらに仕えている人間を捨て置いているアクバー様の考えは彼にもわからなかったのだ。
「シスターアンナ・・・ありがとうございます」
うずくまっていた男が立ち上がる。
あちこち痛めつけられてぼろぼろだ。
「動かないで下さい。今怪我を治しますから」
そう言ってシスターアンナはホイミを唱える。
彼女の手のひらが当てられたところが温かくなって傷がみるみるふさがって行く。
「すごい・・・」
話には聞いていたが、治癒魔法というのはすごいものだ。
これなら死者でさえ生き返らせるザオリクと言う呪文もあながちほら話ではないのかもしれない。
「神のご加護がありますように・・・これで大丈夫ですわ」
こぼれるような笑顔を向けるシスターアンナ。
その瞬間町の人たちが通りに駆け寄ってくる。
「「シスターアンナ」」
「「シスターアンナ」」
口々に彼女の名前を呼んで跪く町の人々。
彼らにとっては絶望に打ちひしがれた現実を少しでもやわらげてくれる聖女様だったのである。
「皆様、私たちには神様がおそばについてくださっています。くじけてはなりません」
シスターアンナが静かに言う。
「いずれ魔物たちは駆逐されるでしょう。いつの日にか神に使わされた勇者がこの地の魔物たちを追い払ってくださるはずです。その日まで力を合わせて生き延びましょう」
「「おおーっ!」」
人々の大きな声がこだました。
窓の外から人間たちの歓声が聞こえてくる。
「まったく・・・忌々しいことでございますな、アクバー様」
豪華な王者の間ともいうべき広間の奥に、玉座のように設えられた椅子に座る主アクバーを見やる魔術師ドグマ。
もちろん人間の魔術師ではなく、彼自身も魔物である。
幾人もの人間の血を吸った魔導師のローブをまとい、杖とも鎌ともいうべき武器を携えている。
ゾゾゲルと並び称されるアクバーの両腕ともいうべき魔術師モンスターだ。
「今のうちだけだ。せいぜい人間どもには夢を見させてやるがいい。いずれその夢は悪夢に変わるのだからな」
玉座に座っているのはこの牢獄の町の支配者アクバー。
強靭な巨大な肉体に蝙蝠型の羽を背中に広げている。
顔つきはブルドックのような顔つきだが、口から飛び出している牙は無言で彼の強さを誇示していた。
「ご命令さえいただければ、このドグマめがあのような女すぐに血祭りに上げますものを」
ドグマにもアクバーがあの女を生かしておく理由がわからない。
あの女のおかげで人間どもは多少生きる希望を持ち始め、我ら魔物に反攻する者も出てきている始末。
「手を出してはならん。それは今一度徹底しておけ。シスターアンナを傷つけたりした者には我が怒りが向けられると知るがいい」
アクバーはドグマをにらみつける。
人間どもを恐怖と絶望のどん底に突き落とし、可愛い愛すべき存在を我が手にできるこの一石二鳥の計画。
誰にも邪魔はさせん。
アクバーの目が欲望にゆがんだ。
「アクバー様」
一人の牢獄兵が入ってくる。
こいつらはこの牢獄の町を管理するために生み出された下層のモンスターで、町に住んでいたり他の町からさらってきた人間の魂を抜いて暗黒の気を入れることによって作られる。
魂を抜かれて抜け殻になった人間に暗黒の気を入れて鎧を着せれば牢獄兵としてよみがえるのだ。
男だろうと女だろうと関係はない。
魂を抜かれてしまえばそいつはただの抜け殻だ。
牢獄兵になってしまえば以前の記憶などない。
多少元が男だったか女だったかで力や耐久性に差が出るが、所詮使い捨ての下級モンスター。
死のうが生きようがどうということは無い。
「何事か?」
アクバーは入ってきた牢獄兵を見やる。
胸が鎧を押し上げた若い女の牢獄兵だ。
そういえば先日作った女の牢獄兵だったか・・・
新婚だったはずだが、牢獄兵となって自らの手で夫をいたぶっていたはずだ。
暗い喜びにアクバーはほくそえむ。
「大魔王デスタムーア様よりの使いの者が参っております」
「来たか!」
アクバーは立ち上がる。
待ちに待ったモノがついに来たのだ。
「お前が大魔王様よりの使者か?」
広間に通されてきたのは緑色のぷよぷよしたスライムに器用にまたがっている戦士、いわゆるスライムナイトだった。
「ハハッ、大魔王デスタムーア様よりの書状とアイテムをお持ちいたしました」
スライムナイトがかしこまって箱を差し出す。
「おお、待っておったぞ」
アクバーはすぐに受け取り、手を振って使者を追い出す。
スライムナイトはすぐに退出して行き、アクバーは玉座に座って箱を開けた。
「一体大魔王様より何が?」
ドグマも気になるようだ。
「・・・・・・」
一心不乱に書状を読むアクバー。
やがて書状を握り締めると不適に笑みを浮かべた。
「大魔王デスタムーア様のご許可が下ったぞ。これでシスターアンナは・・・クックック」
「あの不遜な女がどうされたのです?」
「ドグマよ。お前にはあのシスターアンナの美しさがわからないようだな」
アクバーが箱の中から黒い真珠ほどの球体を取り出す。
「そ、それは確かにあのシスターは人間にしては類稀なる美しさ。しかし、所詮は人間。魔物の妖艶さにはかないますまい」
「確かにそうだ。だが、あの女に魔物の妖艶さを加えたら・・・いい女モンスターになるとは思わんか?」
「そ、そんなことが?」
ドグマは驚いた。
人間の女を女モンスターにするというのか?
「これを見よ」
真っ黒な小さな球体をドグマに見せ付けるアクバー。
ブルドックのような大きな口がニターと笑っている。
「それは?」
「大魔王デスタムーア様お手製の『魔物のたましい』よ」
「『魔物のたましい』?」
首をかしげるドグマ。
魔物の中でも知力を誇る彼にもそのようなアイテムに覚えはない。
「そうだ。これをあのシスターアンナに植え付ける」
「あのシスターに?」
「そうだ。この『魔物のたましい』を植え付けられた人間は徐々にその心が邪悪で高貴な魔物の心へと変わり、やがてその身も我ら高貴な魔物のものへと変わって行くのだ」
アクバーは得意げに話す。
「おお! なんと、あの女が我ら魔物の仲間入りをするというのですか?」
「そうだ。きっと美しく邪悪な魔物に生まれ変わるぞ。我が妻に相応しくな」
アクバーは喜びを隠し切れなかった。
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- 2006/05/16(火) 22:15:07|
- デビルアンナ
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