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2010-08-26

[]古森義久氏の自爆芸

どうせ都合のいいところだけつまみ食いしているに決まっているので、ジェニファー・リンド氏の論文にあたってみました。

http://www.dartmouth.edu/~jlind/publications.htm

こちら↑で Jennifer Lind, "The Perils of Apology: What Japan Shouldn't Learn from Germany", Foreign Affairs, Vol. 88, No. 3 (May/June 2009) のPDFファイルを閲覧することができます。また、ほぼ同じ主旨のコラムが朝日新聞グローブですでに紹介されています。

一読して明らかなように、リンド氏が日本政府による謝罪を不毛 counterproductive としている理由は、決して「今の日本国民がなぜ日韓併合の責任を問われるのだろう」だとか「日本の朝鮮半島の領有は、当時の国際的な条約や規範に沿って実行されたもの」などといったものではありません。論文中では著者は朝鮮半島及び満洲の植民地化、南京大虐殺、従軍「慰安婦」制度、三光作戦、731部隊、戦時徴用などの歴史に言及しています。

また、リンド氏は「アデナウアーモデル」をそれ自体として好ましいものと考えているわけではありません("To be sure, the latter German model has much to recommend it.")。日本においては、60年代後半以降に(西)ドイツが行なってきたような取組みがバックラッシュを引き起こすという理由で、「より安全な」方法として薦められているに過ぎないのです。著者はそうしたバックラッシュが「否定論産業 denial industry」(歴史家 Alexis Dudden のことば)を生み出しているとしていますが、さしずめ古森氏はそこから利益を得ている代表的なメディア人の一人だ、と言えるでしょう。


古森氏がスルーしているリンド氏の主張のキモは次の部分です。アデナウアーモデルは過去に直面するやり方としては中途半端なものに過ぎませんが、同時に当時のドイツの主だった指導者たちが決してドイツの蛮行やドイツによる侵略を擁護したり否認したりはしなかった、とも指摘しています("During Adenauer’s tenure, no prominent West German leader defended or denied German atrocities or aggression.")。したがって、日本が「アデナウアーモデル」を採用する場合には、次のようなことが必要である、とリンド氏は言っています(強調はいずれも引用者)。

If it wants to repair its relations with its neighbors, Japan should draw on the Adenauer model and acknowledge its past violence while focusing on the future. Meanwhile, Japanese leaders should abstain, as they have recently, from visiting the controversial Yasukuni Shrine. As many Japanese moderates have already proposed, veterans could be hon- ored at a new, secular memorial, or national ceremonies could be held at the Chidorigafuchi National Cemetery, Japan’s tomb of the unknown soldier, which then Prime Minister Yasuo Fukuda visited last year.

If some prominent Japanese leaders do deny or glorify past violence, their party’s leadership should respond with dismissals or other reprimands. Tokyo must establish and defend its own boundaries for what is an acceptable discussion about the past. It must make impermissible what the human rights scholar Michael Ignatiea has called “permissible lies”―such as the lies about Japan’s atrocities that for the past 60 years have hamstrung its foreign relations. If Japan’s leaders and its people continue to tolerate such lies, the world will conclude that the country has not renounced the methods of its imperial era― invasions, massacres, mass rape, and colonization―as tools of statecraft in the twenty-first century.

政治指導者による靖国参拝は控え、非宗教的な戦没者慰霊に切り替えること。過去の暴力を否認したり賛美したりする政治家は厳しく非難されねばならないこと。日本の過去にまつわる議論について「これ以上は容認できない」という境界線を設けること。日本軍の戦争犯罪に関する嘘を政治家や市民が許容しないこと。

つまり先の菅談話に疑義を呈した国会議員、特に与党議員がきちんと批判されねばならず(場合によっては除名や辞職勧告まで選択肢に含めて)、閣僚の靖国参拝を見送った菅内閣の方針は最低限のものとして今後も踏襲されねばならず、南京事件否定論者の国会議員などを国民は許してはならないし、品位あるメディアと自負する媒体には植民地支配肯定論や南京事件否定論者、従軍「慰安婦」制度についての「商行為」論、三光作戦否定論などを登場させない、といったことも必要になるでしょう。古森氏が『WiLL』に寄稿するくらいのことはリンド氏も大目にみてくれると思いますが。「植民地支配は合法的だった」だの「南京事件なんてなかった」だのと言い張る国会議員を放置しておきながら「いつまで謝れ、ちゅうねん」とふんぞり返る……なんて態度にお墨付きを与えてくれてるわけじゃないんですな、リンド氏は。

この提案はいうまでもなく日本の左派に大きな妥協を要求するものですが、その実現の可能性を左右する最大の要因はむしろ、果たして日本の保守派及び中道がリンド氏の期待に答えることができるかどうか? でしょう。最近の経験に照らせば非常に疑問ですが。

skywave1493skywave1493 2010/08/26 22:02 >政治指導者による靖国参拝は控え、非宗教的な戦没者慰霊に切り替えること。過去の暴力を否認したり賛美したりする政治家は厳しく非難されねばならないこと。日本の過去にまつわる議論について「これ以上は容認できない」という境界線を設けること。日本軍の戦争犯罪に関する嘘を政治家や市民が許容しないこと。

現下の状況から考えると、これらの条件が確実に守られ市民がそれを許容しない社会になる事が出来れば、左派としても妥協のし甲斐があるというものです。しかし上記の条件を見るといかに日本の右派とか自称中道さんがぬくぬくとした環境にいるのかが良く解りますね。上のような事を言うと表現の自由が云々とか言われちゃいますし。

ApemanApeman 2010/08/27 00:41 >現下の状況から考えると、これらの条件が確実に守られ市民がそれを許容しない社会になる事が出来れば、左派としても妥協のし甲斐があるというものです。

なにしろドイツはホロコースト否定論やナチス賛美を違法化しているわけですからね。

>上のような事を言うと表現の自由が云々とか言われちゃいますし。

私が主張しているわけではなく、(古森氏によれば)「謝罪外交は不毛」と言ってるアメリカの研究者が主張していることなんですけどね。裏を返せば、南京事件否定論者を野放しにしている日本社会を無条件に肯定してくれる欧米の知識人なんているの? ということですね。

jazirat_sinajazirat_sina 2010/08/27 23:29 はじまして。いつも勉強させて頂いております。
修正主義者のパターンなど見慣れたもので、どいつもこいつも行動がマニュアル化されており失笑そのものです。自爆芸もホロコースト否定論者の屑どももたまにやっちまっている見慣れたお家芸にすぎませんし。「進化」という概念がないのでしょうか?(ないから有難いんですけど)

>日本軍の戦争犯罪に関する嘘を政治家や市民が許容しないこと。

さすがに日本でも許容するバカはいないと思いますが、
どうしようもない無知無関心が国全体を覆っていますのでかなり難しいと思います…。
(本当は記事を紹介したコモリンがまず率先して「仲間」を説得する必要があるんでしょうが)

ApemanApeman 2010/08/28 11:38 jazirat_sina さん、初めまして。

>さすがに日本でも許容するバカはいないと思いますが、
>どうしようもない無知無関心が国全体を覆っていますのでかなり難しいと思います…。

「許容しない」というのは単に「その嘘に同意しない」というだけのことではなく、各人ができる範囲でその嘘と戦うことでしょう。南京事件否定論者には投票しない、否定論を載せる雑誌は買わない、ってことであってもいいわけですが。「無関心」は「許容」と同じことだと思います。

>(本当は記事を紹介したコモリンがまず率先して「仲間」を説得する必要があるんでしょうが)

いやほんと、そうですよね(笑) リンド氏の主張をよりよく理解してもらうため、朝日新聞グローブのコラムにリンクはってもらいたいです。

マダムCHUUマダムCHUU 2010/08/29 21:27
一体何故にリンド某なるアメリカという戦勝国のおっさん(いやジェニファーだからネエちゃんかオバはんかしら)の論文なんかに惑わされなくちゃならないのかしら。
おまけに何、この女、Assistant Professor of Government | Dartmouth Collegeとなってるじゃないの。
旧敵国の番犬?。てめえの国の罪悪を誤魔化そうって宣伝ガール?。
何を高みから偉そうに。

日本人の皆さんみっともなくってよ。我田引水は。
こんな論文、じゃない、プロパガンダ文には、ぺっと唾吐き掛ければいいのよ。
「この偽善者め」と。

ApemanApeman 2010/08/29 22:29 はいはい、文句はこもりんに言ってね。「我田引水」の意味もわからないニセ日本人乙w

skywave1493skywave1493 2010/08/29 23:55 >こんな論文、じゃない、プロパガンダ文には、ぺっと唾吐き掛ければいいのよ。

という事は、まさに「てめえの国の罪悪を誤魔化そうって宣伝」臭がぷんぷんの勝手なコモリンのプロパガンダ記事には、ぺっと唾吐き掛ければいいという事になりますね。

ApemanApeman 2010/08/30 08:50 skywave1493さん

あとこいつ、たぶん「Assistant Professor of Government」を「(合衆国)政府の……」だと思ってるんでしょうねぇ。

上野 良樹上野 良樹 2011/01/20 17:11 検索したら、古森氏は2009年の段階で反応していました。

【緯度経度】ワシントン・古森義久 日本謝罪不要論の余波 (1/2ページ)2009.9.19 08:09
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1232410/

ここではバックラッシュに触れた箇所は「謝罪は日本の国内でナショナリストの反発を招き、
国民の分裂をもたらす」、そして日本が「アデナウアーモデル」を採用するためには
「南京事件や捕虜の扱い、慰安婦徴募、731部隊、三光作戦など日本が戦時に働いたとされる
悪行の数々の「事実」を糾弾する側の主張どおりに全面的に受け入れる一方、歴史問題での和解には
日本の謝罪や反省のほかに被害者側の前向きの対応が不可欠だと説く。」と要約しており、
一応リンド論文の全容が分かるようになっています。

もちろん、鉤括弧付きで「事実」と表記したことでも明らかなように、南京大虐殺も
その他諸々の戦争犯罪も嘘(又は正当な行為)と思う古森氏にとって、
不満いっぱいの内容であることは明らかです。ただ、その上で
「日本にもう謝罪をするなと勧める点は米国の学者としては異色だといえる」
と評価するのは、一応論旨は通った内容でした。

しかし、この古森氏の記事は、リンド氏はもちろんのこと、氏の主張を記事にした古森氏まで
「日本の国内でナショナリストの反発を招」いたため、古森氏は上記Blogで
「私もリンド氏の意見の前提となる「事実認識」に強い違和感を覚えました。」と釈明しています。
Blogコメント欄では、読者が朝日新聞グローブのコラムをとりあげて「無知な子供の火遊び」と非難していました。

ダイヤモンド社で書いた記事では、そういう支持者におもねって、「米国の学者が謝罪不要論を唱えた」
ことのみを強調した結果、不正確な記事になってしまったのではないでしょうか。
ダイヤモンド社記事ではもう一人、ジェーン・ヤマザキ氏を謝罪有害論者として取り上げているのですが、
ヤマザキ氏も日本の犯した戦争犯罪が嘘とは思っていないようです。

古森氏やその支持者は、「日本は何も悪いことをしていないのに、不当にも謝罪させられている」
という認識ですから、古森氏がリンド氏やヤマザキ氏の主張を素直に紹介しても、
かえって古森氏が反発を受けてしまう。何故なら、彼女らは謝罪不要論者ではあっても、戦争犯罪否定論者ではないから。
否定論産業と、その支持者の関係を見ますと、なぜしなくてもいい自爆をする羽目になったのか、考えさせられます。

ついでに。古森氏は2009年の記事は
「中央政府が戦争の相手でもない一民族の絶滅を計画的に進めるなどという行為のない日本を
(引用者注:リンド氏が)ドイツと同列におくことは不公正ではあるが」と書いていましたが、
「戦争の相手である一民族の絶滅を計画的に進め」るなら構わないとも読めます。
本人はそんなつもりではないと言うでしょうが、古森氏の戦争犯罪観が窺える叙述だと思いました。

ApemanApeman 2011/01/20 20:52 上野 良樹さん

ご紹介の記事は承知しておりませんでした。ありがとうございます。

>否定論産業と、その支持者の関係を見ますと、なぜしなくてもいい自爆をする羽目になったのか、考えさせられます。

まったくですね。

>本人はそんなつもりではないと言うでしょうが、古森氏の戦争犯罪観が窺える叙述だと思いました。

付け加えるなら、日本が他ならぬそのドイツと軍事同盟を結んでいたことも失念しているとしか思えない主張ですね。

日本日本 2013/01/21 11:52 >>論文中では著者は朝鮮半島及び満洲の植民地化、南京大虐殺、従軍「慰安婦」制度、三光作戦、731部隊、戦時徴用などの歴史に言及しています。

それはこの筆者ジェニファー・リンド氏が勉強不足なだけだと思うが?

ジェーン・ヤマザキ氏もそうだが、世界に喧伝されている虐殺などの日本の戦争犯罪なるものが実は存在しなかったと知れば、なぜ日本は謝罪するのだろうという疑問がますます強くなるだけだろう。

いまだに「三光作戦」とか恥ずかしいね・・・
あげてる例は全部嘘じゃん。

ApemanApeman 2013/01/21 14:27 相手をしてほしければ、もうちょっと芸のあるところをみせてみな。

鬼澤天馬鬼澤天馬 2013/05/04 18:33 日韓併合の以前は韓国には便所さえ無く況や中国の民衆は満州国の発展をみて続々と満州に押し寄せて来た事や資金の投下をした事等が何故認められて居ないのでしょう?
又、大東亜戦争以前は亜細亜諸国の殆どの国は、欧米列強の植民地で有った事等を何故書かないのでしょう?
南京虐殺は捏造で有った事。
又、援蒋ルートや米国の義勇軍として既に米軍は参戦していた事を何故書かないのでしょう。
又、日本の真珠湾攻撃を知って居ながら戦意を煽る為にしたルーズベルト大統領行為を何故批難しないのでしょう?
それらの全てが明らかに成れば日本は自衛の為の戦争だった事が明らかに成るでしょう。

つうこうにんつうこうにん 2013/05/04 19:28 >日本は自衛の為の戦争だった事
国語表現すら満足に出来ない国士サマの御通りだ!

ところで、ハンドルでググってみたんだけど、ナニこの人(藁

ApemanApeman 2013/05/04 19:39 つうこうにんさん

ジェニファー・リンド氏なら今日アップしたエントリでとりあげてるのに、なんで3年前のエントリにコメントするのかも謎ですね。

uchya_xuchya_x 2013/05/04 20:21 さすがにここまで毒電波満載だと、ネタじゃないかと疑ってしまう。

ApemanApeman 2013/05/04 20:57 uchya_x さん

そうなんですが、良識に基づくそういう懐疑など軽く吹っ飛ばしてくれるのがこの国の国士様たちですからね。

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