マニアック水族館探訪記 あくありうむぎゃらりー
vol. 8 島根県立しまね海洋館アクアス“幸せのバブルリング®”をつくる−シロイルカ
1999年、3頭のシロイルカたちが、ロシア・ウラジオストクからやって来た。島根県に新しくオープンする県立しまね海洋館アクアスの主役を飾るためだ。
3頭の名前は、ケーリャ(雄)と、アーリャとナスチャ(ともに雌)。アクアスは2000年4月、浜田市と江津市にまたがる位置にオープンした。その5年後に始めた「幸せのバブルリング®」というシロイルカのパフォーマンスは、噂が噂を呼び、大評判となった。2007年には、ついにCMに出演。白い犬のお父さんでおなじみの携帯電話会社のCMに島根のおじさま役としてアクアスのシロイルカが登場、突然、口をすぼめてボッと泡のリングをつくる様は大反響を呼んだ。
そもそもこのバブルリングは、イルカたちが勝手にやっていた遊びのなかから発見されたものだ。好奇心旺盛なイルカたちは、私たちトレーナーと遊んだり、遊具のボールや輪っかで遊ぶのが大好き。その遊び好きの彼らにとって、遊び相手と道具のない時間帯がある。閉館から翌朝のトレーニングまでは、万が一の事故を考慮して遊具をプールから取り出しているのだ。このひっそりとした時間帯にシロイルカたちは新しい遊びを考え出した。2005年の春ごろから、閉館後や開館前などにイルカたちがバブルリングを追いかけて泳いだり、体にぶつけて遊んだりする様子が頻繁に見られるようになった。
不思議なバブルリング。初めて見たとき、リングの美しさに見とれた。何とかして、このリングをたくさんのお客さんに見てほしい。そう、感じた。
2005年夏より、アーリャとトレーニングを始める。まずはリングのもととなる空気を口にためるというトレーニングだ。遊びのとき、イルカたちは「噴気孔」と呼ばれる、ヒトの鼻の穴にあたる部分から空気をいったん出し、それを口に含んで、泡を噴き出すという段階を踏んで行われる。しかし、トレーニングではトレーナーがくわえているダイビング用のレギュレーターから空気を出して、アーリャの口に入れてみることにした。すると、アーリャは口に突然空気を入れられたことに驚き、最初はトレーナーから遠く離れて泳ぎ回っていた。それでも、回数を繰り返すうちにだんだん慣れていき、落ち着いて口のなかに空気をためられるようになった。
次はためた空気を一気に噴き出すトレーニングだ。最初は空気のかたまりがボフっと噴き出されるだけだったが、そのなかにもなんとなくリング状になるものが現れた。この「なんとなくリング」をすかさず褒めることで、泡がリング状になる率を高めていった。
トレーニングを始めてから半年後の2005年12月、ついにアーリャが美しいバブルリングをパフォーマンスとして披露できるようになった。このバブルリングのトレーニングは、2006年11月、国際海洋動物トレーナー協会(IMATA)の会議で日本人初の受賞を果たした。2006年秋にはケーリャとナスチャのトレーニングも本格的にスタート。2007年夏、ついに3頭同時にバブルリングをつくるというパフォーマンスの成功に至った。
イルカたちとパフォーマンスをしていると、お客さんたちのびっくりした顔が飛び込んでくる。お客さんがとびきり喜んでいるのを、シロイルカたちが知っているのかどうか、それは分からない。たぶん遊び好きで好奇心旺盛な彼らのこと、トレーニングも、パフォーマンスも、私たちトレーナーとの遊び時間として楽しんでいるにちがいない。
〒697-0004島根県浜田市久代町1117番地2
0855-28-3900
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