【中塚久美子】子どもの目からみた貧困と孤立した暮らしを描いた物語が、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開されている。日本では、40人学級なら6人の子が貧困家庭で育っている計算になる。
■中学生5人がモデル
公開されているのは「貧困を背負って生きる子どもたち 仁(じん)の物語」。ひとり親の生活保護家庭の子どもとサポートする大学生らの姿を、短文と写真と音楽で伝える。前後編それぞれ約5分半。
中学3年生の仁は母と弟の3人暮らし。母親が心の病を患って仕事も家事もできなくなり、仁が弟の世話と家事を担う。仁のひとり語りが短文で次々と画面に表れる。
《学校に行ってないんやない。学校に行っている場合じゃないんや》
孤立する仁。高校に行かず働くつもりだったが、大学生が無料で教えてくれる勉強会に誘われる。不登校を経験した青年と出会って心を開き、自らの道を選び取っていく。
物語をつくったのは、NPO法人「山科醍醐こどものひろば」(京都市)。家庭の事情で夜をひとりで過ごす子どもが安心して過ごせる居場所を、2010年に設けた。大学生らが勉強を教え、一緒に夕食をとり、自宅へ送る。
これまで利用した中3生は12人。その中の5人のエピソードをつなぎ合わせ、「仁」の人物像をつくりだした。
■子どもの視点で
そのひとり、今春中学を卒業した少年(15)は小学2年の時から、渡されたお金を持って妹とファミリーレストランに行く。家では得意の卵焼きをつくり食べる。家族で食卓を囲むことはない。「楽しくないご飯はおいしくない。ひろばは楽しかった」。中学にはほとんど行かなかった少年が週1回、素直にひろばに来る理由はそこにあった。
別の少年(15)はずっと不登校がちだった。「ここは家みたいで居心地よかった」。中卒で働くつもりだったが、4月から通信制高校に通う。「勉強がおもしろいと思ったのは初めて」と筆算の繰り上がりからやり直している。
脚本は同法人の理事長でスクールソーシャルワーカーの幸重忠孝さん(39)が書いた。物語の8割は実際のことだ。子どもが口にしなくてもこう感じているだろうということを加えて演出した。「学校や家に居場所がない子たちへの支援の輪を広げようとしても、『親が悪い』『甘えている』と一蹴される。そこを乗り越えるため、子どもの視点に立ったものにした」
生活保護費は削減の方向だ。中でも子育て世帯の引き下げが大きい。日本の子どもの貧困率は15・7%(厚生労働省)で、主な先進国の中で悪い水準だ。改善を求めて3月末、ひとり親家庭の若者たちが「子どもの貧困対策法」制定を国会議員らに訴えた。自民や民主は法案を練っている。
幸重さんは「普段こうした問題に触れない人に、親も子も精いっぱい生きていることを伝えたい」と話す。
仁は最後につぶやく。
《もしあの時あそこへ行ってなかったら今、自分はどうなっていたのだろう?》
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〈子どもの貧困率〉 貧困ラインを下回る世帯に属する17歳以下の子どもの割合。貧困ラインは、経済協力開発機構(OECD)の作成した基準を用い、厚生労働省が国民生活基礎調査をもとに算出している。各世帯の年間収入から税金や社会保険料などを引いた「実際に使える金額」が2009年の場合、4人世帯で250万円、3人で217万円、2人で177万円。
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■使える制度、探せるサイト
市民団体「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワークは3月、「子どもの貧困」サポート情報提供ホームページhttp://joho.end-childpoverty.jp/を開設した。貧困・低所得の子どもや子育て家庭が利用できる国や自治体の制度がわかるサイトだ。
制度は多岐にわたるため、役所の担当部署が別々だったり、存在そのものが知られていなかったりする。ホームページでは医療・保健・学校などのテーマ別や、乳幼児・小中学生期・大学就職など時期別に制度を探せるようにした。キーワードから検索も可能。当事者が疑問に感じるような点をQ&A方式で説明している。共同代表の湯沢直美・立教大教授は「つかみにくい情報を載せていくことで、制度を広めていきたい」と話す。
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朝日新聞社会部