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【サッカー】

20戦無敗「大宮ラボ」戦術論 ベルデニック監督に聞く

2013年5月6日 紙面から

今月1日、1日早い誕生祝いにVサインのベルデニック監督=さいたま市内で(占部哲也撮影)

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 今季のJリーグで大宮がビッグサプライズを起こした。J1残留争いの常連だったクラブが、昨季から続く連続無敗記録を「20」まで伸ばし、首位に立った。“オレンジ革命”の引率者は、ズデンコ・ベルデニック監督(64)。教授の資格を持つ知将の過去と現在を聞いた。 (占部哲也)

 Jリーグ最年長監督は、緻密な戦略と戦術を得意とする。そして、プロフェッサー(教授)の異名は本物だった。

 「(スロベニアの)リュブリャナ大で体育学を学び、3部のソボーダでもプレーした。卒業後は地元で2部のクラブに所属していたが、ブランメル仙台元監督のエルスナー氏が母校の教授で、私に助手にならないかと誘ってくれた。うれしく、もう一度、大学に戻ってサッカーの研究をした。同時に3部のスロバンでプレーをし、選手兼監督と務め、28歳で引退した」

 現役時代は右ウイング。「スピードと運動量はあった。技術はそこそこ。そこそこね」と言って、笑った。25歳で助手、監督、選手の三足のわらじを履いた。研究と実践を繰り返した3年間だった。

 「大学には、サッカー協会とタイアップしたコーチングスクールもある。インストラクターもやった。浦和のペトロビッチ監督もオリンピア・リュブリャナでプレーしていた時に通っていた。彼の講義を受け持ったことはあるけど、教え子とは書かないでね(笑)。古くからの知り合いで、親友の関係だから」

 30歳で本格的に監督業をスタート。1990年にはケルン体育大留学時に机を並べた祖母井氏(現京都GM)が大体大サッカー部コーチを務めていたこともあり、初来日。夏に大学生を短期指導した。

 「その時に祖母井さんから加茂さん(元日本代表監督)を紹介されて、翌年には加茂さんが監督をする全日空のコーチを引き受けることになった。日本は個人にフォーカスした練習が多いと感じていた。特に攻撃面でね。守備面の練習が少ないと感じていた。そこで、ゾーンプレスを導入した」

 90年前後はサッキ監督が率いたACミランがゾーンプレスを武器に欧州で猛威を振るった。世界的名将の専売特許とされているが、ベルデニック監督も当時実践済みだった。

 「サッキ以前からゾーンプレスのトレーニング方法は欧州で知れ渡っていた。60、70年代にミケルスが指揮したアヤックス、78年に留学したケルン体育大時代に見たドイツの強豪クラブも取り入れていた。私も学び、研究しながらチャレンジした。88年にルダートル・トリゴリエで実践し、旧ユーゴリーグ3部から2部に昇格させた。私にとってゾーンプレスは特別なものではなかった」

 そして、現在も守備の根底は「変わらない」と言う。最終ラインと最前線をコンパクトに保ち、ショートカウンターを仕掛ける。今季はリーグ最少の5失点、3試合連続完封中だ。一方で、柔軟さも持ち合わせている。7節・浦和戦ではゾーンディフェンスを捨て、前線からのオールコートマンツーディフェンスで埼玉ダービーを制した。

 「浦和は簡単にパスをつながせると難しくなる。そして空中戦にも強くない。(GKへのバックパスにプレスをかけなかったのは)彼らは近い選手にパスをつなぐのがスタイル。だから、近いパスコースをすべてふさいだ。(精神的に)迷いに追い込むことはできたかな」

 もう一つ。転機になったのは4節・鹿島戦。Jの4クラブでの経験を持つ指揮官は、日本人の精神を理解し、同点で迎えたハーフタイムに、今季初めて活を入れた。

 「相手をリスペクトし過ぎていた。恐れをなしていた。びびるなということを伝えたかった。欧州ではよく使う方法だが、日本人にとってはデリケートで逆効果になる場合もある。しかし、目を覚まさせる必要があった。監督はその瞬間を嗅ぎ分ける必要がある」

 理論だけではなく、心理戦、駆け引きにも秀でている。20戦連続無敗、首位…。それでも、おごりや浮足立つ空気はチームから感じられない。

 「クラブ全体が落ちるのは早いということを理解している。先のことや順位を見すぎることは、試合に対する集中力の妨げになる。目の前の試合に勝つこと。それが大事なのだ。ただ、得た結果は素晴らしい。選手はもっと自信を持ってプレーしていい。謙虚になりすぎるのはよくない」

 プロフェッサーの「大宮ラボ(実験室)」はまだまだ未完成だ。「魔法はない。日々のトレーニングで少しずつ少しずつ進歩していくしかない。まだまだやるべきことはたくさんあるよ」。J初制覇に向け、64歳の知将は日々、成長の引き出しを開け続ける。

 

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