−−「不夜城」の深い闇−−
歌舞伎町ビル火災(2)

魔都を支配する“ボス”たち

 「歌舞伎町火事の件で、電話したんだけど、面白い話を耳にした。会えれば詳しく話ができるけど…」

 44人の死者を出したあの惨事以来、様々な事情通から本紙にこんな内容のタレコミ電話がかかってくる。他の事件と比べて、その数は多く、そこからも歌舞伎町という街の特殊事情が浮かび上がるのだ。

 今夏、刑務所から出所したばかりという30代男性は、「現場ビルのオーナーと組の者が、だいぶ前から金の話でトラブっていた」と囁いた。

 また、暴力団傘下の有力一家幹部だったと自称する60代の男性は、「火元の麻雀ゲーム屋は、暴力団組員が“ケツ持ち”(用心棒)していたが、かなり儲かっていたんで、別の組が自分も“カスリ”をとろうと、ちょっかいを出し、モメたことがあった」という。

 登場する暴力団や人物は実在する。だが、彼らは「火をつけて誰が得するの」との根本的な質問には答えられず、「歌舞伎町は複雑。利権が入り組んでいるから…」と逃げてしまう。

 結局、情報の真偽は不明で、その目的は謝礼とみられるのだが、なぜ、彼らの怪しげな情報がもっともらしく聞こえるのか。

 「話の半分が本当だからでしょう」と解説したのは元暴力団幹部で経営アドバイザーの鴻池宗一氏。

 「戦後の混乱が落ち着いて、まもない歌舞伎町では、火災があった通りは〇〇会の“シマ”といわれたように、比較的縄張りがハッキリしていた」

 だが、まもなく博徒系とテキヤ系の区別が薄まるなどして縄張り争いが激化。関西系組織の関東進出もあり、「今の歌舞伎町にはヤクザ事務所だけでも1000近くある」(鴻池氏)という無秩序状態に…。

 このため、昔は通りやブロック単位だった“シマ”も次第に細分化され、ビルやテナント単位となった。火災があった明星56ビルの場合も、テナントごとにケツ持ちの組織が違っていた事実も判明した。

 歌舞伎町は、裏側が混沌状態だけでなく、そこで商売をする経営者も海千山千のつわもの揃いだ。

 火災後、新宿区保健所が現場の歌舞伎町1、2丁目の飲食店について実態調査をしたところ、調査した約3400店のうち、台帳と一致していていたのは約2300店だけ。約1100店は廃業したり、店名や経営者が変わるなど、届け出のない店だった。

 「雑居ビルのテナントは、また貸しや、そのまた貸しなどゴチャゴチャで、正式な貸主や借り主が分かりにくい。風営法違反など届け出ができない店も多い」(飲食店経営者)

 さらに、高い家賃を払うため、1日のうちで昼間と深夜では、別の経営者が営業しているケースさえ珍しくはない。裏も表も実態把握が難しいカオス状態であることが、“魔都”とも呼ばれるワケなのだろう。

 暴力団幹部や風俗経営者らが出入りする歌舞伎町の外国人クラブで、彼らは外国人ホステスに「俺はこの街のボス。分かる?」と自慢していた。

 それを聞いたホステスがこうつぶやいていた。

 「この街には、ボスがたくさんいる。本当のボスは誰ですか?」

 魔都の闇は深い…。

(伊藤猛)


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