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2013年5月 4日 (土)

クズ野郎の正体、または二歳児にバスを運転させない方法(映画「フライト」感想、番外編)

デンゼル・ワシントン主演の映画「フライト」感想の続きの続き。主人公のクズっぷりは病気のせいか?それとももともとの性格か?という件。
アルコホリクの性格形成について、おもしろいサイトを見つけたので紹介する。ジェームズ・O・ヘンマンさんという、依存症にかかわっているお医者さんの作ったアディクションサポートのサイトだ。
ヘンマンさんによると、アルコール多飲の結果、アルコール(エタノール)は脳、下垂体でエンケファリン、エンドルフィンに置き換わる。そして低いストレス耐性、不適切な感情、衝動性のコントロール障害、孤立、否定的な自己像などといった依存症の性格形成が起きはじめる、という。以下、引用。

Character Changes Caused by Addiction

多くの研究がアルコール依存症の進行過程での心理学的、生物学的変化を調べてきた。ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなど神経伝達物質の減少とアルコールとの関連はより知られるようになってきている。
多飲の結果、脳と下垂体ではエンケファリン、エンドルフィンのレベルが下がっている。アルコールはそれに置き換わる作用を持つ。これによって心理学のレベルでは、低いストレス耐性、不適切な感情、衝動性のコントロール障害、孤立、否定的な自己像などといった、はっきりと分かる依存症の性格特質群が形成される。
病気の進行のある一点で、ひとはアルコール依存症の一線を踏み越える。このとき、アルコールは生活すべての中心となる。そうなるとアルコホリクは飲んでいるあいだの行動を予測できなくなる。または飲まないでいられるかどうかも分からなくなる。
ステファニー・ブラウン医師によると、これら認知面の変化は「アルコール思考」によるものである。度重なる飲酒が、自己弁護、否認、独特の考え方、尊大さ、全能感、低いフラストレーション耐性をもたらすのである(ブラウン、1988, pp.97)。この特性はもともとの性格というより、依存症の形成過程に関連している。
アルコールがひどくなっていくと、これらの性格変化を否認する必要性もさらに高まっていく。生理学的な変化と心理的な防衛機制の相互作用が起こり、感情的な幼児性、自己中心性、無責任さが生まれる。アルコホリズムはアルコールへの依存と同時に、思考の障害をもたらすのである。
こういった自己防衛、人間関係のあり方は、子どもの発達の最初の3年間に見られるものである。われわれは依存症の自己を「二歳児」と名づけた。「おそるべき二歳児」モデルは、アルコホリクの内面で何が起きているかを知るのに役立つ。
アルコホリクは現実に直面するのを避けるため、否認、打ち消し(undoing)、孤立、合理化(自己弁護)といった心理機制を使う。使いつづけるうちに、この心理機制はアルコホリクの新しい性格の中心核になってしまう。二歳児なみの傷ついた自己が「バスを運転し」、すべてを巻き込んで破滅に向かっていく。
病気の進行とともにこの二歳児はますます有力になり、成人部分は廃用され、衰えていく。交替が完成すると、二歳児部分がアルコホリクの人格の中心部分となる。アルコールや薬物使用は二歳児部分を育て、成人部分を弱める。治療的介入の初期には、新しくプログムされた成人部分による二歳児部分の健全な管理が焦点となる。
子どもがひとり、装弾されたAK-47をセーフティが解除された状態で部屋に残されたとしよう。子どもが部屋を、たいせつなものごとを撃ち壊した場合、誰が責任を取るのだろうか?子どもだろうか?そのときその場にいなかったとしても、親が責任を取るべきだろうか?もちろん、子どもをきちんと監督しなかったという理由で、親が責任をとる必要がある。この視点から、アルコホリクはじめ依存症者は自分自身の破壊的な行動を見るべきであろう。
回復においてもっとも困難な問題のひとつは、飲んでいたころの破壊的な行為にともなう恥と自己嫌悪の感情である。ふつう、破壊の結果は回復の初期に表面化する。そのとき、アディクト/アルコホリクは依存症の果てに多くのものごとを打ち壊してしまったという結果を、うまく処理することができない。
彼らの人生になにが起こったのかを理解する健全な方法を与えることで、建設的な関心が生まれる。アルコホリクはかつての破壊的な行為を二歳児の運転するバスに結びつけて考えられるようになる。自己の傷ついた部分を育て、監督し、ソブラエティを新しい視点で見る。アルコホリク/アディクトを恥への破壊的な反応から健全な反応へと変わる手助けになるのだ。

引用ここまで。
ということで、酒がアルコホリクの脳を変え、生理学的にも、心理学的にも変化を起こす。その相互作用がアルコホリク独特の性格を作る、というのがヘンマンさんの説明だ。
アルコホリク独特の性格とは、なんと二歳児だという。二歳児は、目の前のものごとが今すぐ思い通りにならないと気が済まない。後先考えずにかんしゃくを起こす。他者や周囲に安全と保護を要求し、受入れられないと爆発する。ぼくもよく自分やアルコホリクの特性を「中二病」と皮肉るが、ヘンマンさんによると中二ですらない。二歳児ですよ二歳児。ありゃー。

こわいのは、そのアルコホリクの二歳児部分が、人生というバスのハンドルを握ってしまうことだ。
自分の人生を運転するのは、ほかでもない自分である。その人生というバスをかんしゃく持ちの二歳児が運転して、どこかに連れて行こうとしている。何をしでかすか分からない。この二歳児バスのやっかいなのは、一見しても二歳児が運転しているとは分からないことだ。そして二歳児自身も、自分は大人の判断力を持っている、バスをまともに運転できると思っているところだ。
われわれアルコホリクは、病気が作り上げたふきげんな二歳児の性格を持っている。その二歳児に人生のバスを運転させておいていいなどと、誰が考えるだろう?

ヘンマンさんの主張が医学的にどの程度妥当なものかは分からない。が、説明としてはしっくり来る。
自分にとってだいじなことは大きく主張するけど、都合の悪いことは目を背けるか過小評価する。他人の責任は追及するけど自分の責任は負いたがらない。異論反論に弱く、ちょっと否定的なことを言われるとぼろぼろに傷つく。さびしがり屋の甘えん坊。屁理屈屋。すぐムカつく。気むずかしい批判屋。ガマンが利かず衝動的。アルコホリクの性格傾向を挙げるといくらでも出てくる。ああ二歳。悲しき二歳。

ヘンマンさんはこういった二歳児傾向を治すため、治療的コーチングを勧めている。上記のサイトでも、治療的コーチングに関する彼の著作物販売コーナーがある。
でも、われわれには12ステップとフェローシップという回復ツールがあるんだから、それを使わない手はない。ヘンマンさんの説明も、12ステップの有用性を支える医学的説明とも言える。まさに12ステップは二歳児にバスを運転させない方法そのものだ。アルコホリズムがもたらした二歳児自我の暴走を抑え、縮小していく。

回復とは酒を止めつづけることであり、社会と調和を取り戻すことであり、生意気な二歳児をバスの運転席から下ろすことである。酒が止まるのは、ほんとうに第一歩に過ぎないのである。


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コメント

AAは霊的な幼稚園だと言われることがありますが、ギャングエイジの2歳児であれば文部省管轄の幼稚園どころか、霊的保育園(厚生省管轄の保育に欠ける子どもを預かるための通所施設)といった方がぴったりですにゃあ。

投稿: たまちゃん | 2013年5月 5日 (日) 17:07

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