とあるチートのSSR (咲々)
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彼女の名前は
―――日本人は排他的で差別主義者である
大淀菊花はそう言われた時、衝撃を受けた。良い意味でも、悪い意味でも衝撃を受けた。確かに、日本人は非常に排他的だ。他人と違う人を見ると、遠ざける。自分も周囲の流行に合わせて行動する。その良い例がファッションだ。あれは一度火が着くと、左右どこを見ても同じ格好をした人間ばかりになる。
しかし、同時に、日本人は排他的であり、差別主義者である為に、被差別者に取ってはとても優しい国になる。例を挙げるとするならば、外国人だ。黒人は、日本人が差別主義者と聞いて、皆一様に驚き、戸惑うが、日本来ると皆『そんな事はなかった』と告げる。それは簡単だ。日本人からすれば、白人だろうが、黒人だろうが、全て『外人』と言う括りの差別対象になってしまう。だから、『うわ、外人が居る』『英語知らねーし』でたとえ日本語で話しかけられようと、下手くそな英語で必死に会話をしようとする。
そして、此処にも外人と直面してどうしようかと考える日本人がいた。名前は大淀橘花。
「あい、きゃんとすぴーく、いんぐりっしゅ」
橘花は自信満々に日本語英語で告げる。対面するのはどうやら旅行で日本を訪れた英語圏の老夫婦で、アホでも話せる日本語的な簡単な会話文が乗った辞書と英語で書かれた地図を持っている。彼等は橘花が武偵校の生徒と同じ制服を着ていた前に話しかけたのだ。
「An・・・ダーバ、ニ?イクカタ?」
「ダーバ?」
「Yes.ダーバ」
「ダーバって何?」
老夫婦は橘花に地図を見せる。そこにはローマ字で『daiba』と書かれいた。
「ダイバ・・・あぁ、台場ね。お台場」
「オダバ?」
「オ・ダ・イ・バ。
えっと、今、ヒア」
橘花は自分が居る所を教え、そして、どこをどう通れば、お台場まで行けるかを日本語英語を駆使して教える。すると、老夫婦は何度も礼を言って橘花が教えた通りの順路で歩いて行った。
「お疲れ様」
橘花がやってやったぜと近くのベンチに腰掛けると、缶ジュースを持った少女がやって来た。橘花と同じ様に武偵校の制服を着ていたが、こっちはナイスバディーで身長も180近い美少女だった。
「見てた?」
橘花はその少女に尋ねる。
「もちろんよ。橘花がアンナに沢山しゃべってるのを初めて見たわ。
最後に見たのは、確か中学3年の秋にやった英語の音読よね?もう、棒読みちゃんレベルの音読だったけど」
「何故助けない・・・・・・」
橘花は目の前のバインバインな胸をグニングニンと揉みながら恨めしそうに告げる。
「やっ!ちょ、ちょっと、こんな所でやめてよぉ!」
少女は擽ったそうに笑い、橘花の隣に座る。右手に持った缶ジュース、コカ・コーラがプシュっと言って開く。少女の左側にはトレンチコートに中折れ帽を被った一人の男が立っていた。その男が、少女のコーラの封を開けたのだ。
「ちょっと!勝手に開けないでよ!」
『構わないではないか。どうせ、
くぐもった様な、それでいて何処か響くような不思議な声だった。少女は抗議がましい目を向ける。男の顔は、驚くべき事に、記憶の固執で描かれた時計の様に曖昧にふやけた時計の文字盤が描かれ、帽子からひと房の前髪の様な金髪が出ていた。よく見れば、体中に何やら様々な形の時計がぶら下がっており、腕なんかも数十本と言う腕時計が巻かれている。肌の色も乳白色で人間の色をしていない。
つまり、この男は人間ではないのだ。
『
そして、男は告げる。DIDと呼ばれた少女、大淀菊花は時計を見てから少し考え、頷いた。
「そうね。帰りましょう、橘花。充分遊んだし。明日から、武偵校の授業が始まるわよ」
「ん」
『大淀姉妹』『二人のキッカ』それが彼女達を示す名前である。そして、他にも、彼女達には特筆すべき点があった。彼女達にはある特殊な能力があった。俗に言う『超能力』という奴だ。超能力は他人には見えない。特に、彼女たちの能力は非常に強力で、特筆すべき点は、能力に『自我』と呼べる意志が存在している。
所謂、『能力』が具現化し、会話出来るのだ。これは超能力を持った人間には見え、よりグレードの高い能力の持ち主になるとはっきりとよく見えるらしい。
そして、この超能力はある程度の『行動』が可能になっている。例えば、今したように『缶の封を開ける』とか『包丁でリンゴの皮を切る』とか『拳銃で気に食わない奴の頭を吹っ飛ばす』なんて事も出来る。勿論、それ等は全て『能力者の意思』に大きく反する内容だと行えないが、『能力者を守る』範囲内なら自由に行動が出来るのだ。勿論、グレードが低いと実体化はされず、更に言えば、『人型』にならない。グレードが40を超えないと『人型』にはならず、動物になるのだ。
彼女達、特に菊花の方は稀に見る非常に高いグレードの持ち主で、G80とも90とも言われている。故に、彼女は武偵校のSSR、超能力捜査研究科に強制入学させられたのだ。
「カイロス・クロノス」
『何かな?』
「寮に着くまで、コーラを『停止』しておきなさいよ」
『了解した、DID』
そして、彼女の能力は『時を操る能力』と『チャンスを操る能力』という複合能力だ。時を操ると言うのは流れる時間の感覚を遅らせたり速めたり出来るのだ。しかし、時を『停止』させる事は出来無い。勿論、1秒を宇宙が誕生して消滅すると言うレベルの感覚で『遅らせる』事にすれば、周囲から見れば、それは『時間が停止している』と同意義になる。一応、時間は戻せるが、例えば、花瓶を落っことして割ったとして、割る前に戻っても、結局花瓶は『割る』のであって、それは何をどうしようと『過程』は変わるが『結果』は変わらないのだ。なので、誰かが死ぬと言う現象が起きたとして、死ぬ前に時間を戻して回避しようとしても、別の原因で死ぬ。
次に、チャンスを操る能力とは、10枚の籤の中に1枚だけ『当たり』があるとしてその『当たり』が何番目に出るかを操作出来るのだ。つまり、10分の1を狙う事が出来る能力である。勿論、11人目で引けば、クジはなくなるし、当たりクジは1枚しかないので10枚全部を当たりに変える事はできないのだ。
更に言えば、能力の重複をする事は不可能で、誰かが死ぬのを目撃し、その後、時間を巻き戻してからその人間が死ぬ運を先に延ばすことはできないのだ。何故なら、『寿命』とは生まれ持った『ロウソクの長さ』であり、その『ロウ』が無くなると、人間は死ぬのだ。『チャンスを操る能力』ではロウを増やせないのである。
勿論、これは『生物』の命であって生物でないものなら、回避は出来る。花瓶を落として割って、時間を巻き戻し、『花瓶は3年後に、猫が飛び乗って落とす』と言う『チャンス』を操れば3年後、猫が飛び乗って落とすまで、花瓶は何があっても割れない。
上記の事から、大淀菊花は『トンでもない超能力者』である、と言えるのだ。勿論、能力をフルに使えば、菊花自身にも非常に精神的負荷が掛かるが、それはしょうが無い。総ては対価が必要なのだら。
「今日の夕飯は何が良い?」
「カレー」
「作るの簡単だし、長く持つから、それでも良いわよ。でも、10人分作って、10日間カレーになるけど?」
しかも、カレーだけの時間を一晩進め、保存する際には1秒経つのに10年とか100年にすれば、非常に長持ちする。