社説:憲法と「9条改正」 武力行使偏重は危うい
毎日新聞 2013年05月05日 東京朝刊
国防軍設置の先に、専守防衛の原則をはずし、「普通の軍隊」並みに高い攻撃能力を持つ兵器保有を目指しているなら、重大な戦略変更である。国際社会、特にかつて日本が侵略したアジア諸国の不信と反発を招くだけだろう。9条改正では透明性を確保し、国際社会の視線を考慮するのは当然である。他国にとやかく言われる筋合いはないという姿勢では、平和外交はおぼつかない。
北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍事的台頭によって日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。それに見合う戦略、政策を打ち立てるのは当然だ。しかし、自衛隊のままで有事への対処能力、抑止力機能の向上は可能だ。安保環境の変化は国防軍設置の理由にならない。
もし、憲法上、自衛隊の存在を明記すべきだというなら、現在の9条を維持しつつ、自衛隊の存在を盛り込んだ条項を新たに設ける、という有力な議論もある。
◇憲法上の制約が必要だ
また、自民党の草案では、現在の9条2項(戦力不保持など)を削除し、「自衛権の発動」を新たに盛り込んだ。「Q&A」は、この「自衛権」には個別的自衛権のほか集団的自衛権も含まれるとし、この結果、政府が9条によって認められないとしている「集団的自衛権の行使」が可能になると説明する。
自民党は、現憲法でも集団的自衛権行使は容認されると主張している。草案では、より明確にしたということのようだ。
しかし、草案によると、集団的自衛権の行使に憲法上の制約はない。これでは、憲法が他国の領土、領海における武力行使も容認していることになってしまう。
北大西洋条約機構(NATO)の加盟国である英国は2001年、集団的自衛権の行使としてアフガニスタン戦争に参加した。自民案によれば、日本の「国防軍」も憲法上は、英国と同様、参戦が可能となる。国民がそのような憲法を望んでいるとは到底、思えない。
自民党は、安全保障基本法のような法律で集団的自衛権行使について「歯止め」を設けると言う。だが、最高法規の憲法と一般の法律では重みも位置付けも異なる。憲法による制約は必須である。
集団的自衛権行使が求められるケースとして、日本近海で共同行動している米艦防護などがよく指摘されるが、これらは個別的自衛権の延長線上で対応できるとの主張もある。