社説:憲法と国会 違憲の府を再生しよう
毎日新聞 2013年05月04日 02時30分
2院制は本来、議員の選出方法と役割が異なるからこそ有効に機能する。ところが現憲法では衆院の優越を認める首相指名、予算案審議、法案の再議決などを除き衆参両院はほぼ対等で、参院の権限は強い。
衆参与野党のねじれが政治停滞の一因となり、参院にふさわしい「抑制と補完」が問われている。憲法59条が定める法案の衆院での再議決に必要な「3分の2以上」の要件を緩和することは、最も切実な憲法改正の論点のひとつである。
◇衆参両院の機能分担を
参院もまた深刻な「1票の格差」に直面している。最大格差5.00倍の10年参院選選挙区に最高裁は違憲状態と判決を下し、国会は「4増4減」の是正を実施した。だが、最高裁判決は都道府県を単位とする現行制度の抜本改革を国会に突きつけている。状況の厳しさはある意味で、衆院以上と言ってもよい。
選挙区を廃止し比例代表に統一する案などもこれまで浮上したが、格差是正と並行して参院の役割も大胆に見直す時期ではないか。「1票の格差」が拡大する背景には大都市圏への人口傾斜に歯止めがかからない国と地方のひずみがある。
ドイツの連邦参議院は公選を経ない地方代表で構成され、州に関する政策に権限を持つ。参院を「分権の府」として地方代表の性格を強めていくことはひとつの選択肢であると私たちは改めて指摘したい。政党化した現在の参院のままでは早晩、その存在意義すら問われよう。
衆参の選挙制度は行政区域の議論とも切り離せない。国会に地方代表を送るのであれば、母体となる自治体が強い権限を持つことが前提となる。自民党は道州制基本法案の制定に前向きだが日本維新の会やみんなの党と連携し、96条改正の環境整備を進める計算がつきまとう。真の分権志向なのかは疑問である。
超高齢化、人口減少など急激な社会の変化に対応する統治機構こそ、今の憲法にとらわれずに検討するに値するテーマだ。だが、国会議員が憲法前文に言う「正当に選挙された国会における代表者」との自覚を失わず、政党が党利党略を離れ行動する信頼の確立が大前提となる。
司法から突きつけられたレッドカードをないがしろにし、「決められない政治」を演じるような国会は願い下げだ。自らを律する能力を証明し、質実で責任ある国のかたちを示してほしい。