社説:憲法と国会 違憲の府を再生しよう
毎日新聞 2013年05月04日 02時30分
憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定める。96条の改憲手続き条項ばかり注目されがちだが国民主権の下、権力作用に関与する側が憲法を守るよう求めた貴重な条文が3条後に控えている。
では、国会はこの戒め通りに本当に憲法を尊重しているかというと、疑問符をつけざるを得ない。
2011年3月、最高裁は09年衆院選小選挙区の「1票の格差」が憲法14条の定める法の下の平等に反する違憲状態と断じた。にもかかわらず、いまだに国会による是正措置は実現していない。
◇「投票価値の平等」は重い
昨年12月の衆院選をめぐる17の高裁判決で「合憲」判断は皆無で、ついに2件の無効判決が下された。自らの欠陥をただせない「違憲の府」に果たして改憲を論じる資格があるのか。そんな声が無視できぬほどの危うさである。
折しも衆参両院の選挙制度そのものや都道府県を再編する道州制導入論など地方制度、国民から根強い支持がある首相公選制など、統治機構をめぐる議論も活発化している。とりわけ第三極をうかがう野党の日本維新の会やみんなの党はこうした議論に積極的だ。
国民の代表をどのような原理で選び、国のかたちをどう描いていくのか。「1票の格差」と統治機構のあり方がまるで共鳴し合うように注目されてきたことは決して偶然ではあるまい。
衆院「1票の格差」是正は焦眉(しょうび)の急である。今国会成立が見込まれる小選挙区「0増5減」はこれまで何度も指摘した通り、各都道府県に1議席を配分する「1人別枠」方式が事実上温存され、根本的解決に遠い。今秋にも迎える最高裁判決を前に、国勢調査ベースで格差を2倍未満に抑える一時しのぎに過ぎない。
これでお茶を濁し、今後も場あたり対応で取り繕おうとするようでは、政治の自殺である。選挙制度改革は定数削減問題、小選挙区制度の是非論も絡み、確かに複雑な要素がある。だからといって抜本改革から顔を背けてはならない。
最高裁が求めている「投票価値の平等」実現を最優先すべきだ。各党から「30減して再配分」「21増21減」など諸案がすでに提案、議論されている。権威ある第三者機関に成案を委ねるべきだ。
小選挙区制自体の見直しまで踏み込むべきかどうかは、2大政党制と多党制のいずれを志向するかを含め、国民的議論が必要だ。制度論の深みにはまってしまい、格差を放置してはならない。
衆院の姿を論じることは、参院の性格を考えることにもつながる。