黒田・異次元緩和:インタビュー 三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長・嶋中雄二氏
毎日新聞 2013年05月05日 東京朝刊
◇賃金、あとからついてくる−−嶋中雄二氏(57)
−−新しい金融緩和策をどう見ますか。
◆金融政策の目標を金利からマネタリーベース(資金供給量)に、量を2年で2倍にと、一夜にして大転換した。これは金融政策の革命だ。長年、日銀の供給量が不足していると批判してきたが、今回は100点満点。着実に実行すれば、2年後に2%の物価上昇を達成する可能性は高い。もっとも、現在の株高は、白川方明(まさあき)前総裁時代に、足りないながらも供給量を増やしてきたことも寄与している。黒田東彦(はるひこ)総裁の「サプライズ」によって、弾みがついた形だ。
−−供給量拡大が、なぜ景気回復につながるのですか。
◆まずは株高で資産が増え、宝飾品など高額商品が売れ始める。年金運用が改善するなどの形で広く恩恵が広がる。企業が増資をしやすくなり、借入金利が低下するから設備投資や住宅投資を刺激する。設備投資需要は9・5年周期で循環しており、今は上昇期にあたるため効果は大きい。政府が規制緩和を進めれば、規制に守られていた産業は競争力を付けるため設備投資をする機運が高まる。円安が進行すれば、輸出企業の採算が改善すると同時に外国人観光客や国内旅行客も増える。「金融緩和による株高はバブルだ」という批判が出てくるが、株価は先を読んで動くから現在の経済状況と乖離(かいり)があって当たり前。実体経済や賃金上昇は、あとからついてくる。
−−日銀が財政赤字の穴埋めをしているとの懸念があります。
◆2%の物価目標が達成されれば、日銀は国債の買い入れペースを落としたり、売却などの行動をとるだろう。2%が国債を買い過ぎない歯止めになる。同時に財政健全化を堅持することも必要。これが緩むとヘッジファンドの国債売りや格下げの要因になりかねず、危険だ。ただ財政再建の名の下に公共投資を減らしすぎることにも反対。耐用年数がきた道路や建物は放っておくと人命に関わる。バラマキなどと言うべきではない。金融緩和、国土保全の公共投資、成長戦略、財政再建とバランス良く同時に進める必要がある。
−−人口が減少する中でお金はうまく回りますか。