ある通信兵のおはなし

中谷軍曹の配属先

平成16年8月6日配信
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早朝、隊長から集合命令がでました。

隊長。

「過日、空戦中に天蓋の破片により瞼を負傷し、整形手術を受けていた中谷軍曹であるが、手術が成功し、明日、陸軍病院から退院し当隊に復帰することとなった。

当初、中谷軍曹の後任として、後藤軍曹を「首都防衛部隊」から無理やり引き抜いた経緯から、中谷軍曹の配属先について司令部の人事担当の少佐と直談判をして来た。その概略を説明する。

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隊長
「索敵、哨戒の奥義は一朝一夕で会得できるものではなく、俗な表現をすれば動物的な感覚を必要とするものである。

なお、現在の「本土防衛作戦」(決号作戦)に使用可能である戦闘機の員数と熟練操縦士の員数の格差に相当な開きがある事実から考慮して、熟練した操縦士の補充を最優先する考えはわかる。

我が隊がこれまでに行ってきた作戦は決して派手なものではなく、いうなれば「影の力」を発揮してきたわけであるが、司令部に於いてこのことが充分評価されていたことは、感状(表彰)を五度にも亘って伝達された事実からしても判然としている。

加えて、現存機の二機で広範囲にわたる守備範囲を哨戒することの無理から、搭乗員ほか通信兵の体力は限界に来ている状態である。

索敵・哨戒活動・米軍無線交信の妨害と傍受・敵機発進状況の探索、この探索方法はわが隊独自に開発したもので、他の友軍通信隊では決して真似ができるような簡単なものではない。

米軍機が使用する座標数値の解析も、我が隊が総力を傾けて解明したものである。公表すればいつか米軍に感知されるであろうから、司令部でも特定の者しか知らない状況にある。

このように、我が部隊は、「隠密」部隊としての役割は充分に果たしている。
と本官は自負している。

人事担当である少佐の意見を拝聴したい」

少佐。
「ご意見はよく分かりますが、【たかが、下士官】の人事については通常は戦隊長の意思によるものであります」

隊長。
「ダマれ!!

司令部の担当官であるからこそ、順々と意見を述べているのに対して、貴様はいま「たかが、下士官」と言った。

その言葉を本官は許せん!

我が隊は階級で任務を遂行しているのではない。

たとえ階級は上でも、「能なし」にはこれまで何名も原隊復帰を命じてきた。

従って、中谷軍曹とは固執しないが、同等もしくは以上の熟練操縦士でなければ、即、原隊復帰を命じることとなる。

その場合、貴様はその責任をとれるか。」

少佐。
「申しわけない。
「たかが」と言ったことは撤回します。

本件は自分の裁量で決裁できかねますので、大佐殿のご意見を伺います」

蛇足ですが、この「たかが」とという言葉を最近どこかで聞きました。
人間の品格を無視した、一番の差別用語であります。

隊長。
「人事に関していちいち上官の指示を必要とするのであれば、「人事担当官」の必要はないものと考える。
貴様が上申する前に、本官が大佐殿に意見の具申を行なう」

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「以上の経緯から、明日から再び「中谷軍曹」が我が隊の一員として活躍することとなった。本官が司令部に対して強談判をした理由は、多くを語らずとも貴様達は先刻承知しているであろう。
本官が言わんとしたことがらを充分に理解し、戦局不利な現状を打開するため、より一層各自が任務の遂行に勤めるよう。」

「以上である。」

隊長が得意とする「居合抜き」の気合で論戦を張り、一刀両断にしたようです。

「なお、ちかじか哨戒機の新鋭機が1機配備される。

T曹長機と同じ「屠龍」の換装機であるが新機である。
無線機は改良型で、しかも、小型ではあるが電探を装備している。

配備され次第、搭乗員を本官が指名する。

また、エンジンの過給器も新型のようであるが、保守整備に関する指導は「中島」から技術者が派遣されることとなるので、整備軍曹は、習熟に努めること。

無線機は「沖電気製」と聞いているが、一応の保守は、派遣される技術員からよく聞いておくこと。」

それにしても、自動車で言う「新車」が配備されるとは!

そんなウワサも聞いていませんでしたので、配備されてくる日が待ちどおしく、ワクワク感じられました。


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