福島第1原発:汚染水漏れ 仮設対応、もう限界 現状に迫る

2013年04月29日

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 東京電力福島第1原発の地下貯水槽から、放射性汚染水が相次いで漏れた問題は、事故から2年以上経過した現在も事故が収束していないことを浮き彫りにした。膨大な汚染水は、廃炉を含めたさまざまな作業の妨げとなり、廃炉作業を検証した国際原子力機関(IAEA)も「汚染水は最大の難題」と指摘する。汚染水の現状に迫った。【鳥井真平、岡田英、中西拓司】

 19日に開かれた原子力規制委員会の有識者会合。地下貯水槽からの水漏れなど相次ぐトラブルを受け、更田豊志(ふけたとよし)委員は「当面は(タンクなどに)ため続けるしかないかもしれないが、早く抜本的な対策を提案してほしい」と東電に指示した。

 原発の圧力容器や格納容器には本来、内部の放射性物質を外に出さない役割があるが、福島第1原発では水素爆発や炉心溶融で破損。閉じ込め機能を失い、汚染水が広がった。23日現在、敷地内の汚染水は、(1)タンクなど仮施設に28万6489トン(立方メートル)(2)1~4号機の原子炉建屋などに9万3820トン(3)5、6号機の原子炉建屋周辺に1万9500トン−−の計約40万トン。25メートルプール約530杯分に相当する膨大な量だ。

 汚染水対策が重要なのは、廃炉作業の鍵を握っているからだ。溶融燃料の状態を把握するには、原子炉建屋内にたまる汚染水を取り除かなければならない。また、建屋の外で水漏れがあれば周辺の放射線量も上がって作業を妨げる。最悪の場合、海に漏れてしまいかねない。

 汚染水の増加に一定の歯止めをかけようと、東電は事故から3カ月後の11年6月、「循環注水冷却システム」を本格稼働した。全長4キロに及ぶ配管の途中に、さまざまな装置を配置。放射性セシウムや塩分を取り除いた上で、溶融燃料の冷却に再び利用するという仕組みだ。

 しかし、雨水や山側から流れる地下水が1~4号機の原子炉建屋内に流入。冷却に使っている水と混じって汚染水を増やし続けている。また、現状の装置でも放射性ストロンチウムなどは取り除くことができず、汚染水もため続けざるを得ない。

 現在、東電は打開策として、62種類の放射性物質を取り除く能力のある浄化装置「アルプス」の本格運転を目指しているが、放射性トリチウムは技術的に分離するのが難しい。仮設タンクの老朽化は進み、敷地内の増設場所も限界に近付いている。二見常夫・東京工業大特任教授は「仮設施設による対応に限界が来ている」と話す。

 ◇原因、特定できず 事前調査も不十分

 地下貯水槽の水漏れを巡っては、施工ミスなど複数の原因が浮上しているが、特定に至っていない。

 貯水槽は地面を掘り、3層の防水シートを敷いている。内側から1、2枚目は厚さ1・5ミリのポリエチレン製、3枚目は厚さ6・4ミリの「ベントナイト」と呼ばれる粘土鉱物を素材にしている。貯水槽は計7基あり、いずれも同じ構造をしている。産業廃棄物の最終処分場やため池でも使われている。

 最初の漏水は5日に2号貯水槽で見つかり、3号でも発覚。いずれもほぼ満杯だったことから、東電は原因について、「貯水槽上部の縁にある漏水検知用パイプ周辺のシートが、水の重みで下に引っ張られ、パイプの根元付近に隙間(すきま)ができた」と推定。水位が8割以下ならば問題ないとみて、継続使用する予定だった。

 ところが、水位が5割しかない1号でも漏水していることが発覚。福島県などが懸念を表明し、東電は、すべての貯水槽から汚染水を地上タンクなどに移し、その後は使用しない方針に転換した。

 東電は19日、コンクリートの基礎固めが不十分な部分に水圧でひび割れが生じると、下にある防水シートも破れる可能性など四つの推定原因を発表したが、調査は高い放射線量で困難を極めている。

 水漏れが相次ぐ背景には、貯水槽が突貫工事で造られた経緯もある。

 増え続ける汚染水を保管する地上タンクの増設場所の確保に限界が見える中、東電は地下貯水槽に注目した。低コストで大量に水を保管できる上に、これまで利用してこなかった地下という場所を活用できる利点があるからだ。12年8月~13年1月に順次完成させたが、東電は「仮設施設」として導入を急ぎ、破損事例の有無などを十分に調べなかった。

 「放射性物質を扱う以上、漏出防止にはより高度な管理が求められる」−−。24日、貯水槽を視察した福島県の「廃炉安全監視協議会」に参加した専門家は指摘した。

 ◇「地下水阻止」カギ 原子炉建屋に1日400トン流入

 「海には絶対に出さないように」。茂木敏充経済産業相は8日、地下貯水槽の汚染水漏れを受け、謝罪に訪れた東電の広瀬直己社長に厳しく言った。海洋流出は、水産資源の汚染や風評被害を招くからだ。

 汚染水は地上に保管するしかなく、これ以上増やさないことが不可欠だ。現在、汚染水が増えている最大要因は1日400トンも原子炉建屋に流れ込む地下水。IAEAの調査団も「地下水の流入を食い止めることが抜本的な対策になる」と分析する。

 東電は、地下水が建屋側に入る前にくみ上げる井戸12本を掘削した。1本あたり1日約40トンをくみ上げる能力を備えている。しかし、地下水をくみ上げすぎると、原子炉建屋内の汚染水が地下水に流れ込んでしまうリスクを抱えていて、難しい操作が迫られている。

 政府は19日、経産省資源エネルギー庁や原子力規制庁などで構成する「汚染水処理対策委員会」を設置。東電が「効果がない」として工事を見送った遮水壁(地下ダム)について、建屋の山側に設置することを再検討する方針を示した。工事が始まっている海側の遮水壁と併せて、地下水から原子炉を隔離する狙いがある。

 東電は貯水槽から地上タンクなどへの移送を、6月までにほぼ完了する計画だ。だが、夏までに地上タンクの空き容量が少なくなる時期は2回訪れる=グラフ。

 廃棄物処分場に詳しい小峯秀雄・茨城大教授は、7基ある貯水槽の容量(計5万8000トン)に注目する。「放棄するのではなく、現状の設備を補強して使うべきだ」と指摘する。分析では、貯水槽に敷かれた3層シートのうち、最下層の「ベントナイト」の厚さに問題があり、現状の6・4ミリから50センチ以上にすれば、1、2枚目のシートが破損しても100年以上漏れなくなるとしている。

 まもなく梅雨期を迎え、汚染水が増える恐れがあり、移送先には、5、6号機の原子炉建屋内にある「圧力抑制室」の活用も視野に入る。綱渡り状態を回避するため、あらゆる手段を総動員する状況が続いている。

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