~第六回 東北支援『宮城県石巻市・七ヶ浜町』~

by Takahashi Isso

■準備段階および活動の目的

前回活動時(4月26日)から約1カ月弱の期間を開けたのは、ゴールデンウィーク期間中に多くのボランティアや団体が被災地入りし、各避難所や行政には多くの物資が供給され、多くのマンパワーが投入された現地の状況が、ある程度の落ち着きを取り戻すことを見越したことによる。
前回までの継続的な活動によってわかってきたことは、同じように地震と津波で被害を受けた『被災地』と言っても、それを一括りにできない、地域ごとの復興スピードの差が生じていること、また、被災者自らが経済的かつ精神的に自立するには、こちらが考えている以上にハードの部分での整備が必要であるということ。
D・O・Gとしては、これまでどおり、『イヌ』というフィルターを通した『想いを込めた支援』という軸を崩さず、かつ、活動そのものに自ら線引きをしない長期継続的な支援を目指すこととしている。具体的には、これまでの活動で『ご縁』を繋いできた宮城県七ヶ浜町エリアをさらに深堀し、イヌと関わりのある方に対し、『ニーズに合った支援活動』を継続し、そこで得た経験とプロセスを、いまだ復興スピードが加速出来ないでいる石巻市以北エリアでの支援活動に生かすこと。また、D・O・Gが目指す『未来のペットショップ』構想の一環として、地域社会に貢献出来うる『イヌ』コンテンツを模索することである。
したがって今回の目的地は、継続して活動している七ヶ浜地区と、情報集活動として前回までに訪問することができなかった石巻動物救護センターに設定した。

~D・O・G支援ターゲット~
支援① 犬と一緒に避難している『人』
支援② 避難所にいて、犬を他に預けている『人』
支援③ 犬を預かっている『人』
~Option~
支援④ 犬を失った『人』
支援⑤ 飼い主を失った『犬または動物』

~D・O・G情報収集活動~
リサーチ① 石巻以北エリアおよび福島県南部沿岸エリアの支援活動ベースとなる場所の選定
リサーチ② 石巻以北エリアの現状把握
リサーチ③ 被災エリアごとに必要とされている物資の見極め
リサーチ④ 被災者自らが求めている『アクション』とはなにか
リサーチ⑤ D・O・Gが掲げる『未来のペットショップ』構想の一環として、被災地に貢献・継続支援となりえるコンテンツの模索

~D・O・Gとしての目標〜
目標① これまで触れてきた方々との『ご縁』をより深め、信頼関係を構築する
目標② 物資運搬と並行した、新たな復興支援アプローチの模索
目標③ 石巻以北リアス式海岸エリアおよび福島県南部沿岸エリアへの継続的な支援体制の確立

■5月22日(日)石巻市立飯野川第一小学校避難所

高橋と個人的にお付き合いを頂いている、都内で焼肉店を営むK氏から、『石巻の避難所で焼肉の炊き出しを実施する。』との連絡があった。その際、地元の青年会議所の方にもご協力を仰いでいるので、高橋にぜひ紹介したいとのお誘いを頂いたことが、この場所を訪れるきっかけである。D・O・Gとしての情報収集活動の一環としても、ぜひ参加すべきと判断、『石巻動物救護センター』への訪問は午後とし、まずは石巻市北部に位置する飯野川第一小学校避難所を最初の目的地とした。
体育館で生活をされている約150人は、地震被害と、津波の影響により、付近を流れる北上川の氾濫被害を受けた方々である。我々は炊き出しの手伝いをさせて頂いた後、K氏の仲介を頂き、仙台青年会議所の理事会監事をされている杉山氏とコンタクトし、お話を伺う事ができた。

杉山氏によると、石巻市以北から岩手県沿岸部にかけての都市では、旧態依然とした一部の建設業者(当然この業者も被災者である)の利権独占等により、遅々として仮設住宅等の整備が進まないこと。また、このエリアの経済の柱である農林水産業、とりわけ漁港の壊滅による漁業の停滞が深刻であり、操業は可能であっても地元に利益を還元できないなど、経済的な被災者格差が生じ始めている現状や、メディアが報道しない復興の足かせとなっている原因や問題点を聞かせていただき、今後の情報共有を含めた協力をお約束頂いた。
もちろんD・O・Gとしては、イヌを軸とする経済を含めた支援がミッションではあるが、今後アクションを起こす際の情報ソースとして、またアドバイザーとして協力を頂ける事においては、貴重なご縁を構築できたと考える。

■5月22日(日)石巻動物救護センターへ

 

 

飯野川第一小避難所を後にし、この場所からほど近い、『石巻動物救護センター』で、車載の支援物資のお渡しと、このエリアでのペットが置かれている状況を伺う事を目的として訪問した。
ご対応いただいたのは、当施設運営の中心として活動されている中川氏である。当施設は震災後まもなく、被災した獣医師が中心となり、全国からボランティアを積極的に募集しながら、動物レスキューや一時預かりのシステムを立ち上げた、今回の震災における動物保護のリーダー的施設であるといえる。カバーするエリアは、東松島町・石巻市・女川町の3市町であり、現在保護されているペットはイヌ・ネコを含め100頭を超える。
それら保護されている動物たちの内訳は、飼主を失ったペットと、飼い主が現在避難所での生活を余儀なくされているため、やむなく当施設にて一時的に預かっているペットが、約3対7の割合とのこと。当施設がカバーする3市町は、仮設住宅内でのペット飼育について可能であることが決定しているため、今後仮設住宅建設が進めば、当施設にて保護の対象となる動物の絶対数は減少してくるものと思われる。飼い主を失ったペットに関しても、当施設がイニシアチブを取り、慎重に里親募集を行っていくとのことである。『慎重に』としたのは、今回の震災において、さまざまな動物保護団体が被災地で動物レスキュー活動を行っているが、なかには保護した動物をすぐに里親に譲ってしまい、その後以前の飼い主が現れ、所有権をめぐるトラブルになるケースが報告されているという背景があるためである。D・O・Gとしては、里親募集とマッチングに関するノウハウを持っているため、当施設が里親会を実施する際には、今後も連絡を取り合い、密な関係を構築していく考えである。

当施設では、WEBを積極的に活用し、全国から集められたペット支援物資は充足しているようであるが、ゴールデンウィークで最大130人ほどだったボランティアの数が、現在30名弱となってしまい、マンパワーの不足が深刻であるとのことであった。しかし、急造の施設であるものの、動物の排泄物のバイオによる堆肥化や感染症対策、物資の仕分けなど、D・O・Gが今後活動する拠点として若林区荒浜地区に計画されている、イヌのコンテンツを取り入れたベースキャンプをつくるにあたっての、貴重なサンプルであり手本となった。

中川氏には、突然伺ったにもかかわらず、丁寧に施設内の案内をして頂けた。さらに、D・O・Gのこれまでの活動を説明し、ご理解を頂いたうえで今後の相互の協力体制を約束していただいた。また、通常のドッグフードこそ施設には充足しているが、我々が持ち込んだ犬用の療養食は、施設に詰めている獣医さんらに大変喜ばれ、これは、その場所のニーズに合った物資提供を心掛けてきたこれまでの活動の経験則が生きた、一つの成果であったと自負するものである。

■5月22日(日)七ヶ浜国際村避難所

センターを後にし、七ヶ浜町に向かう道中、石巻市街地の壊滅的な状況を目の当たりにすると、宮城県第二の都市が受けたダメージの大きさを実感することができる。石巻動物救護センターがカバーする女川町以北の都市においては、石巻のように、システムが確立された動物保護が存在している情報が、いまのところ聞こえてこない。すなわち、こうしたエリアには、いまだ行き場を失ったペット達や、ペットを失った飼い主たちが多数存在し、救済の手を求めていることが容易に想像できる。

我々が七ヶ浜町に到着したころは、すでに夕刻を迎えていたが、大都市仙台近郊の七ヶ浜町は、現在ほぼ道路状況は復旧しており、走行に危険を伴うことはほとんどないと言っていい。まずは前回までの訪問でご縁を繋ぎ、今後のD・O・Gの活動において、今や欠かせない人物となった自然動物保護施設『ロッキーの森』代表、武田氏とコンタクトを試みるが、訪問した時刻が遅かったこともあり、残念ながら不在であった。
『ロッキーの森』は、翌日の再訪とし、やはりこれまでの活動でご縁を深めてきた『七ヶ浜国際村避難所』の犬たちへ、かねてよりリクエストを頂いていた物資をお届けする。この避難所で産まれた5頭のダックスフントのうち、3頭は里子に出されることが決まったとのこと。現在、この避難所で暮らす犬は6頭となった。大都市に近く、情報や物資が充実していると思われる当避難所でも、いまだ避難所生活者のニーズに合わない、いわゆる『支援のミスマッチ』が依然として存在しており、今後もD・O・Gが継続して支援する必要があると考える。
また、このエリアであっても依然仮設住宅の建設は追い付かず、先日行われた抽選会では、障害者と高齢者を優先に入居したとのことであった。

■5月22日(日)七ヶ浜町代ヶ崎地区

国際村避難所を後にし、これまで継続的に支援してきた在宅被災者宅を訪問する。そこで物資をお渡しし、さらに前回提案させて頂いた、『内職プロジェクト』について、用意した資料をもとに具体的に説明し、東京・原宿のドッググッズブランド『ALOALO』から受注されたアイテムのサンプル作成を、集まって頂いた在宅被災者の方々に依頼する。
『内職プロジェクト』については、前回の訪問時に増して、在宅被災者の強い期待を実感することとなり、早急にスキームを確立することが急務と思われる。今後は、当プロジェクトのボリューム等を考慮し、D・O・Gから切り離し、単独プロジェクトとして運営していく必要があると考える。

■5月23日(月)七ヶ浜国際村避難所

朝方、かねてから付き合いのあるドッグトレーナーの山田英機氏が、支援物資持参で札幌から仙台に到着したので、合流して物資提供のアテンドをすることに。前日に七ヶ浜国際村避難所に犬とともに避難している方からリクエストがあった、犬用ベッドを調達し、当避難所へ向かう。
札幌から山田氏が持ってきた物資とともに、犬用ベッドもお渡しすると、被災者の方から次回訪問の予定を尋ねられる。物資のリクエストがあるものと思ったが、当該避難所が6月20日をもって閉鎖されることが決まり、我々の活動が空振りしない様に配慮して尋ねてくださったとのことであった。
避難所が閉鎖された後の被災者の行き先は、仮設住宅か親戚や知人宅を頼るかであるが、七ヶ浜町の仮設住宅に関しては、今のところペット可になる予定なので、現在避難所にいる数頭の犬に関しては、行き場を失うことはないようである。

■5月23日(月)七ヶ浜町公民館避難所

 

 

 

 

 

 

5月23日(月)七ヶ浜町代ヶ崎地区

次に向かったのは、在宅被災者が待つ七ヶ浜町代ヶ崎地区の民家。ここに暮らす犬が、震災を機に性格が変わってしまったとの情報があり、同行するドッグトレーナー山田氏を引き合わせ、飼主さんにアドバイスをする。

5月23日(月)『ロッキーの森』武田氏と面談

近隣の野生動物保護活動を行う施設、『ロッキーの森』については前回までの報告書で、すでに記載の事であるが、代表の武田氏に、仙台市若林区荒浜で進行中の民間による復興支援プロジェクトへの参画を呼び掛けるために伺った。
当該施設は地権者から立ち退きを勧告されているが、現在のところまだ代替え施設を建設する目処は立っていない。しかし、すぐに移動できるよう徐々に荷物や資材をまとめ始めているとのことである。高橋より、若林区の復興支援プロジェクトの話を振ってみるも、実際に津波の被害にあった場所への移転は、興味はあるものの心配が先に立ってしまうようであった。さらに、武田氏の職場も被災したため、企業が大幅な人員整理を行う予定とのことであり、収入源を失う可能性もあるそうである。D・O・Gとしては、これまで武田氏が行ってきた活動とそこで得られた知識が、『未来のペットショップ』を創造するうえでの、重要なコンテンツとなりえるものであると考えているので、『ロッキーの森』の施設移転を含めた、武田氏への協力を今後も続けていきたいと考える。
このような状況ではあったが、武田氏が我々に話して下さったこれまでの経験談の一部をここに紹介しておく。

① カモシカの生態と自然との共生
『ロッキーの森』では、今回の震災と津波により保護動物の半数近くを流されてしまった。生き残った動物の中に、ニホンカモシカが1頭いる。これまで武田氏は、過去4頭のカモシカを保護し、野生に戻している。勾配を

 

作ってある施設では、カモシカは勾配の一番高い場所に排泄することがわかっていた。武田氏は実際に山に入り、野生でも同じ事言えるのかを確認したところ、カモシカが排泄した場所より山側には他の動物が生息しており、野生のカモシカは自分の排泄物より谷側を縄張りとしていることがわかった。その理由として武田氏が推測するには、排泄場所を縄張りの高地に置くことで、雨が降ると縄張り内の土に栄養が行き渡り、エサとなる植物がよく育つようになるからであろうとのことだった。

② トビの羽根の怪我と『けもの道』、人間界と野生動物界との共生
『ロッキーの森』には、よく猛禽類のトビが羽根に怪我をしてよく保護される。一般的に鳥類が羽根に怪我をする場合、原因は羽ばたく際に送電線に引っかかって折れるケースが多いというが、トビはグライダーのように風を利用して飛んでいるため、羽根が折れるような怪我は考えにくい。武田氏は、怪我をしたトビを保護する際、決まってその場所の近くに別の動物が自動車にはねられていることに気が付き、トビはその動物を食べに来た際に、別の自動車にはねられて怪我をすることがわかったという。
日本では、道路建設をする際には、もともとあった『けもの道』には構わず、山を重機で切り開き、アスファルトを敷くだけであるが、ある国では、『けもの道』が存在する場所に道路を建設する際には、直径45㎝ほどの筒を道路の下に通し、人間界の道路と野生動物界の道路の、いわゆる『立体交差』を形成させるという。武田氏によると、たったこれだけの工夫で、自動車と動物との事故も劇的に減り、延いてはトビも怪我することもなくなるはずとのことであった。

③ EM菌
『ロッキーの森』に行くと、さまざまな野生動物が施設内で保護されているが、いわゆる『けもの臭さ』というものがないことに気が付く。武田氏に伺うと、EM菌(有用微生物群)を活用しているという。これは有機物をいわゆる善玉菌によって分解・有用発酵させ、植物や動物が健康に育つ環境に役立つとされているものである。

武田氏のこれらの経験談は、すべて『ロッキーの森』をはじめとする、氏のこれまでの動物保護活動で培われた知識であり、机上では決して得られるものではないと考える。D・O・Gとしての活動テーマである、『イヌとヒトとの共生』に、武田氏のこうした経験と知識が貴重なサンプルとなりえると考え、今後も武田氏のサポートと連携を図っていきたいと思う。

■5月23日(月)七ヶ浜町公民館

『ロッキーの森』施設にて、武田氏の貴重なお話を伺った後、最後の目的地となる七ヶ浜町公民館避難所へ向かい、物資のお渡しを行い、帰路に就く。

■今回の活動でできたこと

~D・O・G支援ターゲット~
支援① 犬と一緒に避難している『人』       ○
支援② 避難所にいて、犬を他に預けている『人』  ○
支援③ 犬を預かっている『人』          ○
~Option~
支援④ 犬を失った『人』             ×
支援⑤ 飼い主を失った『犬または動物』      ×

~D・O・G情報収集活動~
リサーチ① 石巻以北エリアおよび福島県南部沿岸エリアの支援活動ベースとなる
場所の選定
⇒引き続き、在京の活動団体と連携を図りながら、具現化に向けた折衝
を行っていく。また、『ロッキーの森』武田氏の心情も考慮しつつ、施設
移転も含めた協力体制を構築していきたいと考える。
リサーチ② 石巻以北エリアの現状把握
⇒『石巻動物救護センター』とコンタクトしたことにより、当センターの
管轄範囲以北の地域については、いまだ情報量が不足していることが判明
し、当該センターとの連携と情報収集を今後も続けていく必要性を感じる。
リサーチ③ 被災エリアごとに必要とされている物資の見極め
⇒アプローチしている七ヶ浜町の避難所に関しては、被災した方々からの
物資リクエストを受け、それに応えるというカタチが構築されてきている。
しかし、今後も『何が必要とされているか』を常に考えながら、『想いの込
もった支援』を継続していきたいと考える。
リサーチ④ 被災者自らが求めている『アクション』とはなにか
⇒前回、D・O・Gとして在宅被災者に提案していた『内職プロジェクト』
を具現化するべく、実際に作製依頼した。しかし、まだ詰めなければなら
ない事項が多くあり、それらを早急に整備して現実化したいと考える。
リサーチ⑤ D・O・Gが掲げる『未来のペットショップ』構想の一環として、被災地
に貢献・継続支援となりえるコンテンツの模索
⇒『ペットショップ』の3つの柱である、Ⅰ.生体、Ⅱ.物販、Ⅲ.サー
ビス、のそれぞれの軸に沿ったカタチで、被災地を含めた地域社会に貢
献できるコンテンツを、青山での啓発活動等を有効に活用し、これまで
どおり継続的に模索していきたいと考える。

~D・O・Gとしての目標
目標① これまで触れてきた方々との『ご縁』をより深め、信頼関係を構築する
目標② 物資運搬と並行した、新たな復興支援アプローチの模索
目標③ 石巻以北リアス式海岸エリアおよび福島県南部沿岸エリアへの継続的な
支援体制の確立

今回の2日間の活動では、これまでの『物質的支援』から、経済活動を含めた『精神的支援』へ移行する情報収集活動の性格が濃くなったといえる。しかしながら、D・O・Gがこれまでの経験で得た物資支援のカタチは、継続して行っていくべきであるし、いまだご縁を構築できていないエリアに対しても、積極的に情報収集しながら、出来ることを模索していきたいと考える。
また、D・O・Gの支援ターゲットの『OPTION事項』として掲げていながら、いまだ取り組みが不十分であった、支援④犬を失った『人』および、支援⑤ 飼い主を失った『犬または動物』に対するアプローチにも、フォーカスしていきたいと考える。

文責:村松