昨年、大阪本社管内で掲載を申し込まれた広告に、「北鮮邦人拉致」という言葉がありました。大阪の審査担当者が事前に気づき、削除されました。このまま掲載されていたら、朝鮮総連などから抗議を受けたかも知れません。
この場合「北鮮(ホクセン)」が問題で、「北朝鮮」とすべきです。朝鮮の略称として「鮮」と一文字で表すことはできません。「鮮」はかつて、大日本帝国が朝鮮を植民地統治していたとき、蔑称(べっしょう)として日本政府や日本人が使っていた言葉だからです。
「朝鮮に渡る」という意味で「渡鮮」という言葉があります。戦争体験のある70代以上の人たちには違和感がないかもしれませんが、同様に使ってはいけない言葉です。「渡米」「渡仏」などといいますが、意味合いがまるで違います。
植民地統治時代、日本がソウルの呼称として使っていた「京城」も差別語として認識されています。もしソウルを京城と表記したら、韓国や北朝鮮の人たちに不快感を与えるはずです。歴史を扱う記事などで「京城」と書く場合、編集局では、注などで説明を加えた上で使うとしています。ただ学校名として「旧京城帝国大学」などと書いても差し支えありません。京城帝大は、1924年に設立された日本の6番目の帝国大学です。東京帝大、京都帝大など日本国内にある帝大は文部省管轄でしたが、京城帝大の管轄は朝鮮総督府でした。
このような言葉に出くわして使用の是非に迷った場合、「痛い目にあわせた側は忘れても、痛い目にあわされた側はいつまでも忘れない」ことを想起すべしと言われています。ちなみに、朝鮮民族全体を表す場合は「朝鮮人」とします。朝鮮民族の言語や文化全体を表す場合は、朝鮮語、朝鮮文化などと「朝鮮」を使います。「朝鮮」に差別的な意味が含まれていると誤解している人がいるので、念のためです。在日の朝鮮民族全体を表す場合は「在日韓国・朝鮮人」とします。