2013年1月18日金曜日

「復興」という名の悪夢

仕事柄、物事の暗い側面を見つめることが多い。
きのう阪神淡路大震災から18年を迎えた神戸。
多くの観光客で賑わう街に
いま震災の傷跡を見ることはない。
しかし、人知れず、復興の“後遺症”に苦しむ人たちがいる。
「復興災害」という言葉さえ囁かれるほどだ。

神戸市でも、震災の被害が甚大だった長田区。
新長田駅の駅前には
復興のシンボルのように巨大な鉄人28号が立つ。


この街では震災後、
神戸市による再開発計画が強力に推し進められた。
44棟もの商業ビル、高層住宅を建設し、
長田地区を
神戸の副都心として再生させようというものだった。
震災で店を失った地元商店街の人たちは、
長田で商売を続けようとすれば
この再開発計画に乗るしか選択肢はなかった。

再開発は
被災した土地・建物を市が買い取り、
ビルを建設して商店主たちに売り戻す方式で行われた。
賃貸は認められず、
商店主たちは
新しくできた再開発ビルの中にスペースを買った。
もともと土地や建物を借りて商売をしていた人も多く、
購入費や内装などで
多額の借金を抱えた人も少なくなかった。


写真は震災から7年後にオープンした
アスタくにづか1番館。
(現在は6番館まで作られている)
共用スペースを広くとったこともあって、
再開発ビルの管理費は高額となり、
また固定資産税も高くなった。
ふれこみ通り客が増えればそれでよかったのだが、
現実には商店街を訪れる客は減る一方だった。
人口が増えている神戸市のなかで、
長田区だけは震災後、人口減が止まらない。
被災して長田を離れた人が戻って来ず、
地場産業のケミカルシューズが壊滅したのも大きい。
真新しいビルが次々に建つにも拘らず
商店街はさびれる一方で、
商店の経営は次第に苦しくなっていった。


再開発地域の中心部にある1番館にも
シャッターを閉めた店が目立つ。

鳴り物入りでオープンした再開発ビルの失速は
神戸市にとっても大きな誤算だった。
ビル化によって増えた商業スペースを売って
事業費の回収を図る計画だったのが、
アスタ1〜6番館の半分以上、
金額にして220億円分が売れ残ったのである。


一階ですらシャッター街化しているくらいだから、
二階や地下のスペースは目も当てられない。
(写真はアスタくにづか2番館2F)
大量の売れ残りを抱えた神戸市は、
当初は認めなかった賃貸に応じ始め、
なんとか空きを埋めようと賃料を下げていった。
事実上のダンピングに踏み切ったのである。
こうした神戸市の方針転換は
地元の商店主たちをますます追い詰めることになった。
当初高い金額でスペースを買った人たちにとって、
安値での賃貸は不公平なばかりではない。
資産価値の暴落を意味していたのである。

商売に見切りをつけて廃業しようにも、
店舗スペースの買い手がつかない。
タダ同然の安値で借りられるところを
わざわざ金を出して買うはずがないからだ。
震災から18年経って、
当時45歳の働き盛りだった人も還暦を超えた。
そろそろリタイアを考えようにも、
スペースの買い手が現われなければ
管理費と固定資産税を自分で払い続けなければならない。
15坪ほどの小さな店で月額7万円前後、
つまり、国民年金が飛んでしまう金額である。
そのうえ、多くの人は開業資金を借金で賄っている。
商売をやめて収入が途絶えれば、
維持費の負担と負債の返済は不可能である。
商店主たちの多くが廃業の道さえ閉ざされて、
いよいよどうしようもなくなって破産するまで
先行きの見えない商売を続けるしかない。
(すでに破産したところが現われ始めている。)
震災前から長田に暮らし、
長田に残ることを選んだ人たちを襲った苦境、
「復興災害」という言葉が生まれる所以である。

驚くべきことには、
新長田駅前再開発計画は
18年たったいまも「終わっていない」のである。
神戸市は残り何棟かのビルを建てる計画を放棄していない。
その一方で、
地域の活性化を図る
「にぎわいづくり」プロジェクトを
6億円の資金を投じて行なうことを決定した。
残念だが、
官製プロジェクトによって
地場産業が壊滅したこの街に
「にぎわい」を取り戻せるとはとても思えない。
いま必要なことは、
失敗した計画にさらに資金を注ぎ込むことではなく、
「復興」の失敗を認め、
泥沼に陥った関係者の救済を図ることではないのか。

14 件のコメント:

  1.  
     道路(歩道)と面していて・・・ (最低限!)
    1Fが店舗で レジの裏に凄く急な階段が
     あって 2Fが住居みたいな・・・
     安く生活していける 昭和な古典デザインを
      もってしても苦しい地方の商店街。

      鉄人は何思う?

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  2. >昭和な古典デザイン
    そもそもそこが間違ってね?現在の商店街のシャッター街化って
    店主が年をとるor売れなくなる
    →店を閉じる
    →→そのまま住居になる

    で、新しい店舗に切り替わらないからだろ。
    売れてない店舗がシャッター閉めても居残るショッピングモールなんて寂れて当然。

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  3. >bm2さん

    そうした“昭和の商店街”として賑わっていた長田を
    時代に逆行して活性化しようとして傷口を広げたケースではないかと。
    神戸市は震災を奇貨として懸案の再開発を推し進めた気配があります。
    鉄人28号はなかなか魅力的なランドマークですがl、
    商店街の再生には結びつかなかったようです。

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  4. 神戸市長田ですら、こうなんですから、地方の商店街は、もっとひどい状態でしょうね。
    そもそも人口横ばいから減少の日本にあって、高層建築の意味は何なのでしょう。

    > 神戸市は残り何棟かのビルを建てる計画を放棄していない。

    この神戸市の考えは理解できません。上層階に住む人が増えるということは、平地に空き家が増えるということ。すでに日本全体の空室率は高いですよね。ますます、極端に過疎(限界集落化)が進み、ほどほどに過密が進みそうです。

    神戸や東北は、10年、20年後の日本全体の縮図のような気がしてなりません。

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  5. 胸が痛みます。
    ご高齢の当事者の方々の苦しみを思うと、勝手なことを言うのははばかられます。
    しかしこういう記事がなければ他者に伝わることもない話です。
    ありがとうございます。

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  6. こちらの7ページ(伊藤実氏講演)に奥尻島の経験についての記述があります。復旧政策はあったが復興政策はなかった。
    http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2012/06/002-016.pdf

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  7. 神戸がこのようになっているとは想像もしていませんでした。勉強になりました。
    元々高齢化が著しく、経済的にも疲弊していた被災地域を復興させるには、復興でなく、それまでの産業構造に復旧させることでさえも、答えではないような気がします。神戸や奥尻、そこから得られた経験をなんとか生かしてほしいものです。

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  8. 震災からの復興と「シャッター商店街」の話がごちゃごちゃになってる気が?

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  9. 神戸がこんなことになっていたなんて、初めて知りました。
    ひどいことです。

    もうすっかり復興して、前の生活に戻っているとばかり…・。

    東日本大震災で被災した私も同じなのでしょうね。

    市や県、国の考えることは変わらないでしょうから…。


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    1. 東北は縮小均衡の復興を図るべきだと考えています。
      そのあたりは、地元自治体もシビアに見ていると思いますが…。
      ただし、仙台市内は復興需要を当て込んだ(?)アパートの建築ラッシュで、
      5年もすればひどいことになりそうな予感がします。

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  10. 長田のバグジー2013年3月10日 16:23

    震災前から長田は終わっている。関係者全員がド素人。震災でせっかくのチャンスをみすみす潰してしまっている。義捐金やら震災優遇金利で資産が出来たのだから、神戸市に騙されて店舗や住居を購入した輩は、はやばやと破産するべし!自業自得!資産価値など無視して賃貸でまわすべき。管理料のコストダウンはバカでも出来るのだから早急に実施すべし。出費を抑えて収入を増やす。経済の基本。

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    1. >長田のバグジーさん

      「バカでも出来る」はずの
      管理料のコストダウンができないところが問題なのです。
      後で詳しく書くつもりですが、
      最大の区分所有者(最大の議決権行使者)は神戸市ですから、
      商店主たちの管理料引き下げ動議は全部否決されて、
      超割高な管理費を神戸市の第3セクターに払い続けるしかない仕組みです。
      この件に関してはいま次々に裁判が提訴されています。

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  11. 長田のバグジー2013年3月15日 14:37

    ご回答有難うございます。確かに区分所有法枠内での動きには限界がありますね。おまけに第一審が珍判決の多い”神戸地方裁判所”では・・・。私が震災後に新開地の分譲マンションでしたウルトラDが通用すれば良いのですが。住居と併用の店舗棟に関しては区分所有率が住民側の方が多いでしょうからそこから攻める手もありますね。

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  12. 目から鱗でした。
    神戸の震災はまだ終わっていない
    のですね。
    もう完全に復興し、東北へのモデル
    にでもなっているのかと錯覚していました。
    どうしてもっとテレビとかでそういうことを
    取り上げないのでしょうねえ。

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