4月の下旬、ニューヨークを訪れた。2020年五輪の招致活動にからむニューヨークタイムズのインタビューで、僕は東京の優位性を語った。残念なことに、ライバル都市イスタンブールに触れたごくわずかなコメントに焦点があたって、「他都市を批判してはならない」というIOC行動規範に触れると指摘された。コメントの一部が不適切と認識される可能性があることは認めなければならないから、心よりお詫びする。IOCにはすでに事情を説明した手紙を送ったし、トルコの閣僚も謝罪を受け入れてくれた。今後は他都市に敬意を表し、招致活動を続けたい。僕の招致にかける情熱は変わらない。
◆まずは都バスで
この訪問中、全米最大の日米交流団体、ジャパンソサエティーで講演した。僕はここで渋谷−六本木の都バスを24時間運行する、と話した。「クリスマスプレゼントとして」と付け加えて。都庁内の段取りや国土交通省や警視庁などとの調整を考えると年末まではかかるからだ。
ニューヨークに限らず、ロンドン、パリと先進主要都市はバスを終日走らせている。ニューヨークは地下鉄も24時間運行しているが、これは線路が上下2本ずつある複々線だからできること。東京は1本ずつしか線路がないから保守点検で止めないといけない。僕が副知事時代から進めようとしている東京メトロと都営地下鉄の一元化が成就すれば、もっと効率よく走らせるアイディアはあるが、それは別の機会に話そう。今はバスを先にやる。
「都01」と呼ばれるこの系統は都バスを象徴する路線だ。南青山、西麻布、六本木、赤坂、霞ヶ関と通って新橋駅北口が終点。今も渋谷と新橋駅北口間は23時と0時台に大人400円の深夜料金で走っているが、終夜運転にする時は渋谷、六本木折り返しにする。
◆仕事の後に娯楽
家に帰る鉄道が終わっている時間になぜバスを走らせるかといえば、そこに新しい市場を創り出したいからだ。ニューヨークではミュージカルは午後8時開演が一般的。ヤンキースは7時すぎにプレーボールだ。仕事を終え、軽く食事をして娯楽の時間が始まる。夜に行動がシフトすれば、一杯飲み屋だけでなく、アートやスポーツ、レジャーなどさまざまなサービスの、深い市場が生まれる。サマータイムのロンドンは夜の9時でも明るい。仕事の後に新しい別の空間がもう一つできるのだ。
満員の終電に乗って帰るだけの日本的なライフスタイルを転換する機会になってくれないか、と思う。今のライフスタイルで内需は増えない。考え方や意識を変える、それを含めての「24時間」だ。タイムシフト、フレックスタイムもやっていける。欧米企業の東京駐在員にとっては、夜中が本社の会議時間だ。そういう人々が動けば新しい需要が出る。アベノミクスでお札を刷るのなら、東京はその金が動く市場をつくる努力をする。
▼猪瀬直樹(いのせ・なおき) 作家、東京都知事。1946(昭和21)年11月生まれ。87年「ミカドの肖像」で第18回大宅壮一ノンフィクション賞、96年「日本国の研究」で文芸春秋読者賞。02年、小泉内閣で道路公団民営化推進委員を務め、道路公団の民営化を実現させた。その時の話をまとめた「道路の権力 道路公団民営化の攻防1000日」「道路の決着」。近著に「決断する力」「突破する力」「解決する力」。07年6月、石原慎太郎前知事から副知事に任命され、12年12月の知事選で当選。日本の選挙史上最高の434万票を集めた。ツイッターのフォロワーは31万人。趣味はテニスとジョギング。
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