NHK杯全国高校放送コンテスト
平成24年12月26日(水)、27日(木)の2日間、東京の千代田放送会館で、全国放送教育研究会連盟・NHK主催、日本放送教育協会共催による「第35回校内放送指導者講座」が開かれました。全国から120人の先生方が参加され各講座で熱心な研修が行われました。
■目的
高等学校における校内放送活動の意義と役割を確かめ、その指導についての諸課題を究明するとともに、具体的な指導の充実を図る。
■対象
⑴ 高等学校放送部(委員会・同好会)の指導にあたる者
⑵ 各都道府県コンテスト担当者および放送コンテストの審査にあたる者
■講座一覧
講座2 実践発表 十人十色の発声法 ~鹿児島純心の取り組みから~
講師 鹿児島純心女子中学高等学校 廣尾理世子
永田 真紀
講師 NHK放送研修センター日本語センター エグゼクティブアナウンサー 山田 敦子
講師 NHK総合リスク管理室 法務部弁護士 梅田 康宏
講師 NHKラジオセンター 専任ディレクター 荻山 恭平
■講座ごとの内容(概要)
参加の先生方が、8人から9人の14班に分かれ、日頃の指導の悩みや疑問と、具体的な解決策について意見交換を行いました。
【コンテストと日頃の活動】
- 大会後も切れ目のない活動が続けられるように配慮している
- コンテストの準備は、行事と重ならないように計画
- 大会に極力出場し、発表の場をかず多くこなす
- 普段の活動内容が大会に活きるよう仕組みをつくる(校内放送でラジオ番組など)
【素材の見つけ方】
- 新聞の切り抜き
- 興味ある事を掘り下げる、例えば友人との会話などちょっとしたことが番組やアナウンスに使えることを実感させる
- アナウンス原稿から、テレビ・ラジオに発展していくこともある
- 番組のネタがアナウンスになることも
- 生徒自身が「作りたい」と思えるものを見つけさせたい、愛着が必要
- 新聞を金曜日に1週間分切り抜き、2週間に1回企画会議(どうしてこの部分を切り抜いたのか、なぜ興味をもったのかを繰り返し考えさせる)
- 本やテレビ、ネットや図書館からも題材を
- 普段から疑問意識を持て(素材は足元にもある)
- 一人の人にスポットをあてる
- 何か1つ強く押せるものがあれば、それを軸に
- コンセプトをプレゼンしあい、客観的に見てもらう
- 心を引きつける、場所なら行ってみたいと思わせる
- 企画会議+台本をしっかり
【番組制作の日程】
- 早いところは前年12月から、遅くてもGW明けには目鼻がついていないと間に合わない
- 年明けからすべき、新年度(新体制)からでは厳しい(特にテレビは)
【取材】
- 対象者、対象物に密着、長期取材
- 季節に関わるテーマ(例えばエアコンとか)は1年かける
- 取材は4回、まずは関係作りから
- 1回、2回の取材ではだめ、やりとりする中で中身を深める
- 納得するまで取材
- 質問事項をきちんと見てあげる
- 聞く一方の形態と対話形式を使い分ける
- 生徒がなかなか取材に行かない(共通の悩み・・・)
- 部活動で活躍した生徒の所に取材に行く(へぇーと思うネタを探す)
- 観光課に行き「ゆるキャラ」の取材
【構成や制作】
- 情報はまず事実を伝える
- 誰に伝えたいのか、どうして伝えたいのか考えさせる
- 生徒がどれだけ新しい発見を見出し、それを表現できているか
- 誰かを幸せにできるといいねっていう気持ちで作ろう
- いかに試行錯誤させていくか
- テレビは、ナレーションに頼らず、伝える力のある画面が大事
- ラジオは「画面に映せない」という観点で、考えさせることができる
- 全国上位の作品を見させる(聞かせる)
- ティーンズビデオ・ティーンズラジオを過去7~8年分見せる(Nコンアーカイブも便利)
- ドキュメントはシナリオが命
- 「ふーん」で終わるのではなく、「へえー」で終わる作品がよい
- 構成は、まず興味を持たせる
- 時間をかけて何かをつくることは難しいが、それをしなければいけない
【顧問の仕事】
- 顧問同士の交流も大切
- 言い方一つで、生徒自身に考えさせる指導ができる
- 県内での連携、和(輪)が重要
- 地域での合同練習
【昼の放送】
- 新参の学校→お昼の放送を勧めます:1分半の原稿、天気予報(昼12時発表のもの)
- 部活動の結果報告を週1回(コメントももらう)
- 原稿のチェックは必要(フィルタリング)
- 部の紹介
- 放送部の活動が認知されるように
【読みの練習】
- 最初は高低のアクセントを徹底的に
- 「上から下へ」を短文で徹底的に練習
- 1つ1つの音を明瞭に伝える練習
- 短い文を繰り返す
- まず「ア」の音、口の形を正しく、鏡で確認
- 上手なアナウンスを聞かせる
- 全国に行けるときは、できるだけ連れて行く
- 読む速さが年々速くなっているのでは?→1文はサラサラと、でも間は保つ(人の脳に届く時間を考える)
- 1音目が出きらないと、2音目が上がる
- 普段話すときから、しっかりと息を吸う
- 意味で切る
- アクセント辞典はどんどん引く
- NHKのニュースを録音して反復練習(明るいニュースがよい)
- 全国大会のCDを聞かせる(いいものを聞かせる)
- 相手を意識させる
- とにかく複式呼吸
- 口のまわりの筋肉
- 口を膨らませて息を吐き出す
【アナウンス原稿】
- お昼の放送の原稿作成は、大会原稿にもつなげる
- 事実と異なる点がないかチェック(デスク:顧問がチェック、生徒同士でチェック)
- お昼の放送で特集を作っている
- ニュースは、将来に向けて伝えるものが必要(過去の事だけではだめ)
- 話しをしていく中で内容を絞っていく
- 出だしで要点を述べるような原稿がよい
- 自分で題材を見つけ、自分の足で取材する苦労が必須
- 耳で聞いて、文の構造がわかるようにかく(何を最初にもってくるかが大事)
【朗読】
- 耳で聞いてわかる所を抽出
- 情景描写、主人公の名前、心境描写が含まれている部分がよい
- 現代文なら400~ぎりぎり550字
- 一文の理解をとことん深めるまで生徒と対話
- 間を論理的に考えさせる
【部員確保】
- 入試説明会で中学生に周知
【技術面】
- カメラの外部入力端子は必要
- マイクは指向性、無指向性の使い分けも理解
- 学校行事の記録も、ただ録るのではなく、それを見る人の視点を忘れない
【機材の確保】
- 行事を録画するということで、視聴覚との併用
- 何でも屋を引き受け、認知され、機材を買ってもらえるようになった
【教育活動として】
- 作って終わるのではなく、交流が続いていくことがすばらしい
- 生徒が成長できる場である、生徒が成長できた点を確認できたときが幸せ
今年は、近年目覚ましい実績を上げていらっしゃる鹿児島純心女子中学高等学校の顧問のお二人に実践発表をお願いいたしました。日頃のご指導を実演して頂く形で発表をして頂き、目を瞠る講座となりました。
今回は特に、アナウンス・朗読の基本となる発声について、魅力的な声の引き出し方を見せて頂きました。
まず、最初に発声に関するお考えを話して頂きました。以下、頂いた資料の中から「理想の発声」に関する説明部分を引用します。
発声=骨格 × 筋肉 × タイミング
骨格
○がっしりした骨格は、「響きのある声」「安定した声」を生み出す。
○頭蓋骨の構造(額の広さ・あごの大きさ・ほお骨の張り具合・鼻の形など)が、音の広がりや響きを決めている。
筋肉
○滑らかな筋肉の動きは、「滑らかな言葉の運び」や「明朗さ」を生み出す。
○腹筋や背筋が鍛えられていれば、「説得力のある声」を生み出す。
タイミング
○その場にふさわしい息の塊をタイミングよく押し出すことが、適切なアナウンスにつながる。
このように、自前の身体をいかに使って声を出すか?ということをテーマに発声練習を行っているとのことでした。
そして、7人の高1・高2の男女生徒をモデルに一人ずつ発声をご指導頂きました。ポイントは以下の3つでした。
- ポイント1「身体ほぐし」―自分の身体が息の通り道であることをイメージさせる。
- ポイント2「顔いじり」 ―顔はスピーカーであることを意識させる。
- ポイント3「実演販売」 ―ギャラリーに「変化」を確認させる。
一人一人の声や様子によって廣尾先生が顔や体をいじったりほぐしたりしていくと、生徒の声がどんどん変わっていくのは本当に素晴らしいものでした。声を飛ばす方向を意識させることによっても声の通りや音色が変わってくることが感じられました。会場の参加者からも魔法のようなその変化に大きなどよめきが起こりました。
廣尾先生・永田先生のお二人がご自身の生徒さんたちとどのように日々の活動に取り組まれているかうかがうことができ、大変勉強になりました。発声という基本の基本をどのように指導していったら良いのかということに、具体的な理論や指導方法が示され、参加者にとりましてもあっという間の1時間でした。
アナウンス・朗読の指導法や審査の観点を、実際の審査体験を通して学んでいただきました。
59回大会の準決勝進出者の中から選んだ4名のアナウンスを会場のみなさんに審査していただき、集計結果が出るまで、グループごとに討議していただきました。会場の平均点、会場の最高、最低点、そして山田先生の点数、最後にコンテストでの点数をご覧いただき、その結果を受けて山田先生に解説、ご指導していただきました。一人一人についても、原稿に即して明確に審査すべき観点を挙げていただきました。このあと、観点を意識した上でもう一度聞き直しを行い、再確認しました。
朗読についても同じような流れで行いました。
○アナウンスに関してご指摘いただいた点の一部
- 自分の読みのパターンに当てはめていないか。読みをパターンに当てはめることで安心し、それ以上でもそれ以下でもない読みになりがち。きれいに読めていても、表現しきれないものが出てきてしまう。パターンではなく内容で読むことが大切。
- 癖やパターンは、自然に話すことで解消できる。息づかいを大切に、息に声を乗せて。
- 文章は長いと分かりづらくなる。原則として、耳に届く順に意味を重ねていくのが基本。見出しを立てて、魅力的なエピソードをいれる。問いかけのあとはしっかり間を取る。
○朗読についてご指摘いただいた点の一部
- まずは声に出さずに、しっかり黙読し、自分の中の問題点を消していく。作品の実態を捕まえる。それをせずに読み出すと、「音声化はしているが、描写ができていない」というようなことになる。
- 題材の選び方も大切。なるべく自分の体験と響き合わせて理解できる部分を選ぶ。
- 登場人物の表現は人物造形をしっかりしてから。安易にパターンで造形しない。町は教材に溢れている。日頃から人間観察を。
- 中身をつかんで伝えるためには、正しいイントネーションが大切。
- 古典は、「読み手が、作品の内容をしっかり理解して伝えようとしているか」それが伝わってくるかが大切。調子読みにならないよう注意して。
約半数の方が審査初体験でした。ベテランの先生方とのグループ討議も盛り上がりました。日頃の疑 問点を出し合う場としてもご活用いただきました。山田アナウンサーの実演によるご指導もあり、これ からの指導、審査に役立つポイントをたくさん学ぶことができました。
昨年に引き続き、NHKの弁護士梅田先生による著作権に関する講義で、今回は90分に時間を拡大しました。前半で著作権についての基本的な内容を、後半で著作権法改正の要点をご説明いただきました。
冒頭で梅田弁護士は「今日の講座でお話しすることは、一般的に著作権法上適正であるかどうかであり、コンテストの規定と必ずしも一致するわけではない。コンテスト応募にあたっては、その規定にそって作品制作を。」と断ったうえで、講義を進められました。
著作権法は著作物を生み出した者の権利を保護する法律で、その第1条は「権利を定め」「公正な利用」「権利を保護」「文化の発展」というキーワードが理解のポイントになります。過度の保護は「文化の発展」を妨げることになり、保護と自由のバランスが大切です。
- 著作権に対する制限 … ①発生 → 著作権が発生するのは「表現」のみ
②行使 → 公正な利用に対しては権利を主張できない
③期限 → 一定の期間が経過すると著作権は消滅
- 法で保護されるのは「表現」だけであり、「アイデア」「創作性のない部分」「事実」は保護されない。
どこからが違法であるかの判断については非常に難しいことを、映像の具体例や判例を挙げて説明してくださいました。
平成24年の著作権法改正(25年1月1日)において、いわゆる「写り込み」が緩和されることになりました。これは第三十条の二にある「付随対象著作物の利用」で、「写真の撮影、録音又は録画の方法によって著作物を創作」する場合の、対象事物・音から「分離することが困難」な「軽微な構成部分」に限られ、「著作権者の利益を不当に害」しないものをいいます。しかし、文化庁の説明を前提とする限り、今回の改正で増えた部分は限定的です。
- 「写り込み」は含むが「写し込み」は含まない(文化庁の説明)
→ 街頭の看板等は「写り込み」、ドラマ中にキャラクターのぬいぐるみが写る等は「写し込み」といえる。しかし、「写り込み」と「写し込み」の線引きは困難。 - 「軽微な」→ 文化庁の説明では「1~2割なら軽微」とあるが、割合で決められるものであるか、何をもって「○割」とするか等、実際には「軽微」の判断は困難。
- 「写し込み」は、「引用」(第三十二条)で解釈が可能な場合がほとんどであるが、「引用」として適正であることが必要。
- 「時事の事件の報道のための利用」(第四十一条)で、例えばクリスマスの街頭風景を伝えるニュースにクリスマスソングが流れている等は違法ではない。しかし、「時事の」「報道」に限られ、コンテスト応募作品は「時事」にならない。
- 著作物の写った画面をぼかす場合、「同一性保持権」侵害に該当するケースもあり得る。このほかにも具体例を挙げながら説明してくださいました。
著作権にかかわる事例は専門家の間でも解釈が分かれる場合があり、グレーゾーンが多いのが実情であるとのことでした。著作権の処理は放送部の指導の現場で常に課題となることですが、専門の弁護士から説明を受ける機会はなかなかなく、本講座は受講者に好評でした。
講義「ラジオドキュメントの作り方」
1.番組の企画立案の流れ
- ①テーマ決め
興味があるテーマなら何でも可
(自分たちが知りたい、取材したい、伝えたいというモチベーションにつながる) - ②ストーリーを描けるかどうか
→自分で一度ストーリーを考えてみる。どんな着地点にするのか。
取材した事実を積み重ねてストーリーを作る。 - ③なぜ今、このテーマなのか
・番組で伝えたいメッセージは明確に。
・タイミングは大事 - ④ラジオは音が命
・ラジオドキュメントを構成するもの
→ナレーション、インタビュー、BGM、現場音(現場音をいかにとってくるか) - ⑤主人公を見つける
テーマを象徴するような人、目標に向かって取り組んでいる人
主人公がいないと‥‥人の思いが見えてこない
2.番組制作の中身の収集
〈番組作りの流れ〉
テーマ決め
→ストーリーをイメージ
→取材・材料集め
→構成(事実に基づき)
→取材・ロケ
→構成
→編集
構成のパターン①
グラビア → 現状紹介 → 問題発生 → 再起 → エンド
グラビア:番組の表紙。この番組の見所の紹介
構成のパターン②
前説 → きっかけ → 目標設定 → 努力 → 結果
アナウンス(ナレーション)について
- ラジオは音だけがたより
できるだけゆっくり - 一文で短く
→聞きやすく、しゃべりやすい - 体言止めでリズムを
(ですます調が続くとだれる) - ラジオとテレビのナレーションの違い
ラジオ 見えるように、聞こえるように、におうように、一から説明する
テレビ 画像を補足する短いコメントにする。
3.番組制作で気をつける点
- 街頭インタビューは相手の同意が必要。無理にインタビューしない。
- 不特定多数の人がいて、個別に承諾を得るのが難しい場合、「高校の放送部が取材していること」を明示する。(腕章をつけるとか‥)
最後に‥
ドキュメンタリーは人間ドラマ。人が好き、人に寄り添う。頑張っている人を応援したい。
その思いを多くの人に伝えたい。
模擬審査
- 作品1 沖縄の返還後の基地問題について。
- 作品2 70歳の高校生の人間ドキュメンタリー。
- 作品3 学校の授業が面白くなるように生徒が企画。問題解決型。
- 作品4 物を食べるときの音にこだわり、食事について考える。
1.各班での話し合い
- 作品3、4の評価が割れた。
- テーマとまとめが一致していない。
- もっと主人公周辺の人に取材をするとよい。
- 社会問題に取り組んだのは評価できるが、自分たちの問題として深められていない。
- 最後のコメントがとても評価できる作品と、評価できない作品。
- 校内問題を作品にして問題はないのか。(校長は許可しないのでは‥)
2.荻山ディレクターから
作品1
- 最初のインタビューの人の情報がなく分かり難かった。番組の最初で分かり難ければ、最後までそれを引きずってしまう。
- 高校生のコメントが欲しい。自分たちを主語にしてストーリーを作って誘導していっても良かった。
作品2
- 構成がしっかりしている。主人公は好感がもてる。メッセージも普遍的でよい。(4作品中最高点)
- 音が足りない。(授業中の音を入れる)
- 家族や同級生のインタビューが欲しい。
- オープニングとまとめが一致していないので、家族が驚いたところから入っていけば良いかも。
作品3
- 聞いていて、共感がもてなかった。視聴者が共感できる内容にしよう。
- 授業中の音が不鮮明。音を取るときは近寄る!!
作品4
- ラジオの特性を生かしている。
- 話が深まっていない。
- 最初のテンポが速すぎる。
- インタビューの答えが不自然に感じられた。(身内に言わせている?)
3.質疑応答から
- インタビューの占める割合について
インタビューが多いのはよくない。よく使うのはシーンの終わりにインタビューを入れる。
人の思いはインタビューで伝える。客観的なところはナレーションに。 - 「伝える」=わかりやすさ 構成をしっかりする。そして丁寧に誘導する。
- インタビューは、こちらの質問をするだけではなく、相手の話を聞くのが大事。相手の話の中に次の質問のヒントが隠されてある。相手の質問から、次の質問が出来るように、日頃の会話をつなげる練習をしよう。(日常の会話がアナウンスの練習の場です!)